最終ラインからのビルドアップに対し、大分の前線が猛然とプレスを掛ける。しかしそのプレスの網に掛かることなく、大谷秀和、栗澤僚一を経由しながら柏はサイドへ展開。工藤壮人、田中順也もオープンスペースに流れ、さらに左サイドバックに入った藤田優人が序盤から積極的な攻め上がりを見せる。状況によって中盤を飛ばした近藤直也のフィードも効果的だった。守備では切り替えも早く、前半の45分間の出来は、「ポジション、距離感、相手のミスを誘える守備、そこからのカウンターと、またポゼッションも落ち着いて崩せるシーンもあり、良い展開だった」(ネルシーニョ監督)というように、ほぼパーフェクトである。
37分、オーバーラップを仕掛けた藤田のくさびのパスは高木和道に奪われたものの、「そのまま切り替えを早くすればボールを取れると思った」という藤田は、攻め上がった勢いそのままに木村祐志にプレスを掛ける。木村と高木、大分の2選手に対し、藤田と田中、柏の2選手が挟み込むような形になり、後ろから田中の出した左足のつま先がボールを押し出し、工藤の目の前のスペースにボールが流れた。十分に懐に呼び込んだ工藤の鮮やかなシュートがネットに突き刺さり、柏が先制する。
大分の武器は間違いなく堅守と速攻だが、決して守備一辺倒のロングボール攻撃に傾倒することなく、自分たちがアクションを起こし、確実にパスをつなぎながら攻撃を構築していこうという意図が感じられる。だが、前半はパスをつなごうとするあまり、柏のプレッシャーが激しいゾーンでは、逆に“つなぐ意識”が仇となった。そこで田坂和昭監督はパスをつなぐことを前提としつつも「近いところにつなげばプレッシャーは感じるけど、そこを利用して1つ飛ばしたり、相手のサイドバックの裏を狙え」という指示を出す。
柏DFの近藤と増嶋竜也は、大分FWの高松大樹、西弘則と数的に同数となる。それをカバーするためにサイドバックが中央に絞ると、必然的に逆サイドに張る大分のウィングバックはフリーになる。片側のサイドに柏の守備陣形を引き付け、一気に手薄な逆サイドへ展開するというこの策と、前がかりとなって攻撃の姿勢を強めた大分は、前半とは見違える様な動きで柏を押し込み始めた。48分、安川有と丸谷拓也で左サイドを作り、ファーサイドの高松がヘッド。こぼれ球に飛び込んだ松本怜のシュートは大きくバーを越えたが、53分にも右サイドの辻尾真二のクロスは逆サイドを狙い、高松とキム チャンスの競り合いからこぼれた球を松本が拾う。前半のシュートの少なさを受けて「強引に撃っていこうと思っていた」と話す松本は、前半に工藤が放った先制弾とほぼ同じ位置から、同じ弾道のシュートで同点ゴールを挙げた。
同点以降も大分は柏を押し込んだ。守から攻へ転じても、ボールの失い方が悪い柏はすぐに大分のショートカウンターを浴びる。56分の西のシュートは右ポストを叩き、59分には松本のファーサイドへのクロスを木村がダイレクトで合わせたが、枠を大きく逸れた。こうした決定機をモノにできなかったことは大分にとって痛手となり、逆にバタついた時間帯に失点しなかった柏は命拾いをした。
63分、柏に勝ち越し弾が生まれる。藤田のクロスに田中がニアで勝負をするという形は、今シーズンの開幕当初に2人が試合に出られなかった時期、“サブ組”で築き上げた攻撃の形だった。藤田から「うまくいきすぎた」と自画自賛の言葉が飛び出すほど、絶妙のタイミングで2人のイメージが合致し、田中の見事なヘッドが決まった。
悪い流れに歯止めをかけるため、ネルシーニョ監督は鈴木大輔を投入した3バックへのシステム変更を考えていたというが、リードを奪ったことですぐさま手を打った。70分から近藤、鈴木、増嶋の3バックに変え、右ウィングバックに藤田、左ウィングバックに狩野健太を置き、マーキングをはっきりさせると「2トップを起点としたカウンターが潰れ始めてからは、大分の攻撃がロングボールに偏り始めた」(ネルシーニョ監督)。大分は長身の小松塁、スピードのある林丈統を投入したが、柏の3バックはその狙いを消し去り、弾き返し続けた。最後は、アディショナルタイムに工藤のゴールで3−1とした柏が辛くも勝ち切った。
内容的には2点差がつくほどの試合だったわけではない。ただ、前節の柏と仙台との試合がそうだったように、決めるところを決めるか外すかで、時として結果と内容は比例しないものとなり得る。後半45分間の大分は戦術的に整理され、柏の急所を的確に突く見事な戦いぶりを披露した。今回の敗戦に限っては「2、3回ポストに当たり運がなかった」(ロドリゴ マンシャ)とも言えるが、それでも田坂監督の「もしかしたら半歩かもしれないですけど、前進しているなということは感じている」という言葉に異論はない。4月から大分の巻き返しが始まっても不思議ではない。
柏はここから始まる1カ月間8試合という過密日程の初戦を勝てたこと、そして工藤と田中、2人の日本人ストライカーがゴールを挙げたことは大きかった。もちろんこの試合でも課題は見られた。ただ、勝ちながら修正していくのが柏のスタイルである。AFCチャンピオンズリーグのアウェイ水原戦まで時間は少ないが、4月3日の韓国のピッチでは修正した姿を見せ、ACLの3連勝へつなげてほしい。
以上
2013.03.31 Reported by 鈴木潤
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