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【J1:第16節 広島 vs C大阪】レポート:熱狂を生み出したラストプレーのドラマ。湿度93%の中で走り抜いた、両チームの選手たちに拍手を(13.07.14)

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ボールを持った森崎和幸の前には、3人の白いユニフォームがあった。
攻め込んだ杉本健勇のパスが楠神順平につながる、その寸前でファン・ソッコがボールを奪った後の、94分の出来事である。

安全策なら、右に開いたファンにボールを託すこと。だがその選択なら、守備側も圧力をかけ、攻撃を遅らせることができる。アディショナルタイムは4分、吉田寿光主審はいつでも試合終了の笛を吹ける状況だ。広島が勝つには、停滞は許されない。
森崎和は、リスクを負った選択を見せた。プレスに来た3人の状態と周囲の状況を見極め、横山知伸と扇原貴宏の間にわずかにできたすきまを狙ったのである。カットされれば、逆にカウンターを食らう危険もあったが、「あのパスコースは見えていたから」とあえて。

広島の頭脳=ドクトルカズは、違う選択肢を相手に与えながら、タイミングを外して右アウトサイドでボールを押し出した。受け手がミスしない質を保ちつつ、カットできない絶妙のスピードでのパス。湿度93%という多湿の環境下で90分走りきった後の冷静なプレー。誰にでもできることではない。
前節の特に前半、アグレッシブに厳しくいけなかったと自省した森崎和は、短い準備時間ながらタクティカル面での修正を施した。その成果を何度もボールを奪い、時には長い距離を走って前に飛び出すという形で表現し、チームに「やるべきこと」をプレーで示唆する。「弟の(森崎)浩司もそうだけど、カズのすごさは一緒のチームでプレーしていると強烈に際立つ」とは佐藤寿人の言葉。千葉和彦が「あれほど巧い選手だとは」と目を見張り、かつては李忠成(サウサンプトン)や柏木陽介(浦和)が「普通に日本代表クラス。本当にすごい選手」と賞賛した広島のドクトルは、ここでもすごい仕事を、自然とやってのけた。

センターサークルで森崎和からボールを受けた野津田岳人は、そのままドリブルで持ち上がる。
あがる、あがる、さらにあがる。
前には2人。高萩洋次郎が右に、石原直樹が左に流れた。C大阪の守備陣はその2人に対応せざるをえない。その瞬間、シュートコースはあいた。
今だっ。打てっ。
エディオンスタジアムに集った1万9244人中、約9割を占める紫のサポーターの想いがスタジアムの空気を震わせ、空間を伝わって野津田の背中を押した。
強烈な左足シュート。この日、何度も好セーブを見せていたキム・ジンヒョンが飛ぶ。が、ボールの勢いは鋭く、触るのが精一杯。こぼれた。紫の10番がいた。60m近く走り続けた、広島のプライド。高萩洋次郎が、丁寧に、丁寧に押し込んだ。

「あいつ、本当によく動いている。その姿からは『責任』というものを感じる」
広島でもっともタフに走る男=青山敏弘がそう言って感嘆する。技術・創造性・アイディアなどが賞賛される高萩だが、実はスタミナ面も驚異的。インターバル走を走らせてもチームトップクラスで、試合中に足を止めることはまずない。いつも細かくポジションを修正し、シャドーからボランチまで幅広く動いて、パス回しの中心となる。高温多湿の環境下でも決して投げ出さずにやり続けた「走る努力」が、最後の最後、劇的なゴールという形で結実したのである。

レヴィー・クルピ監督の言葉どおり、C大阪の選手たちは本当によく戦った。1トップの柿谷曜一朗を中心に、チーム全体の守備意識は高く、かといって守備一辺倒ではない。巧みなコンビネーションで何度か広島の守備ラインを割り、あと一歩というシーンを創りだした。
21分、塩谷司の股の間を狙った柿谷のスルーパスを南野拓実がゴールに流し込む。オフサイドとはなったが、C大阪が誇る若きタレントの「阿吽の繋がり合い」を証明した。81分には厳しいプレスからハーフカウンターを仕掛け、決定的なタイミングで山口螢がゴール前ら飛び出した。西川周作のビッグセーブによって得点にはならなかったが、エディオンスタジアムを震撼させるに十分のパフォーマンスだった。

「前半だけでシャツがグチョグチョになった」と佐藤寿人が苦笑いするほどの環境。走れば、息をするのも苦しくなる。そういう中で必死に走り、戦い、クオリティを見せたC大阪、そして広島の選手たち。これぞ、プロフェッショナル。「猛暑の中2日」で体力的に厳しくても、彼らは強い気持ちで戦い抜いた。だからこそ、0-0で推移した90+4分までの戦いにも飽きることはない。レビィー・クルピ監督が柿谷・南野を一気に替えて勝負をかければ、森保一監督も佐藤・ミキッチという「大駒」を2枚替え、若者に試合を託す采配を見せた。駆け引きも含めて、十分にエンターテイメント。しかしラストプレーに待ち受けていた森崎和・野津田・高萩を主役とする衝撃的なドラマのインパクトは、劇的という言葉が陳腐に感じるほどの展開。エディオンスタジアムは熱狂という沸点に達したまま、いつまでも冷めることがなかった。
 
以上

2013.07.14 Reported by 中野和也
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