勝者は相手をリスペクトし、敗者はその結果を素直に受け入れる。勝っておごることなく、敗れてさらなる上を目指す。スポーツの素晴らしさを見せてくれた。サッカーの面白さを見せつけてくれた。天皇杯3回戦 讃岐対浦和の一戦は、試合のどこを振り返ってもドラマがあり、今年の日本サッカーを語る試合にあげておきたいほどの内容だった。
レポートに入る前に少しだけ前置きをさせて頂きたい。筆者は、讃岐の担当でもなければ、浦和の担当でもない。ただ、九州というローカル地域を中心に、様々なサッカーシーンを追い続けている者である。佐賀県で天皇杯3回戦が行われたからレポートする機会を頂いたわけで、どちらかに情報が偏っているわけでもない。ニュートラルな状態でこの試合を振り返らせて頂いた。
まずは讃岐。
これほどまでにチームの約束事を徹底して試合を運ぶことに感服した。チーム戦術だけではなく、個人戦術でも讃岐のサッカーをやりぬく姿勢にチームスポーツの真髄を見せてくれた。
システムは4−3−3なのだが、浦和がボールを保持している状態(守備)では、MF吉澤佑哉が左サイドDFに入り5−3−2のブロックを引いた。これは、「浦和をサイドに追い込んで、数的優位を作る」(北野誠監督/讃岐)戦術を用いたからである。確かにGK側から見ると、2トップを上底とした5バックの台形状になる。言い換えると、センターラインが厚くサイドライン側は自陣ゴールに近づくほどに守備の人数が多くなる。浦和側からすると、センターよりもサイドにボールを運びやすい。そして、前線から徹底してボールを外に追い出すコースの切り方をしてきた。しかも、コンパクトな陣容を常に保っている。
これを試合開始から終了までをやり抜くのである。選手たちのチーム戦術の理解度と北野監督の戦術眼の高さのなせる業である。
圧巻は、後半11分(56分)に浦和が右サイドから展開し、中央から前線にボールを送ったシーンである。讃岐はあわてることなく争点に人数をかけてボールを奪いに行った。と同時にプレスをかけるたびに5枚のDFが上下にラインをコントロールするので、浦和の前線数人がオフサイドポジションに残ってしまう。浦和のラストパスを出した瞬間に、オフサイドにかけたシーンである。このシーンは、ぜひとも見直してほしい。
個人戦術でも同様に、パスを出した選手はそのあとのフォローに走り、新たなパスコースを作る。スローインでも、入れた選手は必ず後ろに返されてもいいポジショニングに入る。
ロングボールの争点では、必ず前に走る選手と後ろでこぼれ球を拾う選手がいるし、ゴール前ではワンタッチでショートパスをつなぎ相手選手を引き付けると同時に、ワイドな位置にフリーな選手が走り込んでいた。これは、チーム戦術というよりも、個人の技術とゴールを狙う意識を選手が身体に染み込ませているからできることである。
繰り返すが、チームの約束事を徹底して最後まで試合を運ぶわけで、チーム戦術だけではなく、個人戦術でも讃岐のサッカーをやりぬく姿勢を見せてくれた。
次に浦和である。
こちらは、それぞれの選手のイマジネーションを全員が共有して常にボールを動かしていた。ボールに触れずともポジショニングでカバーし、常に『Be Alert』な状態(常に研ぎ澄まされた状態)でいた。
DFでは、槙野智章が左サイドで相手選手と微妙な距離を取ることで、決定的な仕事を最後までさせなかった。右サイドでは、阿部勇樹が絶妙なタイミングでのスライディングで幾度となく讃岐の攻撃の芽を摘んだ。MF鈴木啓太は、前線とDFのバランスを取り、MF柏木陽介の攻撃参加を後ろから常にサポートしていた。MFポポがサイドに流れても、MF梅崎司がスペースを埋め、FW原口元気へのパスコースを確保していた。
圧巻は、90+3分の決勝点。MF小島秀仁がボールを受けた瞬間に、73分以降トップの位置に入ったポポが、一気に抜け出すシーンである。彼らだけではなく、チーム全員がそれぞれの特徴と“何ができるのか”を知っていないと、この日の浦和のサッカーはできないだろう。
繰り返すが、それぞれの選手のイマジネーションを全員が共有して常にボールを動かすだけでなく、ボールに触れずともポジショニングでカバーし、常に『Be Alert』な状態でプレーし続けていた。
ここにあげたのはこの試合で起きていた現象のごくわずかである。
75分に先制点をあげたMF矢島慎也(浦和)、88分に同点となるゴールをアシストしたMF堀河俊大(讃岐)、決勝点をアシストした小島秀仁(浦和)らは、途中交代で入った選手たちであり、見事に結果を残した。選手を知り、選手を信じ、選手を送り込んだ両監督の采配も忘れてはならない。繰り返すが、この試合のどこを振り返ってもドラマがあり、今年の日本サッカーを語る試合にあげておきたいサッカーの魅力満載の天皇杯3回戦であった。
余談ではあるが、試合前後に北野誠監督(讃岐)は筆者を見つけて、讃岐を率いてJリーグチームと戦うことで得る色々なサッカーを教えてくれた。ペトロヴィッチ監督(浦和)は、帰途に就くバスに乗り込む前に、第17節の鳥栖戦(埼玉スタジアム)を振り返り、第33節、鳥栖のホーム最終戦での再会を約束してくれた。サッカーの末端にいる筆者にも、さりげなく声をかけて頂いた両チームの監督に、それぞれのクラブの魅力とサッカーの奥深さを再認識した次第である。
サッカーを見ても、サッカーをしても感じる楽しさがある。加えて、それを伝える楽しさもある。
サッカーは、どこをとっても語るにふさわしいドラマと魅力があるスポーツである。
以上
2012.10.11 Reported by サカクラゲン
J’s GOALニュース
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