ともにアジアを戦った広島、仙台、浦和がグループステージで敗退した中、Ｊリーグ勢で唯一柏だけがラウンド１６へ勝ち進んだ。しかも無敗、アウェイ全勝と、柏のアジアでの好調ぶりには目を見張るものがある。

だがアジアでの好調に対し、Ｊリーグではエンジンが掛からない。それが柏の現状である。AFCチャンピオンズリーグのセントラルコースト戦での勝利は、J1第８節大宮戦の敗戦を直視し、その教訓を生かしたからであるが、菅野孝憲に言わせれば「敗戦を教訓にするのは大事だけど、今の僕らは勝利を教訓にできていない」という。敗れた時はその課題をすぐさま修正することができるのに、勝因を継続して次の試合に生かすことができていない。だからリーグ戦では一向に順位が上がっていかないのである。

セントラルコースト戦の勝因は、リズムの悪かった時間帯には守備陣が体を張って耐え抜いたこと、そして後半のポジショニングが格段に良くなり、攻守においてボランチ中心に試合を進められたことが挙げられる。菅野の言葉通り、この勝利の教訓を横浜ＦＭ戦で生かすことは今節の大きなポイントだ。

横浜ＦＭは開幕６連勝が第７節の新潟戦でストップし、第８節甲府戦、第９節鹿島戦ともに１−１のドローと３試合勝星がないが、試合内容と結果が必ずしもイコールで結び付くわけではない。前節の鹿島戦はお互いがストロングポイントを消し合う展開となるも、上位対決らしく戦術的には質が高く、見応えのある一戦が繰り広げられた。
今シーズンの横浜ＦＭは、とにかく全体の組織バランスの良さが目立つ。現在得点ランキングトップに立つマルキーニョス、J1タイ記録となる１６本の直接フリーキックでのゴールを記録した中村俊輔の名前が頻繁に取り上げられるが、それ以上に中盤を支える中町公祐、冨澤清太郎のダブルボランチに好調の要因があると見ている。もちろん拮抗した試合での、中村のセットプレーは大きな武器だが、ダブルボランチの絶妙なコントロールがあるからこそコンパクトな陣形と選手同士が抜群の距離感を保てるわけであり、結局、前節で鹿島の良さを封じたのも、高い組織力と安定感がなければ到底できる芸当ではない。

悪い時の柏は、相手のコンパクトな陣形にはまってスペースを見出せない時、裏ばかりを狙ってボールを蹴ってしまい、セカンドボールを相手に支配されてさらにリズムを失う悪循環へと陥る。横浜ＦＭとしてはレアンドロ ドミンゲス、ジョルジ ワグネルにスペースを与えたくないため、ゾーンを狭めて彼らの威力を消しにかかるだろう。横浜ＦＭの術中にはまり、柏の悪癖が顔を覗かせた場合、高い組織力を持つ上に中澤佑二と栗原勇蔵のセンターバックを擁するとあって、裏へのボールはいとも簡単に弾き返され、セカンドボールの争いでも後手を踏む可能性は高くなる。それはすなわち、主導権を横浜ＦＭに握られることを意味する。
ここで、先述した「勝利を教訓にすること」とつながってくるというわけである。セントラルコースト戦は「相手はコンパクトだった」と工藤壮人が振り返った通り、バイタルエリアのスペースが空かず、攻撃ではかなり手を焼いた。それを打開したのは、後方から裏に蹴り込む単調な攻撃ではなく、ボランチを起点にした丁寧なビルドアップからの縦パスだった。長所を消され、拮抗した中でも、落ち着いて試合を運べばわずかな糸口は見つけられる。セントラルコースト戦後、菅野は「少し謙虚になりすぎているのかもしれない」とも話していたが、突破口を見出すためにはどのような試合展開になっても、焦れず、慌てず、どっしりと試合を進めるふてぶてしさが欲しい。

古巣対決となる谷口博之、狩野健太は、過去２年の対戦を振り返り、「柏との試合にはやりづらさがあった」と語っている。彼らがそう話すのは、柏にはどんな展開になっても動じないふてぶてしさと試合運びの妙を感じたからだろう。おそらく、試合内容は決して悪くなかったが、終わってみれば柏に２敗していたセントラルコーストの選手たちもそういう印象を持ったのではないだろうか。

勝利を教訓にする。それさえできれば、アジアでの戦い同様、柏はＪリーグでも結果を残せるはずだ。

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2013.05.05 Reported by 鈴木潤