レポートを書くのが難しい試合だった。「負け試合」(反町康治監督)を土壇場で追いついた松本と、“アウェイでの戦い”を遂行した長崎。もちろん悔しさはあっても、お互いに納得の勝点1だったと言えるのかもしれない。
前節からスターティングメンバーに変更のない長崎に対し、松本は岩沼俊介が前節・札幌戦で脚を痛めたことで大事をとる形となったが、初先発となる喜山康平が攻守に奮闘を見せるなど、選手層の厚さを改めて示したのは収穫の一つだろう。ただ、90分間を通じて自らのストロングポイントを誇示したのは長崎。ストロングポイントとは、水永翔馬の強さを生かしたスタイルだ。この試合でも高さと強さ、そしてポジショニングでも実力の一端を見せる。もっとも水永の存在感を際立たせたのが、チーム全体のディフェンス意識の高さ。「長崎はディフェンスラインに限らず全員守備の意識が強いチーム」と北井佑季が振り返るように、水永本人も含めた最前線からのチェイシング、また中盤から後ろも一貫して集中力が高く、アタッカーのペナルティエリア侵入を阻止することで付け入る隙を与えなかった。
とはいえ松本もホームゲームで消極的な姿勢を見せるわけにはいかない。浮いたボールが強風で流されるなか、バイタルエリアからペナルティエリア内までボールを繋ぎながらチャンスをうかがい、船山貴之と北井の2シャドーが相手ディフェンスの背後をしつこく突く。船山を起点にサイドからクロスで長沢駿や川鍋良祐ら長身選手が楔となれば、21分には喜山からボールを受けた船山が、スペースに抜け出した北井が、シュートを放つ。――しかし、いずれもゴールに結びつかない。
前半は流れが目まぐるしく変わるなか、0-0のままエンドが変わる。高木琢也監督にすれば、0-0はある意味プラン通り。逆に反町監督にしたら先制点をあげられなかったことは残り45分間の不安要素であっただろう。
後半開始直後、松本にチャンスが訪れる。玉林睦実のロングフィードを長崎ディフェンスの間のスペースから抜け出た北井が受け、船山を経由し再度北井へ。その後のこぼれ球も繋げ長沢がゴール前に飛び込む。が、これもフィニッシュには至らない。その後もサイドからのクロス、あるいはセットプレーでゴールを脅かすがやはりゴールを割ることができない。
すると65分、リスタートからの山口貴弘のロングボールを、飯田真輝との競り合いに競り勝った水永が頭で流し込む。アウェイチームにすれば、してやったりの先制ゴールが生まれた。
反町監督はここでパク カンイルを投入して4-3-3にシフトチェンジ。チームも「失点してから目が覚めた」と指揮官が苦笑したように、前への姿勢を見せ始めた。高木琢也監督は虎の子の1点を守るべく、「7:3、いや8:2でディフェンス:オフェンスだった」と逃げ切りの態勢に入る。船山のドリブル突破を脚で止めた藤井大輔が2枚目のイエローカードで退場、1人少なくなるという誤算は生じながらも、ゴール前に壁を築き、83分のCKでは早くもボールキープで時間を稼ぐなど連勝への執念を見せた長崎の前に、松本は万事休す、となると思われた。
後半アディショナルタイムに突入する直前、89分に試合は動く。エキサイティングな場面について経過を振り返ろう。
左サイドの鐡戸裕史のロングスローから、喜山のパスをパクが裏に抜け出そうとする船山に出すが、そのボールがエリア内の下田の手に触れたことで主審の笛が吹かれる。長崎の選手は副審の旗が上がっていたとオフサイドをアピールするなか、副審と相談した主審は改めてペナルティスポットを指した。スタジアム内が一種異様な雰囲気に包まれるなか、船山がきっちりPKを決めて、土壇場で試合を振り出しに戻すことに成功した。そのまま試合は終了。最終スコアは1-1で試合は決し、松本はまたも長崎から勝利を奪うことが叶わなかった。
試合後、“格下”の長崎とドローに終わったことで場内はやや張り詰めた空気が漂ったが、「5試合で勝点8は良いと思う」という反町監督の言葉には頷ける。ただ、この先に向けて気にかかる点は、試合によって良い悪いの波が激しいことと、これまでベンチから試合展開を観察していた喜山が試合後に語った「今季は集中力が切れる時がある」というところか。不安定さがまだ顔をのぞかせるのは事実で、この先の上位進出を目指す上で火急の改善点だろう。
一方の長崎は勝点2を失ったのは事実だが、『千里の道も一歩から』。昨季の松本もそうだったが、Jリーグ初年度のサバイバルには、積み重ねた勝点1がこの先の長い戦いに間違いなくプラスに作用する。
以上
2013.03.25 Reported by 多岐太宿













