ゲームは雨脚の強まった終盤に動いた。先にネットを揺らしたのはホームの湘南である。84分、途中出場の岩上祐三のコーナーキックに高山薫が反応し、ヘッドで巧みにねじ込んだ。「キッカーが祐三だったので、走りこめば触れるんじゃないかと思っていた」と、高山曰く。下部組織で育った思い入れのある相手に対し、一昨年の天皇杯4回戦に次ぐゴールを仕留めてみせた。
この日、高山はシャドーの位置でスタートし、左のワイドには大野和成が入っていた。「最近どうしても押し込まれる展開だったので、前から守備に行ってやらせないようにしようと思っていた」大野はそう振り返る。思えば、彼がこのポジションを務めるのは昨季のアウェイ東京V戦以来である。「後ろを楽にしようと思っていた」と続けたとおり、走力を活かしつつ一度ならず二度三度とボールを追い、攻撃にも加わった。それに伴いポジションを一列上げた高山は、前節の名古屋戦で4本のシュートを放った好感触も残っていたかもしれない、持ち前の守備での献身はもちろんのこと、前半からゴール前に顔を出すなど攻撃を引っ張ってもいた。先制点は、その意欲の先で奪ったものだ。
まるで一昨年の結果をトレースするかのようにも思われた高山のゴールに、しかし川崎Fもすかさず反撃に出る。素早く敵陣に運び、レナトがこぼれ球を拾うと、さらに登里享平が左サイドを猛然と駆け上がる。登里の放った低弾道のクロスは、「ここしかないという場所に出された」と鎌田翔雅が唇を噛んだとおりに湘南DF陣の間隙を突く。刹那、交代間もないパトリックが左足で押し込んだ。
終盤に追いかける展開を余儀なくされた川崎Fだが、とりわけ前後半の序盤にはそれぞれ決定的なチャンスを迎えてもいた。7分には大島僚太のスルーパスに抜け出した山本真希が枠を狙い、20分には左サイドを振り切ったレナトのクロスに大久保嘉人が反応した。後半にもレナトや登里がシュートを放つなどしてゴールを脅かす。だが湘南DF陣の一歩の寄せやGK安藤駿介の好守もあり、ゴールには届かない。
かたや湘南は、鎌田をはじめ後方から縦パスを弛まず、決定機に晒されながらもリズムを手繰り寄せていく。背景には、マイボールをしっかりと繋いでビルドアップするという課題に対する意識と、「思っていたよりも前に来なかった」と口々にその印象が語られた川崎Fの重心があった。また付け加えておけば、前節の名古屋戦をはじめ最近のゲームではアタッキングサードまで運びながらもスローダウンしてしまう印象があったが、この日はクロスやフィニッシュで攻撃を終えるシーンが多く、より直線的にゴールへと向かっていた。奪った直後の失点自体はたしかに悔やまれるが、それとて岩上と菊池大介がセカンドボールに食らいつき、激突した際のこぼれ球に端を発している。すなわち見方を変えれば、ボールに集中し、無骨なまでに執着した、らしい泥臭さと感じ入られてならない。
湘南はミスも多く見られはしたものの、課題の克服に対する意思を濡れそぼるピッチに映した。他方、自分たちのスタイルを脇に置き、徹底的に放りこんでくる対戦相手もこれまでにあったなかで、ボールの走りも儘ならぬ悪天候のさなか、繋いで崩しにかかる川崎Fの戦いにはある種の潔さも覚えた。両者ともに目の前の勝点3には届かなかったが、この日の歩みは今後の勝点3にきっと結ばれるに違いない。雨降ればこそ、地は固まろう。
以上
2013.04.07 Reported by 隈元大吾
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