試合を前に中村憲剛が口にしていた「相手がACL帰りだということは関係ない。レイソルはいつでもしっかりやってる」という言葉が脳裏にあったからこそ、拍子抜けするような立ち上がりとなった。川崎Fが柏を押し込み、開始早々の6分に大久保嘉人が先制点を決めるのである。
今週川崎Fは練習の中で、マイボールになった後、まずは遠くを見るような意識付けを行っていた。というのも、これまでのチーム作りの成果もあり、川崎Fはパスワークに自信を持つ一方、それが故にスピード感のある攻撃が減少していたのである。そこでタテへの速さを取り戻すべく、遠くを見ることを意識づける練習が導入されていた。
この6分の大久保のゴールは、そうしたタテへの早い意識が形となった場面として捉えていい。縦パスにより攻撃のスイッチを入れた中村は、このパスを出すに至る感覚について「いつもどおりな気もします」と話しつつも「あそこ(ボランチのポジションに)まで降りた時に、ああいう(レナトがやったような)ランニングが出ることはあまりないので、練習の賜物といえばそうなのかも」と振り返る。「ビビッときました」とその瞬間を振り返る大久保は、ペナルティエリアの外側からゴール前へとトップスピードで走りこみ、レナトのシュート気味のパスを難なく蹴り込んだ。
幸先良く試合に入る川崎Fに対し、柏は上手く試合の流れに乗れていなかった可能性がある。一試合を通し柏のハードマークに苦しめられる中村は、彼がポジションを前後に入れ替えた際の柏の守り方についてチーム内に混乱があったのではないかと振り返る。
「(柏が)マンツーマンに近かったので、(中村自身がボランチのポジションに)落ちたらどうなるかと思ったら、まだフィットしてなくて誰も来なくて、前向けてその瞬間にレナトが前に走ってた」と中村。ボールを受けたレナトは、対応するディフェンダーを物ともせずにタテへと仕掛けシュートで攻撃を終わらせ、これが大久保のゴールに繋がる。
先制した大久保も柏の変調を感じていたという。すなわち「(連戦で)疲れてたのかな。(ディフェンスは)誰も居ないし、止まっていた」と振り返る。工藤壮人はこの失点について、自身が点を取れていないことを反省しつつ「チーム全体として失点が安すぎますし、一番集中して入らないといけない開始5分とかのところで失点してたらゲームプランどうこうじゃない」と話し、チーム全体の問題だったと振り返る。また田中順也も「みんな疲れているのは間違いないんですが、その中でもバランスを保つことがまずできていない。それはチームで声を掛け合うしかない」と同様の認識を示している。結局柏は、敗退したACLから国内リーグへと意識を巻き戻すことができていなかったのかもしれない。そしてその柏の隙を突く攻撃により、川崎Fが1点をリードする事となった。
試合開始早々の先制ゴールということもあり川崎Fの大量得点も期待されたが、試合はその後予想外の展開を見せる。先制ゴールを決めた大久保が、8分に首を痛め、全身に出た麻痺の症状により一時的にピッチを離れるのである。手足にしびれが残る状態だったという大久保は、試合続行を懇願してピッチに復帰。しきりに肩を叩き、ジャンプして両足を踏ん張っていたのはしびれが残っていたからだった。ただ、この大久保のアクシデントをきっかけに川崎Fは落ち着きを無くしており、また柏が試合にフィットし始めたことで流れは徐々に柏へと傾くこととなる。
そんな柏は、21分に右サイドからのクロスを、ゴール前の工藤がヘディングで合わせるがこれは杉山力裕の正面に。また39分にも工藤からのクロスボールをきっかけに決定的な場面を作るが、これも杉山のファインセーブに阻まれている。先制し、流れを掴むかに思われた川崎Fはその後、目を覚ました柏に押し込まれる事となった。
ハーフタイムを経て、攻撃に出たい川崎Fは後半開始早々の49分にレナトがドリブルで仕掛け、ペナルティエリア内で倒されPKを獲得。これを蹴った大久保のシュートは菅野孝憲に読まれており「止められたと思いました」と大久保が観念するものとなる。しかしこれが菅野の脇を絶妙にすり抜けてゴールネットへ。失敗を覚悟していただけに「あれだけ嬉しい事はないですよ。倍にして返ってきました」と大久保は喜びを隠さなかった。
柏は2失点目の直後となる57分にジョルジ ワグネルがPKを決めて1点差に追いすがり、反撃ムードを高める。そもそもネルシーニョ監督は、後半から田中順也を投入しており、彼が攻守でアクセントをつけることで柏が川崎Fを圧倒する戦いを見せていた。
田中順は前半の柏の課題として「守備がはまっていない感じだったので、少しラインを低くして、相手のボランチ、憲剛さんとかがフリーになっていたので、そこをはめないと攻撃にも出られない」と考える一方、個人的に「攻撃の起点になって逆転することを目標にして」後半のピッチに立っていた。そして田中順はその両方の課題を実現し、柏の攻勢の原動力になっていた。後半の川崎Fがシュート2本にとどまる一方、柏は決定機を含む8本を畳み掛けた。しかし、柏は2点目を奪えなかった。
苦しい試合展開の中、川崎Fは86分にレナトが「唯一今日の試合の中でいい状態で打てたシーンでした」という強烈なシュートをねじ込み点差を2点に広げた。そのレナトは「シュートを決めて振り向いて喜ぼうと思った瞬間」(レナト)に足をつらせてしまいそのままアラン ピニェイロと交代。筋肉を痛めたわけではないという。
粘り強い柏の戦いに苦戦した川崎Fではあったが、アクシデントに見舞われた大久保が2ゴールの活躍を見せて3−1の逃げ切りに成功。上位戦線に食らいつくと共に、得点王争いでも大久保が21ゴール目を奪い頭ひとつ抜けだした形となった。その大久保は、試合後も「手を上げるとパチパチパチと火花が出るみたいに痛い。痛すぎます」と話すなど首をきっかけとしたしびれが一部残っており気になる。経過を見つつ、痛みが残るようであれば精密検査を受けるという。痛めた部位や症状が症状なだけに無事を祈るしかない。
一方、試合後にACL直後の11試合で2勝しかできなかった点を問われたネルシーニョ監督は「今、そういう言い訳を我々が探す訳にはいきませんが、確かにこの2ヶ月間は強度が高かったと思います」とアジアでの戦いの厳しさを認める一方、「ACLでああやって戦えたわけで、国内のリーグで取りこぼしている。それは自分たちの実力だと思います」とACLを逃げ道にはしなかった。実際、試合では川崎Fを押し込んでおり、勝利に持ち込むことも不可能ではなかっただけに悔しさの募る敗戦となった。
以上
2013.10.07 Reported by 江藤高志
J’s GOALニュース
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