最終節に棲むと言われる”魔物”は1匹ではなかった。
全ての試合が同一時刻にキックオフされる最終節。J2の全11試合は、あるチームが1得点を挙げたとすれば、それがリアルタイムで順位に影響を与える。そのためによく「最終節には”魔物”が棲む」とファンの間では言われてきた。今季も非常に勝点が接近したプレーオフ進出争いが行われており、当然ながら長崎や徳島の最終順位は他会場の結果に左右された。
本題である4位・長崎と6位・徳島の直接対決についてフォーカスすれば、開始食後から長崎は1万1千人を超える大観衆に後押しされて、出足の早い積極的なプレスで徳島のボランチ2人を機能させずに、セカンドボールを拾っては早い攻撃でシュートを撃ち続けた。特に試合前から長崎の高木琢也監督が注目点として挙げていたサイドのアプローチがズバリはまり、徳島の小林伸二監督も「前半はサイドにボールが入った時、思った以上に長崎のワイドMFのアプローチが鋭くて非常にプレッシャーを受け、後方にボールを下げる場面が多くありました。そのまま蹴るか、キーパーに返すか、CBやSBは対応が難しかったと思います」と舌を巻いた。
ただし、長崎はクロスやシュートなど最後の部分の質が低く、高木琢也監督が「ペナルティボックスの手前やアタッキングサードではかなり精度を欠いた(中略)プロセスが良くても最後がダメだと、結果はゼロに終ってしまう」と話すように決定的な形は作るものの、工夫を欠いたプレーを重ねた。
前半のシュート数は10対0と完全に凌駕しながらも、長崎の攻撃に怖さはなく、一方の徳島は、繋ごうという意識が強いのか、プレスを回避するロングボールで単純に裏を狙い、中盤にスペースを作る工夫が少ない前半だった。
押され続けた徳島の小林監督は60分、悩んだ末に思いもよらぬ策に出る。ここ最近得点を挙げれていない津田知宏に代えて入れたのはボランチやアンカーを務めるキャプテンの斉藤大介だ。斉藤はボランチの位置に入り、濱田武とともにドイスボランチとしてプレーしていたテクニシャンの柴崎晃誠を1・5列目に上げるという4−2−3−1のシステムに変更。練習でも試したことのないというシステム変更だったが、徳島の選手たちは焦ることもなく指揮官の大一番の勝負に賭けた。
試合後の会見で小林監督はその際の判断について「ボランチの大介(斉藤)を入れて少し展開を、そしてコウセイ(柴崎)をトップ下に入れてキープさせる。そしてその状況がよくなかったらサイド、そして最後は2トップに切り替えるというところでした。でもそれがなかなか思い切れなくて。ボランチがプレッシャーを受けていましたが、そこでボールを回してくれると、もう少し前に運べるかなというのもありました」と振り返る。まさに英断だった。
徳島のスタイル変更をまともに受けたのは長崎だった。これまで押せ押せの展開だったのが、大一番でも余裕のあるプレーを見せる柴崎が前線でボールを収め始めたことで、流れは徳島に傾き始める。長崎の岡本拓也は「相手がフォーメーションを変えて上手く対応できなかった部分が失点に繋がったと思うし、そこを臨機応変に対応できなきゃいけないのかなあと思いました」と悔やむ。
67分に徳島のアレックスが柴崎に狙い済ましたパスを入れると、柴崎がSHの宮崎光平へラストパス。長崎の守備のミスもあり、宮崎は値千金のゴールを挙げた。チャンスを作ったアレックスは「後半は背後にボールを入れて相手ラインを下げさせたことで、我々も本来のように繋ぐことができ始めました。得点場面でコウセイ(柴崎)に出したパスもスカウティング通り落ち着いて出せました」と振り返る。
この後、長崎はターゲットに水永翔馬を置き、ロングボールを入れ続けるも、岡本のドウグラスに対する得点機阻止での一発退場などもあり、リズムを取り返すことはできずに、タイムアップ。サッカーの怖さを、そして最終節に棲む”魔物”の恐ろしさを知らされた試合となった。
高木監督が「プロセスが良くても最後がダメだと、結果はゼロ」と話すとおり、長崎は17本のシュートを放ちながらも、90分間、得点を挙げることはできなかった。この数字は徳島のそれの4倍にもなるのだが、「クロスやシュートなど最後の部分でのプレーの質が低い」ことが敗因であるのは明らかだった。
試合終了の笛が鳴った時、長崎の選手はプレーオフ進出の夢は潰えたかと膝を折ったが、長崎を猛然と追い上げていた札幌がホームで北九州と0−0で引き分け、奇跡的にこの試合に敗れた長崎も6位に留まり、プレーオフに出場できることとなった。魔物は1匹ではなかったのだ。試合後、両チームのサポーターは12月8日の国立で会おうと固い握手を交わしていた。ただ、その誓いは徳島は千葉、長崎は京都という厳しい相手を倒さないと果たすことはできない。
以上
2013.11.25 Reported by 植木修平















