天皇杯は難しい、と言われる。開催時期もそうだし、契約更改などが絡んだモチベーションの維持の難しさもある。もちろん、常にアップセットの可能性をはらんだカテゴリーレスのトーナメント戦という恐さもある。それら全ての要因をひっくるめた難しさを乗り越えるのは、ひとえに戦う理由の強さにあるように思える。J1・7位の名古屋とJ2・14位の熊本による4回戦における両者の“戦う理由”はどうか。双方、非常に強く、意味のあるものだと言えるのではないか。
名古屋の戦う理由はこうだ。2010年の優勝を境に一気に“強者”の称号を得たチームは、翌2011年も素晴らしい強さを見せつけた。だが今季は負傷者の影響などもあり、最終節まで3位以内に入る可能性を残しながらも7位でリーグ戦を終えた。AFCチャンピオンズリーグはラウンド16、ヤマザキナビスコカップもベスト16で敗退し、ここまでは何一つ結果を出していない。これは2008年のストイコビッチ監督の就任以来、最低の成績といっても過言ではない。リーグ最終2節も連敗しており、終わり方も悪かった。選手の誰もが「不甲斐ない」と苦々しく振り返るシーズンで、少しでも巻き返したいと思うのは自然なこと。今年の天皇杯は名古屋にとって、意地にかけて全身全霊を注ぎ込むべき戦いなのである。
一方で熊本の理由は“恩師に花を持たせるため”だろう。11月、2010年より3年間指揮を執った高木琢也監督の今季限りでの退任が発表され、チームはひとつのサイクルを終えようとしている。就任初年度にJ2で7位と躍進したクラブは、高木監督の元で地力を蓄えてきた。今季獲得した勝点55がその何よりの証拠だ。この数字は7位となった2010年の54を上回っており、順位の差は試合数の差や他チームの成績によるもの。安定して勝点を挙げている実績は評価すべきことである。リーグ戦を勝利で終えられなかった選手たちとしては、ジャイアントキリングは去り行く指揮官への最高の餞別になる。
ともにモチベーション高く臨む名古屋・瑞穂陸での一戦は、それでも名古屋優位と見るのが妥当なところだ。名古屋の田中マルクス闘莉王を前線に置くスクランブル布陣は継続が濃厚だが、ストライカー・闘莉王の能力の高さはJ1でも実証済み。今季記録した9得点は全てFWとして挙げている上に、彼を押さえ込んだチームが鹿島や横浜FMなど代表クラスのセンターバックを擁するチームのみということを考えれば、熊本のDFラインにとっては脅威以外の何物でもない。得点力だけではない。闘莉王がポストプレーを成功させれば、名古屋の攻撃は加速する。この背番号4の大型FWの存在は、熊本が最も頭を悩ませる部分となるだろう。
しかし名古屋も油断は禁物だ。特に熊本の攻撃陣への対応は重要課題となる。1トップの齊藤和樹とシャドーの五領淳樹、武富孝介が演出する速くダイナミックな展開は、サイドの大迫希と片山奨典のサポートを受けて破壊力を増す。今季は中盤の守備に問題を抱え続けた名古屋にとって、シャドーストライカーは存在するだけでも嫌なもの。そのあたりの力関係をボランチの養父雄仁や原田拓、藏川洋平らが掌握できれば、防戦一方の展開を回避することができるはずだ。
ちなみにこの一戦は、藤本主税、原田、片山、筑城和人と熊本のメンバーに元名古屋の選手が多いことにも注目だ。藤本は負傷欠場が決定的だが、他3選手はぜひとも瑞穂陸のピッチで躍動する姿を見たいもの。名古屋で思うような活躍を見せられなかった彼らのプレーは、名古屋のサポーターにも受け入れられるに違いない。
そして名古屋のサポーターは、背番号14と38の姿を目に焼き付けることを忘れないでほしい。今季限りで契約満了となった大卒生え抜き11年の功労者・吉村圭司と、W杯2度出場のキャリアを誇る実力者・三都主アレサンドロを、ホームで見られるのは多くてあと2試合だ。別れはプロの世界に付き物だが、それでも寂しさは残る。この先何試合見られるかはわからないが、彼らには万雷の拍手と声援を送ってほしい。
奇妙な縁も見えてきた名古屋と熊本の一戦、キックオフが待ち遠しい。
以上
2012.12.14 Reported by 今井雄一朗
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