勝負に「たら・れば」は禁物だが、それを回避するための準備はできる。相手を分析し、現状の自分たちを分析し、対策を練り、起こり得る試合中の状況をシミュレーションする。その精度が高ければ高いほど、勝利の可能性は上がる。今節の名古屋と仙台の一戦における勝敗の分かれ目はまさにその一点であり、そこに勝利への執念と覚悟を上乗せした仙台が勝ったのは必然ともいえる結果だった。
「たら・れば」を悔やむしかなかったのは名古屋だ。藤本淳吾をスタメンに復帰させ、いまだ本調子にないケネディを中2日でも起用してきた。このところ不安定なプレーを見せていた増川隆洋に代えてダニエルをDFラインに組み込み、疲れの見える田口泰士の位置にはベテラン中村直志を使って11人のメンバーを構成し、意欲的な仙台の挑戦を受けようとした。そこでまず存在感を発揮したのは自発的にトップ下にポジションを取った藤本で、小川佳純とのコンビネーションで右サイドを崩し、精力的なフォアチェックで攻撃から守備への切り替えを味方に意識させた。「いま必要なのは走ること」と試合後に語った通りのプレーでチームを牽引した背番号8は、明らかに相手の脅威となっていた。
しかし、ここで第一の「たら・れば」が生まれる。この序盤の攻勢で名古屋が得点を奪ってい「たら」、試合はまったく様相を違えていたかもしれない。アウェイということもあり慎重な入りをしていた仙台だったが、それでも得意のカウンターの鋭い刃は随所にちらつかせていた。前がかる名古屋の両サイド、特に左サイドバックの阿部翔平の裏のスペースを標的に、スピードのある太田吉彰がその急先鋒となる。そして28分、名古屋が中盤でのパスをミスしたところを奪うと一気に右サイドに展開。田中マルクス闘莉王がオーバーラップを仕掛けていたのを見逃さなかった角田誠がゴール前に攻め上がり、CBではない中村の上から力強いヘディングシュートを叩き込んだ。AFCチャンピオンズリーグ敗退を出場停止のためにスタンドで見ていた悔しさをぶつけた一撃で、仙台が先制。名古屋にしてみれば優勢に進めていたかに思われた中での失点で、二重のショックがチームを襲った。
ここからが第二の「たら・れば」だ。1点ビハインドで迎えた後半、名古屋のストイコビッチ監督は荒療治に出る。ボールにうまく絡めずにいた中村を早々に諦め、代わりに増川をピッチに送り込む。リーグ開幕戦以来となる、3バックシステムへの変更である。ボランチを藤本とダニルソンのコンビとし、インサイドハーフに小川とヤキモフスキーを配置。サイド攻撃の充実を図り、闘莉王の攻撃参加を促す意図があったフォーメーションだが、これも特効薬にはならなかった。後半開始15分を経過しても決定機はアーリークロスからのケネディのヘディングのみ。58分にはその隙を突かれてカウンターから柳沢敦に美しいダイビングヘッドをこれまた叩き込まれて2失点目を喫した。たまらず61分に玉田圭司と矢野貴章を入れて前線を強化したが、今度はポストやバーに嫌われた。名古屋にとってみれば、前半同様、決めるところで決まってい「れば」である。24分からの15分間で生まれた決定機は実に6度。うち2回がバーに弾かれ、3回がGKの正面を突くなど不運も目についた。しかし決定機は決定機に過ぎない。90分+3分の闘莉王のドリブル突破からのクロスに合わせたケネディのヘディングが枠を外れると、主審の笛が仙台の勝利を告げた。
仙台はACL敗退の悔しさをバネにした高いモチベーション以上に、確かなスカウティング力が光った試合だった。試合後の選手は口々に「ミーティング通りだった」と言い、名古屋のストロングポイントに対する明確な対処法を持った、迷いのないプレーを披露した。2得点の場面もそうだ。1点目は「名古屋の攻撃力を抑えた先には必ずスペースが生まれている。そこを突けばカウンターははまる」(仙台・手倉森誠監督)であり、2点目は「アタッキングサードに入ったらまずコンビネーションでスルーパスを狙うか、クロスだったら低くて速いクロス」という狙い通りのものだった。「あそこまで押し込まれる展開というのは嫌でしたけど」と渡辺広大が話したように、守備面で予想以上に押し込まれた面もあったが、勝利への道筋がはっきりと示されていたからこそ、粘り強さも備わったと言える。そしてその姿勢が、運も呼び寄せたとも。機能美に満ちた戦いぶりは、素晴らしいの一言だった。
対照的に名古屋は失点後の展開がことごとく裏目に出た形だ。仙台の策にはまり、後半などは完全に主導権を握られた。パワープレーでチャンスは作れても、それは大部分を偶発的な部分に頼るものである。途中出場で気を吐いた玉田は「空中戦からのこぼれ球とかでしょ? それでは苦しいとオレは思う」と苦言を呈した。後半は右ウイングバックとしても奮闘した小川も「選手も監督もそうですけど、どうにか打開策をと考えてやっている中で、なかなかいい方向に向いていない」とここ4戦で勝点1という苦境に顔をしかめた。試合開始から狙った形でチャンスは作れても、得点が決まらず逆に失点する。そして追いかける展開の中でバランスを崩し、さらに負のスパイラルに陥る。指揮官の言葉を借りれば、この日の名古屋は“弱いグランパス”だったから、負けたのだ。
「それでも土曜日には試合が来る。やり続けるしかない」と小川は言った。真理であり、プロの務めだ。この試合でJリーグ最多記録更新となる通算512試合出場を果たした楢崎正剛にも、容赦ないサポーターからのブーイングが試合後に浴びせられた。不動のキャプテンは「なんとか立て直したい。そのためにチームメイトを信頼し、もう少しまとまりのある戦いをしたい」と言葉を絞り出した。そのために必要なのは戦術か、スカウティングか、あるいは選手個々の努力か、それとも――。「幸いにも横浜FM戦まではまだ時間がある」とストイコビッチ監督は言った。願わくば、最高の準備をして、1週間後の豊田スタジアムに戻ってきてほしい。胸のすくような快勝でなくとも、戦う姿勢の見える、泥臭いサッカーで勝利をつかむ姿を、サポーターは見たがっている。
以上
2013.05.07 Reported by 今井雄一朗















