時間は73分。ゴールを演出したのは、その直前にピッチに立った砂川誠だった。「０−０だったし、当然勝ちに行く時間。そのために出されたと思っていた。１、２回はビッグチャンスができるだろうという気持ちでピッチに入った」（砂川）。砂川は左サイドで起点を作ると、精度の高いクロスボールをゴール前へと送る。そこへフリーで飛び込んできたのは上原慎也。その上原のシュートは、一度は神山竜一が防いだものの、こぼれたボールを宮澤裕樹がゴールへと蹴り込んだ。これが決勝ゴール。札幌は、このゲームで最初で最後の決定機をゴールに結びつけた。３連戦の疲労を感じさせながらも、ゲームをコントロールしていた福岡にとっては悔やまれる敗戦。しかし、これがサッカーというスポーツだ。

「前半は、むしろ手応えを感じていた。深いところまで入っていたし、そこからの精度を高めていけば、可能性は広がっていくのではないかという認識がある」（岡田隆）。その言葉通り、前半の主導権は福岡。３連戦の最終戦は選手から運動量を奪い、その影響からかスピードは上がらず、オフ・ザ・ボールの動きも少なく、持ち味である小気味よいリズムは刻めない。それでもボールを支配して、低く構えて待ち構えるだけの札幌の守備網を、ジワリジワリと崩していく。その中心になっていたのは、金久保順、岡田隆、中原秀人の中盤の３人。ボールをつなぎセカンドボールを拾い、札幌にチャンスの芽を摘み続けた。疲労が色濃く残る中では及第点の内容。あとは、後半にやってくる勝負所を抑えるだけだった。

一方、「前半は本当に消極的な入りだった。相手のポゼッションに対してボールにプレッシャーがかからず、ディフェンスラインが下がってしまい、ボールを奪ってもゴールまで距離が遠く、なかなかいい攻撃ができなかった」と話すのは財前恵一監督。「後半はもっと全体でボールに行こう。まだ０−０、粘り強くいこう」と伝えて、選手たちをピッチに送り出す。その指示に応えるように、46分に古田寛幸がドリブルで仕掛けて左足を振り抜く。そして、右サイドでは、上原が高い位置に顔を出して攻撃参加するシーンが増えていく。だが、札幌も３連戦の影響を受けて決定機は作れない。時間の経過とともに試合は我慢比べの様相を呈していく。

最初に動いたのはマリヤン プシュニク監督。57分に石津大介に代えて金森健志を投入すると、続く65分には岡田、坂田大輔に代えて、船山祐二、西田剛をピッチに送り出す。そして、札幌を押し戻して再び主導権を奪いにかかる。動き出した試合にレベルファイブスタジアムに集うサポーターも、ひときわ大きな声で選手たちの背中を押す。一方、札幌は65分に岡本賢明に代えて内村圭宏を入れると、４−５−１の布陣から４−４−２に変更。さらに72分には、古田を砂川に代えた。そして、冒頭の決勝ゴールが生まれた。
福岡に逆転のチャンスがなかったわけではない。78分には奈良竜樹が２枚目のイエローカードを受けて退場。福岡に数的優位の状況が生まれたからだ。しかし、粘りを見せる札幌の守備を崩せないまま４分間のアディショナルタイムも経過。そして、札幌の勝利を告げるホイッスルが鳴った。

これで札幌は４試合ぶりの勝利、連敗を３で止めた。その試合を振り返って砂川は話す。「３連敗中も内容的には悪くなかったが、我々は若いチーム。いい内容で敗れるよりも、厳しい試合でも、ひとつずつ勝って、自信をつけて次のゲームに臨んだ方がいい。まして次はＧ大阪戦。ここで勝って入るのと、負けて入るのとでは精神的に違う。チームにとっては本当にいい結果だった」ここから札幌の反撃が始まる。

そして、敗れた福岡は３連敗。「我々は敗戦するような試合をしていなかった」とマリヤン プシュニク監督は悔しさが滲ませる。いつもの福岡の姿はなかったが、疲労が蓄積していたことを考えれば及第点の出来。勝負所を抑えさえすれば問題はなかった。だが、その勝負所で一瞬の隙が生まれたことが悔やまれる。それでも、下を向く必要はない。変化の真っ只中にいる福岡にとっては、成功と失敗の繰り返しは避けられない道。ネガティブにならずに、常に前向きなチャレンジを続けることで、変化の兆しは実力へと変わっていく。「心と体をリフレッシュして、自分たちのやるべきことをはっきりさせ、試合に出た悪いところをしっかりと詰めていきたい」と話すのは岡田。その先に福岡が求める姿がある。福岡の次のチャレンジは3月31日。水戸をレベルファイブスタジアムに迎えて第6節を戦う。

以上

2013.03.25 Reported by 中倉一志