オズマール・フランシスコ・モレイラ・ジェヅイノ。
彼を初めて見たのは1年前。夏真っ盛りの7月の雁の巣球技場だった。ブラジル・クリチーバは、日本から見れば地球の裏側。気温が2〜3度しかない真冬。30度を超す猛暑と正反対の気候に苦労しているように見えたが、とにかく足が速いというのが第一印象だった。
初めて話したのは、福岡と契約を結んだ8月10日。地元紙の記者と2人で、日本でプレーすることについての意気込みを聞いた時で「明るい若者だな」という印象を受けた。
そして、奥さんの祖父母が日本人移民しかも福岡出身であること。その祖父がブラジルで「TAISYOU」という日本料理屋を開いていること。そのため、オズマールは、のりまきや白いごはんが大好きだということ。そんな話を聞きながら、日本に縁がある選手だなと思ったものだ。
ファン・サポーターを大事にする選手だった。雁の巣球技場でファン・サポーターのサインに応じながら、こんなことを話していた。
「こんな経験はブラジルではしたことがありません。私にとって、サポーターが練習を見に来てくれて、一緒に写真を撮ったり、サインをしたりというのは夢に描いていたシーンでした。それがいま現実になっていることをうれしく思っています。そのすばらしさ、大切さを噛みしめて皆さんと接していきたいです」
印象通り明るい選手だった。さすがに試合に敗れた後のミックスゾーンでは悔しい表情を見せていたが、練習を終えてロッカールームを引き上げてくるオズマールが笑っていなかった日を思い出すのは難しい。真っ先に覚えた日本語は「マジで〜?」。ファン・サポーターだけでなく、報道陣を見つけると、いつも親指を立てて笑顔を振りまいた。
「日本で活躍して、将来は日本代表になりたいなと思っているんです。サッカーゲームでは日本代表に自分を登録してプレーさせていますが、いま日本はワールドカップの準決勝まで行っていますよ」
茶目っけある表情で話していた。
しかし、試合になると表情が変わった。鋭い眼光と、他を圧倒するスピードでボールを追いかける姿は圧巻。決して器用なタイプではなかったが、とにかく、いつも全力疾走だった。「どんなときでも諦めずに全力でプレーするのがオズマールです。たとえ劣勢であっても全力でプレーすることで何かが起こるかもしれません。1回やっても2回やってもダメだとしても、最後の1プレーで何かが起こるかもしれません。ですから、最後まで、諦めずに、全力でプレーするのです」と話していた。
そんなオズマールをファン・サポーターも愛した。福岡で残した記録は23試合に出場して5得点。記録だけを見れば平凡なものだったかもしれない。けれど、そのプレーと明るい性格は、記録以上のものをアビスパサポーターに残した。ピッチに登場すれば、スタジアムには「オズマール」コールが響き渡り、雁の巣球技場では、いつも大勢のファン・サポーターに囲まれていた。愛媛への期限付き移籍が発表された8月10日も、彼の誕生日を祝うために、福岡でのプレーを感謝するために、そして新たな土地での活躍してほしいという想いを伝えるために、多くのファン・サポーターが雁の巣球技場にやって来た。そんな1人1人といつものように笑顔で接していたオズマール。でも、最後の挨拶を私とかわした時、彼の瞳には光るものがあった。「やっぱり感傷的になってしまいます」。それは彼が雁の巣球技場で初めて見せた涙だった。
今季ここまでは、オズマールにとって不本意な日々だったろう。開幕前にコンディションを崩して出遅れ、新たに指揮を執ることになったマリヤン・プシュニク監督の戦術になじめない日も続いた。
移籍は挫折ではない。それは新たなサッカーのスタート。福岡で積んだ良い経験も苦い経験も、全てはサッカー選手としての糧。それらを活かしてさらに大きくなるチャンスだ。今回の移籍をそう捉えてほしい。
最後に、彼は次のように話してくれた。
「私は日本に散歩にやって来たわけではありません。J1でプレーするという目標もあるし、いつかはビッグクラブでプレーしたいという夢もあります。もっともっと、いい仕事ができるように頑張ってきます。そして、クラブからは離れてしまいますが、福岡がJ1に昇格できるように応援しています」
彼にさようならは言わない。今までがそうであったように、新しいクラブでも常に全力疾走でプレーし、ひと回りもふた回りも大きくなってこい。それが福岡のファン・サポーターの思いだ。頑張れ、オズマール。
以上
2013.08.11 Reported by 中倉一志
J’s GOALニュース
一覧へ【J2日記】福岡:さようならは言わない(13.08.12)
奥さん・お子さんと一緒に、サポーターと記念撮影。多くのファン・サポーターがオズマールに会いに雁の巣球技場にやって来た
子どもたちに囲まれるオズマール。明るい性格が、多くのファン・サポーターをひきつけた
右から、前田知洋通訳、オズマール、そして筆者。またスタジアムで会おう













