広島の「世界への挑戦」は、一つの区切りを迎えた。だが決して、自分たちを卑下する必要はない。「広島は特別な組織力を持ったチームだ」。敵将の言葉を、そのまま受け取っておけばいい。
アルアハリは対広島戦に対して、驚くほどの準備を施していた。例えば前半、そして後半。共に開始から15分に勝負をかけるかのような圧力の掛け方。これはJリーグで広島が見せた「入りの悪さ」を見越してのもの。特に国内リーグが中断中のアルアハリは情報が少なく、入り方はどうしても慎重にならざるをえない。そんな広島側の「思惑」をも、彼らは見越していた。
3分、後方からのロングパスで、アルアハリのエース・ゲドが裏をとる。ミキッチが着き、西川周作も前に出た。アクシデントは次の瞬間。接触を避けようとしたゲドの膝が西川の左ほほを直撃。リーグ戦34試合、すべてを守りきった守護神が大の字になった。ドクターが駆けつけるも、×印。骨に異常はなかったが、8針を縫う裂傷を負い、試合続行は不可能となった。
交代で入ったのは、ロンドン五輪代表候補GK・増田卓也。ポテンシャルは高いが、コンビネーションには不安が残る。選手たちは、若きGKに声をかけ、リラックスさせようと心がけた。だが、そこで「ミス」(水本裕貴)が起こる。
15分、右サイドバックのファティがドリブルで仕掛け、サイドとのワンツーで裏をとる。5人がいた広島のDF陣の間をかいくぐるようなラストパスは、詰めていたハムディの足下に。先制はアフリカの雄だ。
この時、広島に3つのミスがあったと水本は指摘する。「自分が(サイドに)前を向かせてしまったこと。(清水)航平が(ファティに)ついていけなかったこと。クロスへの対応。これほどミスが重なったことが失点につながった」。
だがここから、広島は見事な反撃を見せる。
アルアハリは5バック気味のラインを引き、1トップ2シャドーへの監視を厳しく保った。それでも千葉和彦・森崎和幸の「最後尾」からチャレンジのクサビが次々と入る。この勇気が、広島のリズムを創った。
最初の決定機は21分、森脇良太のパスが起点となって高萩洋次郎がシュートを放つ。24分にはミキッチのクロスに青山敏弘が飛び込む。FKのこぼれに水本がフリーでシュート。そして31分、CKのこぼれ球をミキッチがヘッドで落とし、佐藤がGKとの1対1を制してゲット。試合を振り出しへと戻した。
さらに広島は嵩にかかる。37分、千葉のスルーパスにミキッチが抜け出してクロス。飛び込んだのは高萩。完璧だ。DFゴマが高萩の背中に密着する。バランスを崩した。シュートは枠外。PKもない。
42分、青山がフリーで抜け出す。シュートか?いや、横パス。確実にゴールを狙ったが、カットされてしまった。
6度の決定機のうち、得点につながったのは1度だけ。この逸機の数々が、勝負の明暗を分けた。ポゼッション率は52対48。シュート数では6対4で、うち枠内シュート数は5対1。データでは明白に広島。しかし、逆転まで至れなかった。
後半、アルアハリはサイドハーフを最終ラインに参加させ、6バック状態で広島を迎え撃つ。この修正が功を奏し、前半は無人の野を行っていたミキッチがスペースをつけなくなった。そして57分、広島は一瞬の隙をつかれる。
フワリとした浮き球。アブートリカと千葉が競る。勝ったのは「アフリカのジダン」。千葉を振り払って前を向き、ルーキー・増田と相対。
一瞬の間。
そこでかわされる様々な駆け引き。だが、ここは「我慢できなかった」と増田が後に悔やむように、先に動いた彼の逆をついたベテランのシュートが決まった。
この後、得点を取ったことで活力が増したアブートリカが中盤に降りてボールキープすることで、アルアハリは広島に攻撃の糸口を与えない。広島がペースを取り戻すまで約10分。このタイムロスも痛かった。
苦しい広島。だが、運動量で優る広島はペースを奪い返す。69分、ロングボールに飛び出した高萩のクロスに佐藤!!惜しくも合わない。79分、清水航平の突破から得たFKに水本がニアで合わせるも枠外。あと一歩。だが、その一歩が遠い。
81分、森崎和のパスを受けた高萩が、伝家の宝刀を抜く。スルーパス。海外のジャーナリストが「忍者のようだ」と舌を巻いた佐藤の飛び出しは、アルアハリに絶望を与えた。完全にフリー。前にはGKのみ。
シュート。抜いた。入った?いや、ポストの外。2万7314人分のため息がもれる。
最後まで自分たちのパスサッカーを信じて闘い抜いた広島。コリンチャンスに挑戦できなかったことは痛恨だが、アフリカの絶対王者をとことん追いつめた闘いぶりは、見事というしかない。連戦や移動に加え、西川・森脇の相次ぐ負傷交代という様々な苦境を跳ね返してくれたサンフレッチェ広島を、誇りに思う。
あと1試合、アジア王者・蔚山現代との対決が残っている。素晴らしき2012年を締めくくる「広島らしさ」の発揮に、期待したい。
以上
・次回試合予定
12月12日(水)5位決定戦
広島 vs 蔚山現代(16:30KICK OFF/豊田ス)
テレビ中継予定:日本テレビ系にて16:00〜生中継
2012.12.10 Reported by 中野和也















