サッカーで最近よく使われる言葉に「ミラー・ゲーム」というのがある。システムやスタイルが非常に似通ったチーム同士の対戦のことを表す言葉である。
この試合は、別の意味でミラー・ゲームと呼べる試合だった。前半のシュート数は横浜FCが1本に対して福岡が7本で、後半は横浜FCが7本で福岡が1本。鏡に合わせたような数字が示すように、前半は福岡がその狙いを存分に表現し、後半は横浜FCが試合を圧倒した。しかし、勝点3を得たのは福岡。その差は一瞬の場面でのパワーの差だけだった。
前半は必ずしも福岡の一方的な展開というわけではなかったが、ここ最近自信を深めている福岡のハイプレッシャーが、横浜FCを大いに苦しめる。福岡は、立ち上がりからボールサイドに人数を掛けるだけでなく、球際にも強烈に体を寄せてくる。もちろん「相手が前から来るのはわかっていた」(シュナイダー潤之介)というように、横浜FCにとってはスカウティング通りの状況であり、福岡が風上を生かして左サイドに裏にロングボールを多用することも含めて、福岡の狙いに対しては対応できているように見えた。事実31分まで、福岡のシュートは2本。
しかし、32分にオズマールが右サイドを突破してチャンスを作ってからの6分間に、福岡はそのパワーを見せつける。そして、波状攻撃を受け横浜FCがクリアし切れない中、38分コーナーキックからの流れで、思い切って中原秀人がミドルシュートを放ち、堤俊輔がコースを変えてゴールゲット。押している時間帯にゴールを決め切るパワーを見せつけて、福岡が先制して前半を終わる。
後半は、横浜FCの一方的な展開だった。マリヤン プシュニク監督が「理由がないのに下がってしまった」と語ったが、運動量が落ちてプレッシャーが掛からなくなった福岡に対して、横浜FCのパスワーク、サイドチェンジが機能するようになってくる。52分に野崎陽介、61分に永井雄一郎と早目に攻撃的な選手交代を行い、何度となく福岡ゴール前に迫るシーン、そして決定機も作る。しかし、最後の場面で精度を欠いてしまう。さらに、監督の意図したスタイルでないかもしれないが、風下に立ち、引いてしまった状況においても、福岡守備陣は体を投げ出してシュートをブロックし、ミドルシュートを何度も防いだ。そして、5分のアディショナルタイムの末、福岡は貴重な勝点3を持ち帰ることに成功した。
勝利した福岡にとっては、後半の展開は満足できるものではないかもしれないが、ハイプレッシャーを掛け続ける姿勢が、横浜FCにボディブローのようにダメージを与え、ゴールを奪う前の波状攻撃に繋がる流れを作ったことは、より自信を深めることとなったのではないだろか。「泥臭さ」という言葉で括られることも多いが、決して華麗なサッカーということではないものの、出来るプレーを120%発揮すること、しかも相手を根負けに追い込むパワーを持って続けることの大事さを改めて実感した試合となった。勝負に徹するマリヤン プシュニク監督のスタイルの勝利と言って良い。
敗れた横浜FCは、この敗戦でホームスタジアムであるニッパツ三ツ沢球技場で昨季のプレーオフから数えて7試合勝ちがない状態となった。サッカーの内容が悪いわけでもなく、後半の展開を考えれば逆転勝利をできるお膳立ては十分にできていた。しかし、山口素弘監督が「こういうゲームでしっかり勝点を得られるようなパワーをもう少し付けないとだめだなと思いました」と振り返ったように、よりゴールへの迫力を出していく必要がある。この試合でも、ミドルシュートよりパスを選択するシーンが数多く見受けられた。しかし、時には思い切りも大事となる。それは、福岡のゴールがミドルシュートを思い切って放ったところから生まれていることが示している。
シュート数が前後半で合わせ鏡のようになったことは、もちろん強風の風上・風下ということの現れでもあるが、加えて、風を生かす形で自らのサッカースタイルを表現できていたことの証明でもある。その上で、勝敗を分けたチャンス時のパワーも認識することが大事。その認識が、中盤戦、後半戦の成績につながっていくだろう。
以上
2013.05.07 Reported by 松尾真一郎















