名古屋の今季のホーム最終戦は、別れを告げる90分となった。言わずと知れたストイコビッチ監督のホーム最終戦であり、彼の指揮するチームを支えてきた功労者たちにとっても、ホームスタジアムでのラストマッチとなる。功労者とはもちろん、田中隼磨と阿部翔平、そしてダニエルである。大刷新が噂される今オフにチームを去る選手はまだいるかもしれない。だが憶測や推測の話はひとまず置いておき、今は彼らに対する敬意を表したい。
2009年に加入した田中隼磨はこの5年間、ほぼフル出場を続けてきた。本人は否定するが、鉄人と呼ぶにふさわしい選手である。阿部翔平は高校の先輩でもある中村直志に次ぐ在籍年数を誇る、大卒の生え抜き8年目。ワンステップで50m級のサイドチェンジを蹴る強力な左足は30歳となった今も衰え知らずである。ダニエルは2年目ながら、ブラジルの名門クラブを渡り歩いた経験と、明るいキャラクターはチームに欠かせない存在だった。それは前節の劇的なゴールの際、最後尾のGK楢崎正剛までもが祝福に駆け寄ったことからもよくわかるはず。インタビューをすれば口癖のように「最大限の努力で貢献したい」と言っていたフォアザチームの男は、今節もおそらく重要な場面でピッチに登場することだろう。
試合のプレビューに移る前に、チームを去ることになった不動の両サイドバックの言葉を紹介しておきたい。左の阿部は、あまり表情を変えずに淡々と話した。
「今の気持ちとしては普通に試合に向かう感じです。いつもと変わりませんね。まあ、ホームの最後ですからしっかり勝ちたいですし、連勝で来ているので最後まで勝ち続けたいと思っています。自分の気持ちについては正直、『試合後にどうなるのかな?』という感じで予想がつきません。サッカーでしっかり勝って、その後は雰囲気を楽しみたい、というぐらいかな。シュートチャンスが一つくらいあればいいんですけどね。それか3−0くらいになってからのPKをもらうとか(笑)。ハユさん(田中隼)を見ているとあれが正しい感じなのかなと思うけど、自分は…。悲しいけど、まだ終わってないんですよね、今季も、サッカー人生も。名古屋には何らかの形で戻ってくるかもしれないですし」
右の田中隼磨は対照的に、あふれる感情を抑えない。
「ケガは痛いけど、もうやるしかないですよ。そりゃ走ってて傷口が突っ張ったり、ボールが当たれば痛いけど、残り2試合だけなんだから。今週は痛み止めを飲んで練習をしているけど、あまり飲み過ぎないようにしています。試合で効かなくなっちゃうからね。抜歯は10日後って言われたけど、新潟との最終戦が終わるまではしない。ドクターも本当はやらせたくないみたいだけど、オレの気持ちを分かってくれている。監督には『ネバーギブアップ』って言われたんで、『ネバーギブアップ』って言い返しときましたよ(笑)。きっと豊田スタジアムには多くのお客さんが来てくれるだろうから、少しでも良いプレーを見せられるようにしたいです」
名古屋のサイド攻撃は、彼らなしでは実現しなかった。最後のホームでも、ピッチの縦幅105mを上下動する、サイドバックたちに注目してほしい。
しかしながら甲府は曲者だ。前節でポイントの上では残留を確定させ、伸び伸びとプレーしてくることも厄介な点。シーズン途中から取り組んできた3バックシステムも上々に機能しており、11人が統制のとれた攻守を展開する好印象のチームだ。注意すべきはやはり個性あふれるアタッカーたち。頑強な身体で前線の橋頭保となるパトリックに、バイタルエリア周辺でクリエイティブな働きを見せるジウシーニョ、そして右ウイングバックで新境地を拓いた柏好文あたりはJ1でも上位に位置する能力を持つ。また最終ラインや時にボランチから、長短のパスを操り試合を作る山本英臣の存在も忘れてはならない。チームを率いるのは熱き戦略家・城福浩監督。このチームを侮れるはずがない。
両チームの前回対戦は8か月前の3月16日。第3節のことだった。当時は名古屋が今季最も低迷していた頃であり、ルーキー本多勇喜のゴールで勝利したものの、内容としては甲府に90分を圧倒され続けた試合だった。甲府は攻守のバランスもよく、ポゼッションで名古屋の守備を翻弄したが、決定力に欠け勝点を逃した。現状を踏まえれば甲府が極端なカウンター狙いに走るとは考えにくく、そうなれば試合にあたっての課題は前線の決定力となることは同じ。パトリックvs田中マルクス闘莉王、ジウシーニョvsダニルソンというマッチアップは、より熱を帯びてきそうである。
決定力という点で言えば、絶対に勝ちたい名古屋にとっても最重要ポイントとなる。前節で好パフォーマンスを見せたケネディと永井謙佑は今節もスタメンが濃厚。長引く腰の負傷のケアを繰り返す玉田圭司はスーパーサブとしてベンチからにらみを利かせることになりそうだ。攻撃陣では2008年以来の二桁得点に王手をかけた小川佳純にも期待できる。ストイコビッチ監督に見いだされ、主力に成長した背番号10が惜別のゴールを挙げれば、スタジアムのボルテージも最高潮に達するに違いない。もちろん、ここ一番に強い闘莉王のセットプレーもある。
そして何より、豊田スタジアムで二度目の「サヨナラ」を告げる、“妖精”の姿からも目が離せない。その発言でも、テクニカルエリアでの仕草でも、そして時には“プレー”でも観客を魅了してきたストイコビッチ監督は、過去最高の熱意を持って采配をふるうことだろう。クラブも最大限の敬意を持って監督を送り出す。会場ではストイコビッチ監督グッズを販売し、デジタルサイネージを駆使した試合中のストイコビッチ監督との記念撮影も用意する。さらに異例なことに、普段は選手が登場するマッチデープログラムのインタビューにまで、ピクシーが登場する。名古屋というクラブにとっての彼の存在は、それほどまでに大きいことがよくわかる。
美しく勝つ。それがストイコビッチ監督の哲学だ。時に泥臭く勝利を追求するのは、彼が“妖精”であるとともに“闘将”と呼ばれることにゆえんする。美しく勝ちたい、しかし負けることはそれよりも許しがたい。「Never Give Up For the Win」。ピクシーが植え付けた勝利への執念は選手たちの心に刻まれている。その思いを持って戦うホーム最終戦は、勝利の上での大団円で終わりたいところだ。
以上
2013.11.29 Reported by 今井雄一朗
J’s GOALニュース
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