最近、サンフレッチェを取り巻く情勢が、大きく変わりつつある。練習を取材するテレビカメラが増えた。東京や大阪から取材に訪れる記者も増えた。ローカルではあるが佐藤寿人の特集番組が放映され、久しぶりにサンフレッチェだけをテーマにした番組が地上波で放映されることも決まっている。「カープもクライマックスシリーズに出られなかったし、広島の野球シーズンが終わったから」と言う人もいるが、カープの試合がなくてもこんな状況になったことは、記憶がない。
結果を出す、というのはこういうことなんだ。改めて実感した。2009年も上位で闘っていたが、あの時はACL圏内が精一杯。まだ、その重い価値が浸透していないこともあり、チームを取り巻く環境は日常のまま。だが今は違う。サンフレッチェ優勝の可能性があちこちで語られ、「優勝記念セールを企画したい」という声も非公式ではあるが聞こえてきた。
その空気感の高まりを何よりも証明するのは、観客数の増加である。前々節の鳥栖戦では試合前から真っ黒な雲に包まれ、台風接近情報が飛び交う中にも関わらず、約1万6000人のサポーターが集まった。現在の平均観客数が1万6463人。J開幕年(1993年)の1万6644人はおろか、過去最高だった1万7191人(1994年)に迫る勢いを示している。今節の柏戦でも多くのサポーターがビッグアーチに詰めかけることは確実で、あと6万9518人となったリーグ戦観客数30万人超え(34試合シーズンではクラブ史上初)も視野に入ってきた。「プロは結果が全て」という言葉はあまり好きではない(アマチュアだって結果が求められる)が、こういう文脈であれば頷ける。
ただ、そういう周囲の変化とは一線を画し、チームの雰囲気は変わっていない。練習場は明るい表情に満ちあふれ、若者たちの元気の良さが際立つ。森脇良太の言葉一つ一つに笑いが漏れる一方、精密さを自らに求め、ほんのわずかなズレをも許さない青山敏弘のストイックさもいつもどおり。周囲は優勝への「勝点計算」をしがちになるが、森保一監督は「1戦1戦、勝つしかない」と語った後、記者たちに「勝点計算ってどうすればいいんですか?」と笑った。
そんな広島の前に、前年王者の柏が大きな壁となって立ちはだかる。レアンドロ ドミンゲスや近藤直也ら主力を負傷で欠いてはいるが、それでも個の能力の集積量はリーグ有数。特にジョルジ ワグネルには何度も煮え湯を飲まされた。今年のアウェイ戦でも狭いコースからのシュートを決められているし、何よりも忘れられないのは、昨年のホームゲームでの彼の活躍である。切り札のミキッチを抑えられたあげく、精密機械のような左足で1得点1アシスト。全3得点に絡む活躍でスーパー・レフティは広島のリードをひっくり返した。
ここに来てリーグ戦での川崎F戦、ヤマザキナビスコカップでの鹿島戦と直接FKでのゴールを連発しているジョルジ ワグネルに対しては、最大限の警戒が必要となる。「柏は彼にボールを集めてくるだろうし、あの左足は本当に危険。頭を使った守備が必要」と森脇も指摘した。
ただ、青山は「チームとして意思統一をしっかりとやれれば、どんな相手でも闘える」と言明し、「僕らは相手に合わせたサッカーをしているわけではない。もし(選手が)浮ついていたり、人任せになったりすることがあれば(どんな相手でも)結果を出すのは難しい」と引き締めた。
「重圧は、どんな試合でも存在する。その重圧と向き合って男として立ち向かい、闘ってきたからこそ、僕らはこの位置にいるわけで。どんなプレッシャーにも左右されず、やるべきことをやるしかない」
選手会長の言葉に、一切のブレは感じない。そこには、森保監督の「相手よりもまず自分たち」という意志の固さがダイレクトに反映されている。対柏戦について指揮官は「レアンドロ ドミンゲスの負傷は、柏に『ハードワーク』の意識を強くさせた。非常に手強い相手」と警戒を怠らないが、一方で「やるべきことは、(どんな相手であっても)変わらない。最後には我々が勝利することだけを考える」。柔らかな表情の中に感じる強い意志は、開幕以来不変だ。
考えてみれば、逆転負けした昨年のホームゲームも、レアンドロ ドミンゲスは不在。前節の横浜FM戦でも主力3人がいない相手に引き分けており、相手のチーム構成が試合結果をダイレクトに動かすことはない。ネルシーニョ監督が何らかの広島対策をぶつけてくる可能性も否定できないが、そこを打ち破ってこそ、栄光への道は整備される。
「昨年は柏にホームで負けているし、そのリベンジを果たしたい。サポーターの期待を裏切らない準備は、できている」
あくまで静かに、しかし吐き出す言葉の一つ一つに力を込めて、青山敏弘選手会長は前を向いた。
以上
2012.10.19 Reported by 中野和也
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