試合2時間前にスタジアムを襲った激しい雷雨は、壮絶なゲームになることの前兆だったのかもしれない。「いつもは堅いゲームになるんだけど」と本間幸司が語ったように、これまで水戸と栃木の対戦はローゲームの均衡した展開になることがほとんどだった。しかし、今回はまさかの壮絶な点の取り合いが繰り広げられたのであった。

水戸と栃木は「北関東王者」の座を巡るライバル同士であるとともに、J1昇格プレーオフ圏内の「6位以内」に入るうえでのライバルでもある。上位戦線への生き残りをかける上でも絶対に負けられない一戦。両チームのプライドが雨上がりのピッチで激しくぶつかり合った。

その展開を生んだのは両チームのシステムのミスマッチであった。水戸は3−5−2、栃木は4−4−2。ともに相手のシステムの弱点を突き合った。栃木はボールを奪うとすぐに水戸のワンボランチの横のスペースで起点を作って速攻を仕掛け、水戸はウイングバックが栃木の両サイドMFの背後のスペースでボールを受けて攻め込んだ。両ゴール前をめまぐるしく行き来する攻防。90分間、スリリングな展開が続いた。

先手を取ったのは水戸であった。12分、右サイドでボールを受けてドリブル突破を仕掛けた鈴木雄斗がペナルティエリア内で倒されてPKを獲得。鈴木隆行が冷静にゴール右隅に流し込んで先制点を挙げた。
しかし、そのゴールは死闘の幕開けにすぎなかった。25分にクリスティアーノのスローインに対して水戸DFが連係ミス。その隙を廣瀬浩二が決めて栃木が同点に追いつく。その後も再三チャンスを作り出す両チーム。そして36分に左サイドからパスを受けた橋本晃司が軽やかなフェイントからDFを抜き切る前に左足を振り抜き、グラウンダーのボールをゴール右隅に突きさした。個の能力で栃木の組織的な守備を切り裂き、水戸が再びリードした。
だがダービーは一筋縄にはいかなかった。後半開始早々、右サイドでボールを受けた廣瀬がセンタリング。ファーサイドに走りこんだ杉本真が頭で合わせて再度試合を振り出しに戻したのだ。

両チームともに試合を落ち着かせたかったことだろう。しかし、互いに激しくプレスをかけあい続け、ミスを誘発させたことによって、慌ただしい展開が続いた。その後も繰り広げられた攻撃合戦。そして、攻め勝ったのは水戸であった。56分に栃木のクリアミスに反応した小澤司が強烈なシュートでゴールに突き刺すと、60分に再び小澤がCKのこぼれ球を拾ってシュート。DFに当たってコースが変わったボールはゴールに吸い込まれ、一気に2点差に広げることに成功した。

8試合勝利から遠ざかっており、勝利への執念を燃やす栃木もただでは終わらなかった。65分にカウンターからクリスティアーノが豪快なミドルシュートを叩きこんで1点差に詰め寄る。その後も攻撃的な選手を次々投入し、水戸ゴールを襲い、86分に絶好のチャンスが訪れる。右サイドからのクリスティアーノのロングスロー、ゴール前にこぼれたボールに対してサビアが素早く反応。スライディングシュートを放つものの、本間の驚異的な反応に弾き出され、ゴールならず。そのまま試合は終了し、水戸が2年連続北関東王者に輝くこととなった。

これで9戦勝ちなしとなった栃木。しかし、「今できることを選手たちはやってくれた」と松田浩監督が選手たちをねぎらったように、持てる力を出し切っての敗戦である。決して下を向く必要はない。「この戦う姿勢やハードワークは無駄にならない」と松田監督が言うように、この試合の闘志を持ち続けることができれば、必ずトンネルから脱することはできるだろう。自分たちを信じて前に進んでいってもらいたい。

水戸は2年連続北関東王者の座を手に入れることに成功。「これは僕たちの使命」と本間が豪語するように、過去5年で4度目の優勝。優勝カップを掲げる本間の姿は実に様になっていた。そして、何より大きいのは勝点3を手にしたことだ。これで「6位」との差は勝点5。「6位以内に入るための権利をちょっと得たかな」と柱谷哲二監督が言うように、勝点の近い栃木を叩いたことで、上位戦線への挑戦権を水戸は手に入れたと言っていいだろう。先日「J1ライセンス」の取得を断念することを発表したばかりだが、「6位以内を目指すことに変わりはない」と本間が言うように、チームの目標はまったくブレておらず、むしろ「絶対に6位以内に入る」（本間）と結束を強めている。それを証明する大きな勝利。“奇跡”に向けて、チーム一丸となってまい進していく。

以上

2013.08.12 Reported by 佐藤拓也