堅い守備で横浜FMに数えるほどのチャンスを与えなかった前節は、鹿島らしい戦いと評価することはできる。イタリアで戦術を学んできたセレーゾ監督がチームに求めてきた献身性や、細かなポジショニングを怠らない集中力の高さが存分に表れた試合だった。
しかし、その戦いに満足していない男が一人いた。FWの大迫勇也である。
「お互いに探り合いになってしまいましたね。中途半端な位置でパスをまわすだけで、FWにとっては一番楽しくない。主導権を握って戦いたい」
ゴールを決めてこそ評価されると信じるストライカーは、耐える時間が長かった試合の後だけに、ホームでのこの試合は、自分の力を存分に発揮できる展開を臨んでいた。
ヤマザキナビスコカップで怪我を負った後、しばらく戦列から離れることを余儀なくされ、第7節の甲府戦から先発に復帰したが、本調子からは程遠い内容。ボールは足に付かず、シュートを狙って持ち味の強烈なシュートを見ることはできなかった。だが、前日練習で居残りのシュート練習を行うと、地を這うような強烈なシュートがゴールに突き刺さる。本人も「やっと戻ってきた」とその感触を喜んでいた。得点も3点にとどまっているだけに、4得点のダヴィと共に2トップの得点力に期待したい。

対戦相手となる湘南は、鹿島とは対照的に守備面で苦しんでいる。横浜FMに0-1、磐田に0-4、Ｃ大阪に0-3と3連敗している中で大量失点が2試合続いてしまった。曹貴裁監督は中二日で迎える鹿島との試合に向けて「ここで下を向いても仕方がないので、前に向けるような働きかけを彼らにする」と話し、「僕は、点を取れてない、点をたくさん取られたということから見るのではなく、どちらにしても点を取っていくスタイルをとっていかない限り成長はないと思っている」と、失点ではなく無得点が続く部分を改善したい意向を見せた。9節が終わった時点で、得点9、失点19はいずれもリーグワーストであり、どちらに手を着けるのか迷うところではあるが、チームのスタイルはJ2を席巻した時に見せた勢いのあるサッカーだ。それを取り戻すことが、苦境を脱する一番の特効薬と考えているようだ。

がっぷり組んだ試合もおもしろいが、やはりサッカーの醍醐味はゴール前での攻防だ。お互いの特徴が出る試合であれば、ゴールデンウィークの最終日を盛り上げてくれるだろう。
ただ、鹿島は、攻撃の中心を担ってきた野沢拓也が前節に右足甲の裂傷を負い、出場が微妙な状態だ。代わりに遠藤康などの出場が予想され、本山雅志や中村充孝はともに「準備はしてます」とコメントを残した。ホームスタジアムを埋める観衆のなかでのプレーは選手に力を与えてくれる。これまで出場機会が少なかった選手たちも、自ずと奮起してくれるはずだ。

以上

2013.05.05 Reported by 田中滋