キックオフ直後から鳥栖は湘南ゴールに襲いかかった。前線へロングボールを送り、セカンドボールを拾って、最後はこの日左サイドハーフに入った金民友が押し込まんとする。対して湘南は体を張って耐えたが、ロングボールとその競り合いで手にしたセットプレー、また藤田直之のロングスローなどによって、鳥栖は幾度も相手ゴール前の攻防へと持ち込んだ。「プレッシャーに行こうとすると裏返される長いボールがあるので」と曹貴裁監督が振り返ったとおり、湘南にとっては跳ね返しては押し戻される展開が続いた。
ただそのなかでも、湘南の標榜する攻撃は随所に発揮された。再び、曹監督は語っている。「コンパクトにしながらセカンドボールをしっかり前の3人に当てられたときはチャンスをつくれていた」。縦の意識を人一倍プレーに映す永木亮太のパスをスイッチに、湘南は敵の懐で速くボールを動かしチャンスを窺っていく。30分には梶川諒太や菊池大介を経て古林将太が右サイドを深くえぐり、キリノと高山薫、菊池がゴール前に走り込む決定機もつくり出した。そして湘南の先制点も、マイボールからの速い攻撃によってもたらされた。
50分、初先発の宇佐美宏和が競り合いに勝つと、ハン グギョン、菊池と繋ぎ、キリノがすかさず右サイドの裏を突く。そのまま力強くDFを振り切ったキリノがクロスを入れ、ニアで梶川が巧みに流し込んだ。「とにかく全力で飛び込んで行きました。キリノからいいボールが来たので感謝したい」湘南での、またJ1での初ゴールを決めた梶川は振り返る。キリノのたくましい突破力と梶川の技術、付け加えるなら、後半のキックオフ直後に鳥栖のセットプレーを阻んだGK阿部伸行を中心とする守備陣の奮闘が先制ゴールに結ばれた。
前節に続き追う展開となった鳥栖は、ロニに代えて野田隆之介を、終盤には水沼宏太に代えて清武功暉を投入し、前線の活性化を図る。「足元で収めることは意識していた」と語る野田は、縦パスから前を向くなど攻撃のリズムを変えた。すると82分、左サイドの裏に抜け出た金のラストパスに、ニアに走り込む清武の奥で野田が合わせ、同点ゴールを沈めた。
「自分でも分かるぐらい足が止まってしまった」と65分に交代した梶川が唇を噛んだように、あるいは試合終了のホイッスルとともに「足が攣り、酸欠もあって動けなかった」と、高山が地面に預けた体を起こせなかったように、終盤の攻防の背景にはロングボールへの対応にスプリントを繰り返した湘南のダメージもあった。たとえるなら車のギアだ。いまは回転数をめいっぱい高め、80km/hを3速で走っている。これまでも、まずはすべてを前から奪いに行き、そこから守備の匙を身につけてきたように、速度は落とさずに4速、5速とシフトアップしていく術は、極を知り経験を重ねることで育まれていく。「我々は最初からなんとなく後ろに下がってなんとなく回させるチームではない。自分に厳しい矢印を向けることで、選手たちがさらに成長していくと思う」と指揮官が語るように。
湘南は今季初の勝点を、鳥栖はアウェイで追いつき手にした勝点を、ともに次節へと繋げたい。糧は必ずしも、勝利にだけ宿るものではない。
以上
2013.03.10 Reported by 隈元大吾
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