中村憲剛が見せた自陣への全力疾走が、ピッチに立つ彼の覚悟を示していた。言い訳を排除した強い意志がそこから見えていた。
シーズン中の監督交代を経験した川崎Fは、風間八宏監督の指導のもと、チーム作りを進めてきた。「止めて、蹴る」から始まった指導は徐々にその歩みを進めてはいるが、必ずしも結果がついてきている訳ではない。28節終了時点で手にした勝点は39。例年であれば残留に必要な勝点を満たしているが、これがまだ安全圏ではないという事実が今季のJ1の激戦ぶりを表している。
川崎Fがホーム等々力に迎えるG大阪はリーグ首位の得点力を誇る一方、勝点29と降格圏の17位に低迷。05年にはこの等々力で優勝を決めた名門クラブの凋落は目を覆うばかりである。だからこそ、降格を免れようと一戦必勝の気持ちでこの試合に臨むはず。ただ、川崎Fとしてもサポーターの前で膝を屈する訳にはいかない。そんな勝利への思いを強く感じさせるのが、冒頭で紹介した中村のプレーだった。
日本代表の欧州遠征に招集されていた中村が、日本に帰国したのが18日の早朝6時ごろ。移動の疲れが確実に残る中、彼は一睡もせずに午後3時からの練習に参加する。特別扱いを受けること無く練習を消化した中村は、最終的に紅白戦を戦う。そんな紅白戦の中、ドリブルで攻め上がった際に判断を誤り、ボールを失ってしまう。チームメイトに信頼された選手の思いがけないミスに、戦況は一気に逆転。カウンターにさらされピンチに陥る。そんな状況の中、中村は50mに及ぼうかという自陣への全力疾走を敢行した。
仮にそこで走らなくとも誰も中村のことを批判したりはしなかっただろう。ただ、そこで中村は責任を果たすのである。常々、体調が悪くとも、体に痛いところがあったとしても「ピッチに立つ以上は言い訳はしない」と繰り返してきた彼の信念が50mのダッシュに込められていた。そしてそのダッシュは、負けられない試合に臨むチームに対する明確なメッセージだったように感じた。
4月に万博で対戦した時、川崎Fは混乱の極みにあった。相馬直樹監督の契約を解除し、望月達也コーチが臨時に指揮を執るという状況にあった。そんな試合は、敵地で奪った2点のリードを守ることができず、川崎Fは逆転負け。G大阪にシーズン初勝利をプレゼントしてしまうのである。
当時のG大阪は、必死だった。あれから22試合を経過した今も、彼らは必死である。だからこそ、叩く相手として過不足はない。もう失態は繰り返せない。同じ相手に対する同一シーズン中の連敗が屈辱なのはもちろん、そもそもこの試合は等々力で戦われる。本調子とは言えない今も、熱く声援を送ってくれるサポーターが集まる舞台である。
そんなG大阪戦に向け、川崎Fは3−4−3のシステムを試している。伊藤宏樹は08年に当時の関塚隆監督が指揮していたころの3バックとは全く意味が違うと話す。「いかに守るのか、ではないです。ボールを保持するための並び」なのだと伊藤は3バックについて説明する。前にボールを運べていればそれは風間監督の意図を実現することになるが、その際に必要なポイントの1つが攻守の切り替えという事になる。田中裕介は「この並びでやると、取ったボールを展開できないときついと思います。一度下げるときつくなる」と話す。だからこそ「恐れずに前に付けること。ボールを取って、そこで一休みではなくて、そこで展開していきたい」と述べている。G大阪はボール回しのうまいチームであり、ボールを奪うことが自己目的化してもおかしくはない。ただ、本来サッカーにおいてボールを奪うという行為は、攻撃のためにあるもの。だからこそ、ボールを奪った瞬間に攻撃へと意識を切り替え、できるだけ前方にパスして欲しいと思う。もちろんそれは出し手だけの問題ではないことも付け加えておこうと思う。
等々力に乗り込むG大阪は、まさに背水の陣でシーズンを戦ってきた。思うように勝点を伸ばせない中、仙台を相手にした前節は試合終盤にミスから失点。1点は返したが、結果的に1−2で敗戦を喫した。これにより、28節終了時点の現在も17位と降格圏を脱せないままとなっている。ただ、彼らにはレアンドロという点取り屋が加入し、得点力は格段に上がっている。また、中村と同じく欧州遠征に参加した遠藤保仁や、今野泰幸といった実力のある選手も在籍しておりセンターラインは強さを持つ。
17試合連続得点中のG大阪に対し、攻撃を指向する川崎Fがどう戦うのか。場合によっては激しい打ち合いを覚悟する必要もありそうだ。
以上
2012.10.19 Reported by 江藤高志
J’s GOALニュース
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