負けられない試合、というのはこういう試合の事を言うのだろう。川崎Fは、前節の仙台戦を落とし、今季初となる連敗を喫してしまっているという点。この試合を落とすと、ホームの等々力でも連敗となるということ。F東京には8節の対戦でも敗れており、同一カード2連敗という不名誉な記録を回避しなければならないということ。いくつもの「負けられない」が重なる中、この試合が”多摩川クラシコ”であるという点がダメを押す。とにかく負けられない試合なのである。
そんな選手の思いを代弁するのが中村憲剛である。
「前の試合、過去の試合のことよりも、多摩川クラシコに勝つのがすごく大きいこと。チケットも完売だと聞いている。湘南戦で負けてしまっているし、なんとしてもね。ただの1勝ではないので」
中村が、リーグ戦34試合の中の1試合以上の重みがあると話すこの試合ではあるが、負けられない理由をもう一つ付け加えるのだとすれば、それは湘南戦、仙台戦と喫した連敗が、負けたことが信じられないような内容だったという点である。一般的にサッカーは結果論が全てであり、負けは負けだ。ただそれにしても川崎Fの試合内容は良かった。たとえば湘南戦は、ベタ引きの相手に対してチャンスを作り続け、最低限同点に追いつけそうな場面までは作っている。仙台戦ではポストやクロスバーを直撃するシュートを連発し、それ以外の決定機も複数作り出していた。ただ、それでもゴールを決められず敗れてしまった。負けはしたが、負ける内容ではなかったのである。連敗となった仙台戦後の会見で風間監督は「シュートを外したことを何か言うのではなくて、もしこれで入らなければ、我々はもっと多くのシュートのチャンスを作るようにトレーニングをしていきたいと思います」と述べている。チームが準備できるのは攻撃の形を作るところまで。その結果、生まれた決定機を決めるのは選手個人である。そうした現実を見据え、ブレずにチーム作りを進めるという意思表示だった。
そんな川崎Fは、新加入のアラン ピニェイロをメンバーに組み込み、練習を積んできている。チームへの登録直後の仙台戦に先発出場し、チャンスに顔を出していたアランは徐々にチームにも溶けこんでいるという。
「笑顔が増えてきたから慣れてきてると思う。練習中にそういう表情が出てきた。最初は緊張してたんだと思うけど。楽しそうにしてますよ」と話す中村は、そのアランの特徴として「球離れの早いブラジル人は珍しい」と述べ、「もう少し仕掛ければいいのにとも思う。そこのバランスは本人がJリーグに慣れてきて掴んでくればいい」と言葉をつなげていた。また中村はアランが仙台戦で見せた、裏に飛び出す動きについて「そういう動きができる事がわかっただけでもこの前の仙台戦は、収穫の一つでもありますね」と話しつつ、その動きに合わせるパスについて「俺の質だと思う。合わせられるようにね」と表情を引き締めていた。今までは大久保嘉人やケガで離脱中の小林悠が担ってきた相手の背後を取る動きが多重化することで対戦チームは抑えるポイントを絞れなくなる効果が見込める。それにより相手が最終ラインを下げてくれれば、川崎Fが押しこむ時間帯は増えるだろう。ただしF東京は前線の選手が高い位置からプレスを掛ける守備を行なうチームだ。そしてそうしたプレスが効果を発揮するには、最終ラインの押し上げが必要となる。
川崎Fにとって今季唯一の無得点試合であり、完敗した第8節の第21回多摩川クラシコは、F東京の前からのプレスによってペースを乱されたという側面があった。チーム内に自信がなくボールを前に運ぶことができなかったのである。ただ、あの時の対戦と今の川崎Fとでは明らかに状態が違っている。前回は不在だった中村とレナトが出場の見込みであること。また彼らが好調を維持しており、チーム内のコンビネーションも熟成されつつあるということ。それによりサッカーの内容が格段に進歩しているという状況にある。F東京が最終ラインを上げずにプレスをかけてくれば簡単に中盤にボールを回され、前線の選手はひたすら無駄走りをさせられかねない。だからこそ、F東京は全体をコンパクトにした上でプレスを掛ける必要がある。しかし、それには背後をとられるリスクが付きまとうため、湘南、仙台がやったように全体を下げる時間帯も出てくるはず。そうしたF東京の戦いの鍵をにぎる選手の一人である東慶悟は、累積警告によりこの試合は出場停止。前回の対戦時には、ルーカスの先制点の起点となるパスを入れ、試合を決める2点目も奪っている。前回の対戦時にはまさに、効いていた選手なだけにその欠場の影響は少なくないはず。ちなみに東のポジションには長谷川アーリアジャスールが起用される方向のようだ。攻守に動き回れる選手なだけに、しっかりと捕まえておきたい選手である。
F東京の攻撃に関しては、今季J1得点ランキングトップの14ゴールを量産している渡邉千真をどう抑えるのかを見てみたい。無失点試合が1試合しかない川崎Fにとって失点は覚悟の上ではあるが、渡邉を1点差の13ゴールで追う大久保嘉人の存在を考えれば、渡邉にはゴールさせたくはない。なお大久保自身は今、この段階での得点順位には興味が無いと話しており肩の力は抜けているようだ。彼ら2選手に加え、徳永悠平や平山相太といった国見高校出身選手による同門対決の側面もこの試合にはあるが、それについて大久保は特に感想は無いという。とは言え、中学からともにプレーし1学年下の徳永悠平については多少は気になる存在のようだ。1トップとして試合に臨む大久保とはそれほど多くのマッチアップの場面は見込めないが、それでも幼馴染同士の対決ということもあり、向き合うシーンがあれば注目したいと思う。
なお、14日に宮城スタジアムで開催される日本代表のウルグアイ戦にF東京から権田修一、森重真人、高橋秀人の3選手が選出されている。彼らにしてみれば、この川崎F戦での戦果を手土産に代表に合流したいはずで、そういう意味でモチベーションは高いだろう。そんな相手から川崎Fはきっちりと得点を奪い、前回の対戦の雪辱を果たせるのかどうか。楽しみな一戦である。
以上
2013.08.09 Reported by 江藤高志
J’s GOALニュース
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