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【J1:第20節 広島 vs 磐田】レポート:勝利を引き寄せた強烈なミドル。ファン・ソッコの爆発が広島を救う(13.08.11)

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「この試合は、運が決めた。ファン・ソッコの豪快なミドルシュートがネットを揺らし、山田大記の強烈なミドルはバーを叩く。そこが、両チームの命運を分けた」
こんな見識は、もちろん「表層的」である。確かに勝利するためには、運は絶対に必要だ。例えば、山田のシュートがバーを叩いた後、上に飛ぶか、下に落ちてゴールに入るのか。そのセンチ単位の誤差は、確かに「運」の範疇。ギリギリのところを狙える精度を持っているからこそ「バーの悲喜劇」が生まれる。また、先制点の場面で高萩洋次郎のシュートが倒れたチョ・ビョングクの身体に当たって佐藤寿人にこぼれてきたシーンを「運」と見る人もいるだろう。それもまた、見識が浅い考察なのだが、そこは項を改めて論じなければならない。

しかし、少なくともファン・ソッコのゴールを運と呼ぶのは、不見識すぎる。ソッコはDFではあるが、その両足は実にパワフル。高い攻撃力が持ち味で、シュート能力の高さは川崎F戦でも証明されている。フィジカルの強さと高さばかりが目に行きがちだが、状況次第では相手にとって危険なアタッカーと化すのが、ファン・ソッコという男。かつて横浜FMや柏で活躍した柳想鐵は、センターフォワードから最終ラインまで、ほとんど全てのポジションで高いレベルのプレーをこなした名選手だが、ファン・ソッコは柳想鐵の後継者たる可能性すら秘めているユーティリティ性を持っている。ただ、そのポテンシャルは広島サポーター以外には、それほど知られてはいない。

77分、高萩の高精度サイドチェンジを受けた時、ソッコの全身からは、ただならぬ「情念」がゆらめいていた。この試合を担当したカメラマンは、ボールを受けたその瞬間、「ソッコがシュートを打つ」と確信し、シャッターを切り続けたという。しかし磐田の守備陣は、そこを嗅ぎ取ることができなかったのかもしれない。縦方向は切ったがシュートへの警戒心は薄かった。ファン・ソッコの攻撃力に対する情報を彼らが持っていれば、もっと違う対応になったのではないか。
それにしても、ソッコの豪快なシュートの迫力たるや、他に比類するものがない。振り幅小さく強烈に右足を振り抜き、全身の力を一気にボールに集中。猛スピード、ライナー性のボールには猛烈なドライブがかかり、ストーンと落ちてネットに突き刺さった。
こういうシュートを放つには、力みすぎていては無理。伝説的なストライカー・久保竜彦が「振り子のような感覚で」と表現したシュートへの身体的なアプローチは、適度に力が抜け、足首がしなるような状況をつくり出すことが大切。そして、インパクトの瞬間にパワーを集中させること。久保が少年時代、田んぼの中で水を含んだ重いボールを蹴り続けたことで身につけたのと同じシュート感覚を、ファン・ソッコがこの大事なシーンで見せつけた。運などではない。入るべきして入った、必然のゴールだったのだ。

この試合は酷暑高湿という気候状況もあり、決して90分を通して「躍動的」だったとは言えない。しかし、試合開始前から様々なドラマを含んでいた。
磐田では絶対的な存在だった前田遼一と川口能活がベンチスタート。強い決意を持って選手を送り出した関塚隆監督の想いとは裏腹に、広島がミキッチを中心に右サイドを支配。彼のクロスが起点となって佐藤が先制点をゲットするも、前田と山崎亮平が入り4−4−2に変更したことで今度は磐田が少しずつ盛り返す。特に山田が右サイドに移り、駒野友一のオーバーラップをうまく引き出したことで、広島の左サイドは火だるまに。森保一監督はその左サイドを修正しようとソッコ投入を決断したたが、その直前に山田の美しいクロスが炸裂し、金園英学の同点ゴールが生まれる。「投入のタイミングが遅かったか」と唇を噛み締めた、その後悔を払拭するがごとくのソッコの勝ち越し弾。両監督の采配の妙が流れを揺り動かし、真夏の戦いの奥行きを深くした。

それにしても、86分に放った山田大記のバー直撃シュートから始まる磐田の波状攻撃は、エディオンスタジアム広島を埋めた2万人近い広島サポーターを凍り付かせ、磐田サポーターの心を沸き立たせた。知恵と技術、体力を総動員させて攻守に渡り合ったスリリングな攻防。自陣深くで守っていた佐藤が自らのクリアを追いかけ、相手のファウルを誘って磐田の猛攻を途切らせたその瞬間、紫のサポーターは大拍手を贈り、サックスブルー側が落胆。緊迫からの弛緩に、気づけば背中や額から汗がしたたり落ちていた。

広島は首位を堅持し、磐田の17位も変わらない。順位的な明暗は、大きな差がある。五分と五分の戦いを演じた両チームの状況の格差は、Jリーグの厳しさを浮き彫りにした。ただ、だからこそ、昨夜の勝者に驕りは必要ないし、敗者にも絶望は似合わない。
まだまだ、まだまだ。
戦いは続いていくのだから。

以上

2013.08.11 Reported by 中野和也
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