試合開始早々から、湘南は果敢にプレスを仕掛け、攻守の切り替えが素早く、帰陣して守備ブロックを形成したかと思えば、ボールを奪えば攻撃にも人数をかける。湘南が主導権を握った理由は、立ち上がりから見せたアグレッシブな姿勢に加え、システムも関係している。本来、湘南は3−4−3をベースにしているが、この試合では3−1−4−2のような布陣を取り、それが「湘南のシステムが予想とは違って、マークを掴み切れなかった」(茨田陽生)と、柏のマークのズレを引き起こした。
大槻周平の菊池大介の2トップに、岩上祐三と永木亮太が流動的に絡むため、柏は外に張り出す湘南のウイングバックを気にしつつも、中央の流動性に富んだ攻撃にもマークを受け渡さなければならない。柏のボランチとサイドバックは「誰に付けばいいのか」と困惑し、その混乱に乗じて湘南が15分に先制する。敵陣深い位置でサイドを揺さぶり、鎌田翔雅のロングパスを高山薫が落とすと、フリーの永木がシュート。GK菅野孝憲が弾き、これを大槻が詰めた。
続く20分、ポスト直撃の跳ね返りを詰めた大槻のゴールはオフサイドになったが、そこに至る経緯を見ると、結局は茨田と藤田優人の間で、どちらが中に入ってきた選手を見るのか、外に張り出す選手を見るのか、その役割が曖昧だったゆえに高山をケアし切れず、ポスト直撃のミドルシュートを撃たれている。守備バランスの悪さは一目瞭然だった。
一方、守備の局面でも湘南の戦い方は整理されていた。とにかく帰陣が早く、5バック気味になった最終ラインの前にボランチが蓋をする。橋本和の「窮屈な感じ」という言葉がまさに象徴的だ。柏も中盤のシステムをボックス型にしており、中央は密集。その窮屈なエリアで柏のパスが湘南の選手に引っ掛かるか、サイドを変えようとした柏の横パスをカットして、ボールを奪った湘南はスピーディーな攻撃を仕掛け、一気にゴール前まで運んだ。
柏の突破口としては、3バックシステム独特の、両脇に発生するオープンスペースを狙うことにあった。ジョルジ ワグネル、田中順也、工藤壮人らが、中央の窮屈なエリアから外のスペースへ流れると、ようやく攻撃に流れが生まれ、30分には左サイドのオープンスペースに抜け出した工藤が折り返し、ゴール前の田中が巧みなコントロールから左足シュートを決めて、1−1の同点に追い付いた。
後半、田中や工藤がバイタルエリアの狭いゾーンでクサビの縦パスを受けるシーンは何度かあったが、中央に人数を置く湘南の守備ブロックは堅く、どうしても中からは射抜けない。そうなるとピッチ全体の幅を使って湘南の陣形を動かしながら、両サイドのオープンスペースを突く攻撃が最も効果的だった。
「どこに行ってもいなされて、後ろで回されるのはいいけど、中盤を使われてサイドを変えられる」(下村東美)というように、ボールを下げさせることができれば、湘南もラインを押し上げられたのだが、柏は大谷秀和、茨田、ジョルジが中盤のエリアでも視野の広さ、テンポ良いパスワーク、巧みなターンを駆使してサイドを変えてしまうため、なかなかラインを押し上げられず、何度も揺さぶられ、ボールを取りに行ってもいなされ、柏のパス回しに“走らされる”状態となってしまう。65分前後には、システムを本来の3−4−3に戻した。湘南からすれば、流れを変えるため、やり慣れたシステムに戻す意図があったのだろう。しかし、柏にとっては逆に当初のスカウティング通りのタスクを遂行できる形となり、むしろ柏ペースに拍車が掛かった。
こうなるとセカンドボールは、ほぼ全て柏が支配した。時折、良い形で奪った時に、湘南も前半同様スピーディーなカウンターを仕掛けるが、疲弊も手伝ってミスを犯し、チャンスを逸するか、近藤直也、那須大亮に、個の能力で奪い切るというJ1のDFの貫録を見せつけられる。圧倒的に攻める柏がこじ開けるか、湘南が守りきってワンチャンスを生かすか、そういう展開が続いた。
そして延長戦濃厚かと思われた後半アディショナルタイム、左サイドのオープンスペースを駆け上がった橋本からクロスが放たれた。柏もゴール前の枚数が足りておらず、ネット バイアーノは鎌田と大野和成に挟まれる形でマークされていたが、最後はネットの高さが上回り、ヘディングシュートが決まる。待望の移籍後初ゴールで湘南を振り切った。
敗れた湘南だが、曹貴裁監督は「前半はここ数試合では一番良いパフォーマンスだった」と選手を称賛し、選手もまた「ゲームを支配されたけど、やれることはできた」(永木)と、敗戦の中にも新たに手にしたものが多かったようだ。思えば柏も2010年のJ2時代、天皇杯でG大阪に敗れはしたものの、自分たちのサッカーの手応えをさらに深め、その自信が翌年のJ1優勝につながった。湘南にとって現在の立ち位置の認識は、今後の昇格争いのみならず、来年のJ1の戦いに間違いなくつながるはず。
前半の戦い方に課題が残った柏も、ネットに待望の初ゴールが生まれ、公式戦連勝で週末のヤマザキナビスコカップ準決勝を迎えられる点は非常に大きい。スポーツである以上、勝敗が出てしまうのは仕方がない。それでもこの一戦は、双方にとってポジティブな要素の多い試合になったのではないだろうか。
以上
2012.10.11 Reported by 鈴木潤
J’s GOALニュース
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