富山の最初のポイントは立ち上がりだった。前節のＧ大阪戦で開始直後に失点したからだ。今回も15分前後までは東京Ｖのペース。13分にはサイドチェンジからのクロスで決定機をつくられたが、飛び込んだFW常盤聡が合わせ切れず難を逃れた。この時間を耐えて流れをつかんだ。
攻めへの意欲的な姿勢もみられた。８分にMF國吉貴博のシュート性のクロスをＧＫが弾きこぼれ球になったのがファーストチャンス。16分、23分にはDF舩津徹也が立て続けに攻め上がるなど相手を押し込んだ。「タイミングを計っていたら自然にそうなった」と舩津。パスミスが少なくボールを保持できていたからこそ序盤から３バックの攻撃参加が可能になった。この安定感は最後まで続き、勝点獲得の大きな要因となった。

両チームともに攻守の切り替えが早く、激しくボールを奪い合ってスピーディーに攻め合う。しかしリーグ最少失点の東京Ｖは自陣ゴール前での寄せが強靭かつ丁寧でシュートまで持ち込ませない。一方の富山も、相手のFW高原直泰と常盤のツートップにペナルティーエリアで仕事をさせないように最終ラインを高く敷き、裏へのボールには出し手へのプレスと受け手の徹底マークで対応した。

東京ＶのMF鈴木惇が「ホームチームの勢いを受けてしまって、ボールの落ち着かない、いったりきたりするゲームになってしまった。自分が中心になってもっとボールを落ち着かせることができればよかった」と振り返る。富山は攻守が目まぐるしく入れ替わる得意の展開に持ち込んだ時点で主導権を握ったといえる。前後半ともにシュート数で上回った。

後半もボールを奪っては仕掛けてくる富山に対し、東京Ｖは２列目も守りに追われた。前線が孤立する形になり苦しい時間が続いたが、それでも高い技術力によってワンプレーでビッグチャンスを創出してみせた。後半９分にＦＫから高原がヘディングシュートを放つ。同21分には鈴木の中央からのロングパス一本で常盤が抜けて決定機をつくった。そして同31分に先制点を奪った。DF金鐘必の右サイドからのフィードをMF西紀寛が頭ですらして常盤へ。ＤＦが高原に引き付けられており、スピードに乗って勢いのまま蹴り込んだ。

富山にとってもうひとつのポイントは失点の多い後半30分以降をどう乗り切るかだったが、押し気味に進めていたにもかかわらず再び失点してしまった。しかし、挽回するパワーをここからみせた。勢いを失うことなく攻め続けて同44分に同点に追い付く。ゴールキックをFW西川優大、MF木本敬介とつなぎ、FW苔口卓也が左サイドからクロスを入れる。走り込んできた西川が相手を背負いながらファーストタッチでわずかなシュートコースをつくり流し込んだ。
アディショナルタイムには東京Ｖがショートコーナーから富山のオフサイドトラップを外しFW巻誠一郎がフリーでヘディングシュートを放つ。これがＧＫ正面を突き、両チームが勝点１を分け合ってゲームを終えた。

富山、東京Ｖの球際で負けまいとする気迫が伝わってくるナイスゲームだった。後半19分、東京Ｖの選手が３人がかりでボールを奪おうとする姿は富山と同様にひた向きだった。後半40分、東京Ｖのベンチ前で三浦泰年監督とアウトボールを追った富山MFソ ヨンドクの体がもつれ、その後握手を交わしたシーンもスタジアムを沸かせた。緊張感と静かに伝わってくる情熱があり、この日スタンドから望むことができた立山連峰の凛とした雰囲気にマッチしていた。

一つひとつのプレーに歓声とため息、拍手が起こる。観客がプレーに集中し、試合に入り込んでいる様子が感じられた。サポーターが普段よりもチャントのテンポを上げ、応援方法を工夫しようと試みている姿勢からも思いが伝わってきた。「同点後も、もう１点取ることしか頭になかった。スタジアムに一体感があり、得点できるような雰囲気があった」。西川のコメントが社交辞令でないことを今回の来場者は知っているだろう。

以上

2013.04.29 Reported by 赤壁逸朗