日本一残酷な、歓喜の一戦――。
J1昇格プレーオフの決勝戦で大分が手にしたのは歓喜だった。試合終了間際の失点に苦しんでいたのは、遠い昔のことのようだった。誰一人足を止めることなく、集中力を切らさずに相手の猛攻を防いだ後、ついに4年ぶりのJ1復帰の瞬間が訪れた。
リーグ戦6位の大分にとって、決勝戦での引き分けは敗戦を意味していた。序盤から個々の能力の高い千葉に圧倒された。「終始相手のリズムでボールを動かされ、なかなか思うようなサッカーができなかった」(田坂和昭監督)。それでも監督にもチームにも焦りはなかった。追われる立場の千葉と違い、追う立場が精神的に優位に立っていたこともあるが、今季の大分は我慢強さも特徴のひとつ。相手が主導権を握っても、粘り強く勝機を待つ。そうした我慢のスタイルを貫くことで、「自分らが100%の力を発揮してはじめて、まともに戦えるような相手」(宮沢正史)である強敵にも勝ってきた。2年目の安川有が「押し込まれていた方が集中できるし、ゼロで抑えれば何とかなると思っていた」と言うのだから、そんなチームが主導権を握られたくらいで焦るはずがなかった。したたかに、そして虎視眈々と相手の隙を狙っていた。
「(交代のタイミングを)じっくり待っていた。時間が経つにつれて向こうにプレッシャーがかかると考えていたし、残り15分くらいで0‐0だったらワンバックにしようと思っていた」(田坂監督)
展開を読んだ積極的な采配は、決勝戦でもモノを言った。まずは73分に疲れのみえはじめた木島悠に代え林丈統を投入。さらに攻撃力を高めるためにDFの土岐田洸平に代え高松大樹を入れ、両ワイドの選手を加えた5トップを形成する。付け焼き刃ではない。1−1−3−5の超攻撃的なシステムは、「あえて前からプレッシャーをかけて外からクロスを入れる、マークがつくなら相手も5バック、6バックになるのでセカンドボールを拾えるはず。その時に単純に長いボールを入れても跳ね返されるから、しっかり外から攻めること」と、勝たなければいけない“プレーオフの秘策”として、リーグ戦が終わってから丹念に練習してきたものだ。
そして、この采配が的中することになる。86分に宮沢のフィードを安川有は頭で競り、そのこぼれ球を森島康仁が林につないだ。オフサイドラインからタイミング良く抜け出した林は、「無心だった。体が勝手に動いたという感じ」とGKの頭上を越すループシュートを決め、喜びを爆発させた。
見事なゴールのあとは、千葉がオーロイを投入しパワープレーを仕掛けてくると、すかさずDFの若狭大志をピッチに送り込み、高松、森島もディフェンスラインまで戻る全員守備でアディショナルタイム5分を凌ぎ切った。
タイムアップの瞬間にはゴール裏が歓喜に包まれ、ピッチでは選手が喜びの涙を流した。試合後、選手の口から聞かれた言葉のほとんどは、「これまで支えてくれた方々に感謝し、恩返しできた」というもの。
2009年のクラブの経営危機で大量の主力を放出せざるを得ず、チームは解体した。そこから地道に再建し、2011年に就任した田坂監督のもとで戦える集団となった。また、多額の負債を抱えるクラブに、サポーターだけでなく、大分県民、自治体、経済界が三位一体となって金銭面も支えた。大分の力を結集して掴んだ勝利である。
ただ、歓喜に水を差すわけでもないが、実力はJ2の6位であり、クラブの債務超過も約5億円と途方もない額が残っている。田坂監督が述べたように「かなりの試練だと思う」。昇格はあくまでも通過点でしかない。本当の戦いは、まだまだこれからだ。
以上
2012.11.24 Reported by 柚野真也















