両チームの選手がウォーミングアップに現れる前から、両チームのサポーターによる熱い応援がスタジアム中に響き渡り、試合が開始されるとさらにスタンドのボルテージが増した。まるでカップファイナルを戦うかのようなスタジアムの高いテンションに選手たちの交感神経も大いに刺激を受けたのだろう、序盤からスピーディーかつハイクオリティーで見応えのある攻防が繰り広げられたのである。
「両チームとも非常に質が高かった」(ネルシーニョ監督)というように、質の高いプレーは至るところに見られたが、前半の2つのゴールシーンは特に象徴的だ。8分の柏の先制点は、右サイドで起点になった狩野健太に対し、横浜FMも統率のある組織でパスコースを消しながら、狩野をサイドに追い込もうとした。ここで狩野は慌てて前へ出すのではなく、絶妙のポジション取りをした大谷秀和に一旦預け、柏はボランチを経由して逆サイドへ展開。ジョルジ ワグネルは中村俊輔のスライディングにも体勢がぶれず、そしてサイドチェンジで陣形を広げたことによって栗原勇蔵、中澤佑二の両センターバックの間をわずかに広げ、そこにいたクレオに吸い寄せられるようなピンポイントクロスがジョルジから入ると、クレオが綺麗に頭で合わせてネットを揺らした。
対する横浜FMの同点弾は見事な縦への突破から生まれた。小林祐三には増嶋竜也、マルキーニョスには渡部博文がチェックに入ったが、このプレスの網を掻い潜って裏のスペースを突くには、“これしかない”というタイミングでマルキーニョスがダイレクトで落とし、増嶋の背後を取った小林が一気に縦へ。増嶋から近藤直也へのマークの受け渡し、その後の増嶋のポジショニングもニアを警戒しており、決して悪くはなかったが、小林の折り返しの精度が高く、走り込んだ兵藤慎剛の同点弾を生む。
この試合への横浜FMの狙いとしては「プレスをかけて、苦しい状態で蹴らせようと思った」(富澤清太郎)という。確かに、柏はリズムが悪い時には裏へのロングボールが多くなり、それを弾き返された上にセカンドボールを相手ボランチに拾われ、後手を踏む傾向にある。富澤の言葉を聞くと、おそらく横浜FMはそういう試合展開へ持ち込みたかったのだろう。
ただ、この試合でのボランチ同士の優位性ではわずかに柏の方に分があった。横浜FMはマルキーニョスと藤田祥史が近藤と渡部にプレスを掛けていくが、大谷と栗澤僚一がセンターバックからボールを引き出し、パスの供給源としてゲームを構築するため、横浜FMのダブルボランチ、中町公祐と富澤が寄せなければならない。だが、そうなるとボランチとディフェンスラインの間にスペースが生じ、「バイタルが空いていたので、ボランチの裏で起点になれればと思っていた」(狩野)と、今度はそのスペースを狩野、ジョルジ、クレオに使われ、柏の攻撃にリズムが生まれる。横浜FMにとっては、「どうもうまく回らない」という感覚は少なからずあったかもしれない。
何より、この日はクレオのボールの収まりが非常に良く、ポストプレーが冴え渡っていた。それをゲームの中で感じていた工藤壮人は「今日はポスト役はクレオに任せて、僕はクレオから受けることを考えていた」と振り返っている。60分に工藤が決めた鮮やかなミドルシュートは、まさしく受け手に徹しようという好判断と、そして「GKがファーサイドのシュートを読んでいる感じがしたから、あえてニアサイドを狙った」という瞬間的な閃きが合わさり、工藤のストライカーとしての資質の高さを改めて証明する一撃となる。
ロングボールが多かったのはむしろ横浜FMの方だ。ただこれも、前線に藤田を置いたのだから意図的な攻撃であろうし、AFCチャンピオンズリーグでターゲットマンへの対応は慣れている柏守備陣ではあったが、中盤が押し上げてそのこぼれを中村、中町が前向きで受けた時は迫力のある攻撃を奏で、仮にサイドに追いやられても、そこでファウルを得ることで得意のセットプレーからビッグチャンスに結び付けるなど、十分にチャンスを作り、ゴールの気配は常に漂わせていた。柏にリードを許した後も、中澤と栗原の2を後方に残すのみでリスクを厭わず、度々柏のカウンターを浴びて数的同数になりながら、中澤と栗原が1対1の局面で耐え抜き、その後の失点を許さなかったことは試合の緊迫感を継続させ、試合終了の瞬間まで一瞬たりとも見逃せない白熱した展開を生む要因になった。
結果的には少ないチャンスをモノにし、1点のリードを粘り強く守り切った柏に軍配が上がった。頭部を強打して途中で退いたGK菅野孝憲の勇気あるプレーや、テンションの高い試合にもかかわらず途中から入って好セーブを連発した稲田康志のプレーも称賛されるべきだが、こうした好ゲームは片方の出来だけではなく、レベルの高い双方が最高のテンションでぶつかり合わなければ生まれはしない。勝敗にかかわらず、両チームを同等に称えたい素晴らしい一戦だった。
以上
2013.05.07 Reported by 鈴木潤
J’s GOALニュース
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