試合内容では五分と五分、むしろボールポゼッションでは川崎Fが優位に立ち、柏を上回る17本のシュートを放った。それでも試合運びの妙を見せ、「我々が決定力で上回れた」(ネルシーニョ監督)という柏が3−1で勝利を収めた。
中村憲剛不在とはいえ、川崎Fの中盤でのパス回しは巧みだった。稲本潤一が中盤の底でバランスを取りつつ、中盤2センターの風間宏希、森谷賢太郎がボールを引き出そうと上下動を繰り返し、ともにボールの収まる大久保嘉人とレナト、川崎Fの両ワイドが柏の最終ラインの前に空いたスペースに頻繁に顔を出すと、今度はサイドのスペースには田中裕介がスルスルと上がりサイドでも起点を作った。
柏側からすれば、風間と森谷にマークに付く大谷秀和と茨田陽生が本来のポジションから釣り出され、中央のスペースには大久保とレナトが絞ることによって、キム チャンスと工藤壮人、増嶋竜也とジョルジ ワグネルとの間での受け渡しがスムーズになされず、マークが掴みづらく、レナト、大久保の個のスキルの高さも相まって、柏の守備はやりづらそうに見えた。
「自分たちがボールを持って崩すというところまではだいぶいけるようになった。その分、相手のカウンターを食うところ、相手が正面に向かってくるというところでボールを奪われることは確実に減らさないといけない」(風間八宏監督)。ポゼッション志向のチームには、パスをつなぎすぎるあまり奪われた直後にカウンターを浴びるという難題が表裏している。5分、井川祐輔が森谷に縦パスを入れるが、森谷は茨田とレアンドロ ドミンゲスに囲まれ、ボールを奪い取った柏がカウンターを発動。レアンドロの鋭い突破からパスを受けたクレオは、キックフェイントで中澤聡太をかわし、右足のグラウンダーシュートでGK西部洋平の股下を通した。
全体的に見ると、柏の選手個々のプレーは精彩を欠いていた。シーズン始動が全40チームの中でも最も遅かったことで、依然コンディションが出来上がっていない上に、2月27日にはAFCチャンピオンズリーグのアウェイ戦を戦い、中国貴州への遠征直後の試合だったため、反応がワンテンポ遅れ、パス1つにしてもイージーなミスが目立ち、球際の競り合いなどでも本来の粘りがなかった。コンディショニングでは、明らかに川崎Fとの間に大きな開きがあったと言わざるを得ない。
だが一方で、そんなコンディション状況でも“勝負どころ”の集中力は研ぎ澄まされていた感があった。押し込まれても最終ラインでは体を張った守りができており、さらに大きかったのは得点場面。ファーストシュートで挙げた先制場面もそうだが、63分の追加点もレナトの横パスを工藤が奪い取り、一気に前線のクレオへロングフィードを送ったカウンターから生まれたものだった。72分の3点目も然り。「川崎は下でつないできたのでインターセプトが狙いやすく、くさびが入るタイミングで縦パスを狙っていた」という近藤直也が、稲本から矢島卓郎に入る縦パスをインターセプト。近藤自らドリブルで持って上がり、パスを受けた工藤の右足シュートがネットを揺らした。
昨シーズンまではこういう形でチャンスを作っても、決定打に欠け、なかなか勝ち切ることができなかった柏。今シーズンは工藤に加え、クレオというストライカーの存在によって、チャンスを確実にモノにできるようになりつつある。
78分には川崎Fも、レナトがCKを直接決めて2点差と詰め寄ったが、先に失点したことが大きく響き、リスクを冒して前がかりになった裏を、まんまと柏のカウンターに突かれ、相手の術中にはまってしまう。川崎Fにとって勝敗を分けた最大のポイントは53分のカウンターのシーンだろう。レナトの個人技から3対3という状況を作り、右サイドでフリーの小林悠がペナルティエリア内で受けたところまで完璧だった。しかし矢島へのラストパスが鈴木大輔のクリアによって阻まれたのは痛恨である。ここで1−1の同点にできていれば、その後の展開がどう転がっていたか分からなかっただけに、決定力の差がそのまま勝敗となって3−1という結果に表れた。
「3失点以外は、ゴール前にもつなげていたし、練習通りにできていた。あとはシュートの精度、決定打のところ。その中でカウンターを受けないようにする。難しいことではないです」(稲本)。確かにその通りである。川崎Fはポゼッションも試合運びも、ほぼ狙い通りのことができていた。あとはゴール前での決定打とカウンターへのリスクマネジメントをどうするかだ。
ACLの遠征直後の試合で、コンディションに難がありながらもしっかりと勝ち切った柏。結果は付いてこなかったが、自分たちの狙い通りのスタイルをある程度披露し、その中でも課題を見つけ出した川崎F。結果は対照的だった。それでも双方にとって意味のある開幕戦になったことだろう。
以上
2013.03.04 Reported by 鈴木潤













