前節、とりぎんバードスタジアムで行われた下位同士の直接対決、18位・鳥取と16位・熊本の一戦は、それぞれにチャンスはあったもののゴールは生まれず、スコアレスドローに終わった。今節、同じとりスタでの、やはり下位同士の直接対決となった19位・鳥取と17位・富山の対戦は、一転して点の取り合いに。残り5分を切ってからは3得点が乱れ飛んだが、アウェイの富山が勝利を飾った。
序盤は、左右のアウトサイドも下がって引き気味に構える富山に対し、鳥取がシンプルにディフェンスラインの背後を突く攻めでゴールを脅かす。12分には実信憲明の縦パスから、プロ初先発の辻正男が惜しいシュートを放つなど、悪くないリズムで試合を進めていた。
ところが27分、その辻が交代を余儀なくされる。5月に右大腿二頭筋を肉離れして戦列を離れ、前節の交代出場で復帰を果たしたばかりの辻は、復帰までの過程で負傷とは別に、日中の練習試合などで熱中症のような状態になることがあった。小村徳男監督は「練習でもかなりやれる状態になってきて、病院で検査もやった上で送り出した」と語ったが、ピッチを出た際は足元がふらつくような状態になっており、代わって岡本達也が投入された。
そうするうちに31分、先制したのは富山。國吉貴博のロングボールを黒部光昭が胸で落とすと、ボランチの位置から長い距離を走ってエリア内に侵入した舩津徹也が右足で蹴り込んだ。「ああいう形はチームとして、誰が入っても(プレーしていても)狙っていた。良いボールが入ってきて、クロさん(黒部光昭)も良いボールを落としてくれた」と振り返った舩津は、これで2試合連続、対鳥取でも今季13節に続く2試合連続ゴールとなった。
富山の1点リードで折り返した後半は、開始から両チームが動いた。鳥取はこの日、辻の1トップに絡む2シャドーに、これまでと同じ永里源気と、実戦でシャドーに入るのは初めてとなる森英次郎を起用。そこから、左アウトサイドで先発していた安藤由翔(京都産業大4年の、JFA・Jリーグ特別指定選手。来季の加入が内定しており、25節でJ初先発・初ゴールを決めた後、学業の都合で一度大学に戻り、今節に向けてチームに再合流していた=J2日記参照)とポジションを入れ替え、森が前節までと同じ左アウトサイドに、安藤がシャドーに移った。
一方の富山は、後半開始からキム ヨングンに代えて森泰次郎を投入。前半は3バックの前に朝日大輔、大西容平、舩津と3人のボランチを並べる、前節と同じ布陣で臨んでいたが、ボランチを大西と森の2人とし、朝日と舩津のポジションを2列目に上げた。安間貴義監督が「黒部(光昭)がどうしても(相手の3バックの)3枚を追いかけてしまって、後ろに下がってしまう、(キム)ヨングンが下がってしまう、というところがあった。それをはっきりさせるために、森泰次郎を入れて、朝日と舩津を並べ、真ん中をはっきりさせて、縦のスライドができるような配置にした」と振り返った変更で、前線でのチェイシングの安定化を図った。
こうした富山の狙いは60分過ぎまでは奏功していたが、鳥取は62分、安藤が右サイドのタッチライン際で素晴らしい単独突破を見せ、センタリングは惜しくも合わなかったものの、流れを引き寄せた。66分には、その安藤がゴール前でこぼれ球を拾い、中央約20メートルからミドルシュート。クロスバーに当たってはね返ったところを、岡本がヘッドで押し込んで同点とした。
スタジアムのボルテージは一気に高まり、その後は鳥取が押し気味に進めたが、富山は相手のペースに巻き込まれることなく、粘り強い守りでしのぐと、終盤に入ってからはカウンターで徐々にチャンスを作り始めた。迎えた86分、國吉のセンタリングに合わせて、70分から黒部に代わって交代出場していた三根和起がゴール前に飛び込むと、鳥取DF柳楽智和のボディーコンタクトで倒されてPKを獲得。これをソ ヨンドクが決めて勝ち越しに成功した。
さらに88分には、CKのチャンスに守備陣全員が攻め上がっていた鳥取の背後を突き、柳楽のヘディングシュートをキャッチした守田達弥の好判断のフィードから、鮮やかなカウンター。一気に鳥取ゴールに迫ると、最後は交代出場の苔口卓也のパスから、三根が3点目を蹴り込んだ。
鳥取も90分に、岡本がゴール前のこぼれ球を蹴り込んで、この日2点目。4分と表示されたアディショナルタイムにもゴールに迫ったが及ばず、富山が3−2で逃げ切った。
前節に続いて3得点を奪った富山は、今季初の連勝。舩津の2試合連続ゴールのほかにも、出場停止だった池端陽介の穴を、J初先発の舘野俊祐が埋めるなど、各ポジションで選手がしっかり役割を果たした末の勝利だった。他の下位クラブも勝利を収めたため、下位を抜け出せたわけではないものの、今後につながる連勝となったことは間違いない。
鳥取は対照的に、22節を最後に6試合未勝利。前述の通り、他の下位クラブが勝利を収めたために20位に後退し、下位2クラブとの勝点差も2まで縮まった。今季6得点の久保裕一が、前節に続いて警告累積で出場停止という苦しい状況で、岡本が3節以来のゴールを決めるなど収穫もあったが、今季たびたび見られた勝負弱さを露呈。ホームの後押しを力に変えられず、痛恨の黒星を喫した。
この敗戦を受けて、今季就任した小村徳男監督を解任し、やはり今季就任した前田浩二強化部長が、代わって指揮を執ることが発表された。今季のJ2での監督交代は、23節終了後に吉田靖前監督が退任し、池谷友良監督代行が就任した熊本に続いて2例目。昨季同様のJ2残留争いから抜け出せない現状を打破すべく、ついに手を打った格好だ。
ただし、その前田氏も福岡で指揮を執った昨季は結果を残せず、シーズン終盤に解任されている。監督としての実績は乏しいだけに、この交代が吉と出るか、凶と出るか。J2昇格3年目の鳥取は、大きな正念場を迎えている。
以上
2013.08.12 Reported by 石倉利英













