この試合を紐解くキーワードは「我慢」だった。
尹晶煥監督が就任してからの3年間、鳥栖はシンプルで力強く推進するスタイルを貫いてきた。初のJ1への挑戦となった昨季も、自らのスタイルを貫き通すことで進化をしてきたのだ。今季はそのスタイルが相手に研究され、リーグ戦6戦未勝利と結果に結びつかないジレンマに陥っていた。
今節はゴールデンウィークの連戦最終日、中2日の過密日程、しかも激しさが予想されるバトル オブ 九州。尹晶煥監督は前節から先発メンバーを6人入れ替えたが、「誰がピッチに入っても遜色なく戦える」と、これまでと変らぬスタイルを貫くことを選手に伝え、送り出した。
守備は一人ひとりがハードワークに徹し、球際で負けない。攻撃でも各々の役割が明確だった。中盤で高橋義希、藤田直之がセカンドボールを確実に奪い、サイドに素早く展開。豊田陽平、早坂良太の2トップがゴール前のスペースへ抜け、最終ラインを下げスペースを作る。そして、その空いたスペースに2列目、3列目の選手が飛び出していく。
29分の先制点は、自陣からのロングパスを受けた野田隆之介が左サイドに流れタメを作り、後方からゴール中央に走り込んだ高橋がパスを受け、左足を振り抜いたもの。後半の3つの追加点は、「2トップが相手のスペースを突いて、クロスに対しては必ずニアに入ることを徹底した」(尹晶煥監督)ことで生まれた。
自らのスタイルを貫き、ほとんど主導権を渡すことなく勝利を掴み取った。90分を通じ、鳥栖がほぼ攻勢を貫けた要因として、大分の守備に一体感がなく、至るところにスペースが空いていたことが挙げられるが、鳥栖の選手の共通意識にフリースペースを使うことがあった。これは長い間、同じスタイルを貫き通したからなせる術である。加えて采配、個々の役割に明確さがあり、今後の方向性に明るい材料となる一戦となった。
一方の大分は、事前のスカウティングで「今季の鳥栖はロングボールから失点することが多い」(田坂和昭監督)と分析し、小松塁を1トップに高松大樹、森島康仁の大型FWを前線に配置するも、ロングボールのセカンドボールをことごとく拾われ、単発な攻撃に終始した。また、はじめから「セカンドボール勝負を狙っていた」はずだが、ボール奪取に長けたロドリゴ マンシャを出場停止で欠き、攻撃に秀でたボランチの選手を2枚置いても機能するはずもなく、全体のストロングポイントさえも消してしまったようにしか見えなかった。
田坂監督は就任当初から「攻撃サッカー」を謳っていて、これまでの2年間である程度成功を収めた。ところが一転、今季は勝ち星がつかず、「理想はボールを動かしたかったが、これまで勝てていないし、ダービーということで選手にプレッシャーがあったので、リスクを冒してボールを失うより、長いボールを入れてセカンド勝負を狙った」。方針を変換したと言えば語弊があるが、これまで自分たちのサッカーを追求していたはずが、相手に合わせるサッカーをした。その温度差が激しいため、選手は戸惑いゴールに対する執着心がぽっかり抜け落ちてしまった感が否めない。これが奇策か最善策かは、1試合だけでは策の賛否は語れない。次節以降の戦いで明らかになる。
以上
2013.05.07 Reported by 柚野真也















