一瞬だった。21分、家長昭博のシュートが倉田秋の足元にこぼれると、DFの背後のスペースへレアンドロが抜け出す。倉田もその動きをとらえて短いスルーパスを送り、フリーの状態になったレアンドロが右足で決めた。
39分には、今季初先発となった加地亮が右からふわりとしたクロスを中央へ。これは味方には合わなかったものの、藤本主税がつなごうとしたヘディングがG大阪にとって折り返しのようなボールとなり、そこへ詰めた武井択也が迷わずダイレクトで右足を振り抜く。
いずれも縦へのスピードを生かして熊本陣内に攻めこみ、ボックスの外でパス交換をしながら、ここぞというタイミングを逃さずに仕留めたゴール。熊本からすれば、試合への入りが非常に良かっただけに痛い失点である。これだけの決定力を持つチームを相手に、追加点を与えないリスクマネジメントをしながら1点ずつ返していくのは、至難の業であるように思えた。
しかし熊本にとってこのゲームの(さらにいえば今シーズンを通しての、ということにつながるのだが)大きなテーマだったのは、「我々の、熊本のサッカーをやり通す」(吉田靖監督)こと。実際、結果としては2点差をつけられた前半も、早い切り替えからテンポよく、かつ幅広くボールを動かし、内容では互角の戦いを見せている。その要因は、チームとしてのプレッシャーのかけ方が試合を重ねるごとに改善され、この試合でも「中盤のバランスも良くなって」(吉井孝輔)、「チーム全体の距離感が良かった」(黒木晃平)からだ。そうした“いい守備”ができたことで攻撃への移行もスムースになり、8分に右の藏川洋平のクロスを仲間隼斗、さらに9分も左の片山奨典から再び仲間、16分には仲間から齊藤和樹、そして相手DFのコントロールミスをカットして黒木が1対1となった30分と、前半に作った決定機の数は、G大阪に引けを取るどころか上回ってさえいた。
吉田監督はハーフタイムに「ラインを下げるな」と指示するのと合わせ、良い飛び出しを見せていた大迫希をあえて下げ、北嶋秀朗を投入。これに伴い仲間を右に移したのだが、北嶋が下がり目ながらも縦パスを納めて外からの追い越しを促す働きをした成果もあって、後半も熊本のペースは落ちなかった、というよりむしろ加速した。対するG大阪は、2点のリードが精神的な余裕をもたらしたのか、前半にましてボールへのアプローチが緩く、また守備のバランスを欠いて熊本の攻撃を食い止められない。
熊本の得点に結びついたのは58分のこと。右からのショートコーナーを受けた藏川のクロスを齋藤がヘディングで合わせると、G大阪のGK藤ヶ谷陽介が一度は弾いたが、矢野大輔が押し込んで熊本がまず1点を返す。さらに63分には、スローインからの流れで原田拓、齋藤、北嶋と浮き球でつなぎ、身体を張った北嶋の落としを仲間が好判断で右足ミドル。DFに当たってコースが変わったボールは、藤ヶ谷が反応したのと逆の方向へ吸い込まれた。雨の影響でピッチがややスリッピーになっていたことも踏まえ、「チャンスがあればミドルは積極的に撃て」という吉田監督からの指示もあったようだが、アグレッシブな姿勢を貫いた熊本が、ほんの5分間で同点としたのである。
68分にG大阪の長谷川健太監督は二川孝広と川西翔太を同時にピッチへ送り、家長をボランチへ動かして配置を変更。カウンターからチャンスの場面を作るが全体としてのサポートが遅く、阿部浩之が抜け出した83分の決定機も熊本GK南雄太に防がれ突き放せない。一方、熊本も追いついた勢いをもってその後もチャンスを作ったが勝ち越せず、赤と青の初対戦は引き分けに終わった。
「彼ら(日本代表の遠征に参加している遠藤保仁と今野泰幸)がいないからできないということではやっぱり、まだまだ未熟だと思う」と長谷川監督は試合後に述べているが、勝ちきれなかった要因を2人の不在だけに求めては、G大阪はもうしばらく苦しむことになるだろう。アンラッキーな失点で追いつかれたとは言えシュート数でも熊本を下回っており(13対12)、決して試合そのものを優位に進めることができたわけではない。岩下敬輔が言う「基本的な姿勢の問題」は、「セカンドボールへの予測、準備とか、その辺の運動量の差」(倉田)にも関係してくると思われるが、この点を短期間で修正する必要がある。
熊本も2点差を追いついて勝点1を加えたものの、防げた形の失点もふくめて、内容から考えれば「3」を確実に取らなければいけなかった試合。プレーオフ圏進出と昇格には、こうしたゲームを勝ちきっていく勝負強さが欠かせないが、現時点では追いつくに留まったということだろう。それでも、今季取り組んでいる攻撃の形が発揮される場面は徐々に増え、また開幕戦からの守備の課題もわずかずつながらクリアされているのも確か。視界がひらけるまではまだ時間がかかりそうだが、進む先に光の兆しは見えている。気を緩めることなく次節に臨みたい。
以上
2013.03.21 Reported by 井芹貴志















