静岡が今年一番の暑さとなった猛暑日に、他より1時間早い18時のキックオフ。気温29.3度、湿度85％といううだるような蒸し暑さ。「熱橙　〜清水がいちばんアツイ夏〜」という8月のキャッチフレーズが皮肉に感じられるようなコンディションの中、両チームの選手たちは、その影響を感じさせない熱いプレーを見せてくれた。

立ち上がりでその姿勢をより強く見せたのは、アウェイの湘南だった。試合直前にキリノの突然の移籍が発表され、ゲームキャプテンの永木亮太が出場停止で、前節からスタメンを3人変更。今まで以上にハードワークしなければならないという覚悟は、チーム全体に漂っていた。そして前から積極的にボールを追いかけ、奪ったボールは少ないタッチでテンポ良くつなぎ、ドリブルも交えながら清水ゴールに迫っていく。序盤はしばらく湘南のペースで試合が進むかと思われた。

しかし、その流れはワンプレーで大きく変わる。開始8分、右サイドに開いてボールを受けた高木俊幸がドリブルで仕掛けて鋭いクロスを入れ、そのボールにゴール前のラドンチッチが滑り込みながら合わせてシュート。当たりはボテボテだったが、うまくGKアレックス　サンターナの逆を突いて清水の先制ゴール―ラドンチッチにとってはアイスタのデビュー戦でいきなりの初ゴールが決まった。

この日の清水は、杉山浩太がケガで欠場した中で、中盤は本田拓也を1人アンカーにして、その前に右・竹内涼、左・村松大輔という2人を並べる形に変更。ゴトビ監督が「本田とラドンチッチが加入したことによって、このシステムで戦えるようになった」と語る通り、本田の攻守にバランスのとれた能力とラドンチッチのキープ力の高さによって、より攻撃的な布陣を採用することができた。その効果は、たとえば「自分にボールが入ったときに、竹内くんと近い距離で良い関係ができたからやりやすかった」（高木俊）という言葉に表われている。
チーム全体の縦の距離をコンパクトに保って、竹内と村松が高い位置をとれていれば、ラドンチッチへのサポートも厚くなり、守備でも前からのプレスに行きやすくなる。逆に、DFラインが下がって竹内と村松も下がらなければいけない状態になれば、中盤との距離が空いて前線のラドンチッチらが孤立してしまうことになる。そう考えると、この日はシステム変更の良い面のほうが多く出ていたと言える。
とくに、一度ラドンチッチに縦パスを入れてから誰かがサポートしてワイドに展開していく攻撃がおもしろいように機能し、シュート数でも決定機の数でも今季トップクラスのゲームとなった。しかもラドンチッチは、暑さで彼自身の足が止まってきた37分にも、イ・キジェの左クロスから誰も止められないような豪快なヘディングシュートを決めて2得点。ゴトビ監督には「我々のチームにとって理想のストライカー」と言わせ、サポーターにも大きな期待感と夢を与えた。

それに対して湘南のほうは、ハードワークはできていたが「前半は前に行こうという意欲というか意識というか、どうしてもボールが下がることが多くて、攻撃にエネルギーが少し足りなかった」と曹貴裁監督は不満顔。そのため後半は4バックに変更して前にかける人数を増やし、反撃に転じる。立ち上がりこそ清水に少し攻め込まれたが、後半9分に菊池大介のドリブルから高山薫がGKと1対1になるチャンスを作り、そこから3回続けて決定機を作った。それらはいずれもGK櫛引政敏の好守に阻まれたが、その後は湘南ペースで試合が進む。その中で二度三度とチャンスも作ったが、ラストパスやフィニッシュの精度不足とGK櫛引の壁によってなかなかゴールが決まらない。

そんな中で後半31分、2分前に交代出場したばかりの岩上祐三が、決定機を阻止するファウルでレッドカードを受け、湘南は10人になってしまう。それでも、37分に菊池がカウンターのドリブルから左足のミドルシュートを決めてようやく1点を奪い、最後まであきらめない姿勢を継続。だが、40分に村田和哉にダメ押しの3点目を決められ（村田は清水での初ゴール）、それ以上の反撃は叶わなかった。

ただ、試合内容を考えれば、もし清水にラドンチッチが加入していなければ、結果もどうなっていたかわからない試合。この試合ではアタッキングサードでの個の力の差が浮き彫りになったが、湘南の新FWウェリントンも、前線でよく縦パスを受けて起点になり、終了間際にセットプレーから惜しいヘディングシュートを放つなど、加入後最高のパフォーマンスを見せた。彼の調子が上がり、チーム全体としてウェリントンを生かすプレーができれば、可能性は大いに感じさせる。
もちろん、4試合ぶりの白星を挙げた清水のほうは、湘南以上に明るい材料が多い。ラドンチッチも本田も、まだまだコンディションを上げられる余地があるし、周囲との連携を高めていけるだろう。8月の残り4試合は非常にタフなマッチメイクが続くが、そこでこの良い流れを生かせるかどうかが、上位に迫れるかどうかのカギを握る。

以上

2013.08.11 Reported by 前島芳雄