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【特集】Jリーグアジア戦略10年~川崎フロンターレ編(後)

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2022年10月10日(月) 11:00

【特集】Jリーグアジア戦略10年~川崎フロンターレ編(後)

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【特集】Jリーグアジア戦略10年~川崎フロンターレ編(後)
アカデミー遠征選手による児童養護施設での交流

~Jリーグアジア戦略のこれまでの10年を振り返り、未来を展望する特集企画~発端はパートナー企業の要望、継続することで広がった事業の可能性~川崎フロンターレ(後編)~
(前編)はこちら

クラブパートナーの東急グループによるベトナムの街づくりに合わせ、川崎フロンターレはアジア事業をスタートした。その事業は10年を経て次のステップに入りつつある。

■ベトナムで通年のサッカースクール開校
フロンターレはベトナムでユースカップ開催、単発のサッカー教室、育成コーチ派遣を重ねてきたが、散発的なのは否めなかった。ビンズン新都市で都市開発を進めるベカメックス東急の平田 周二副社長(COO)は「フロンターレがビンズンで継続的に地域に根ざした活動に取り組んでいただくのが望ましい」と話す。

2021年12月からスタートしたサッカースクール
2021年12月からスタートしたサッカースクール

その考えのもと、2021年12月、フロンターレとベカメックス東急は共同事業としてビンズン新都市での通年のサッカースクール(有料、5歳~12歳)を開校した。それは住民の生活を潤わせ、満足度を上げるソフトとなり、新都市の価値を高める。

ベカメックス東急が運営主体となり、フロンターレは常駐コーチを2名派遣し、挨拶や礼儀も重視した指導に当たっている。スクール生は現在(延べ)180人を数える。

東急ガーデンシティのマンションからグラウンドへは無料送迎バスを運行。スクール生の親から「旧市街から新都市に引っ越したい」「東急のマンションに住みたい」という声が聞こえるという。この冬には自前の屋根付きフットサルコート4面ができる。そうなると地域住民のフットサル大会、学校の部活による活用など地域のための活動の幅が広がる。

受講料収入のほかに企業協賛金がスクール事業を支える柱になる。精密測定機器メーカー、ミツトヨの現地法人(本拠は川崎市)が協賛し、スクール生のユニフォームに企業名を掲出している。ともにベトナムをはじめとしたASEAN諸国に進出している企業だ。

フロンターレがアジア事業をスタートして10年。サッカー事業部の池田 圭吾海外事業担当ディレクターは「U-13の大会やスクール事業を通じて様々な企業と関係性を構築できた。それが10年の大きな成果。支援してもらえるのは、事業を継続してきたからこそだと思う」と語る。

「2020ベトナム日本国際ユースカップU-13」でベカメックス東急様が主催したお祭りイベント
「2020ベトナム日本国際ユースカップU-13」でベカメックス東急様が主催したお祭りイベント

現地のクラブとのつながりも深まってきた。「フロンターレの育成メソッドを学びたい」「日本で合宿をさせてくれないか」「ウチのユースにいい選手がいるので取らないか」という競技面の相談だけでなく「クラブ経営・事業運営について学びたい」という声も出てきた。こうした関係性をいかにクラブのメリットに直結させるかが今後のテーマになる。

■チャナティップを生かしたマーケティング
フロンターレは今季、北海道コンサドーレ札幌からタイの国民的スター選手、チャナティップを獲得した。今年4月に就任後、ベトナム、タイに足を運んできた吉田 明宏代表取締役社長は「彼の加入でフロンターレのアジア事業が転換点を迎えた」と強調する。

チャナティップ選手(2022)
チャナティップ選手(2022)

チャナティップを獲得したのは「フロンターレのサッカーにフィットする」という鬼木 達監督の要望に応えたからで、最初からアジアでの事業収入を当てにしたものではない。

とはいえタイでの人気は絶大で、テレビのCMや街角の看板で露出があふれている。フロンターレ加入後、クラブのFacebookのフォロワーが17万から34万に急増した。タイのサイアムスポーツはフロンターレの試合をほぼ毎節、放送するようになった。

クラブは春からタイでチャナティップを絡めたスポンサー契約の営業を進めてきた。池田海外事業担当ディレクターは「タイでは誰もが知っている選手であり、キャラクターも優れている。彼を使いたいという企業が多い」と好感触を得ている。

吉田社長は「タイでの露出が私服姿ではなくフロンターレのユニフォームを着たものにしていきたい。そうなればフロンターレだけでなくJリーグ全体が注目される」と説く。「将来チャナティップがいなくなっても、Jリーグは面白いので、試合を見続けるタイ人を増やさなくてはならない」

J.LEAGUE ROOM(タイ)でのWatch Partyの様子
J.LEAGUE ROOM(タイ)でのWatch Partyの様子

ベトナムでの事業にも大きな動きがある。11月、フロンターレのトップチームがタイで開催のJリーグアジアチャレンジに北海道コンサドーレ札幌と共に参加することが決まっており、その後、ベトナムに移動し、9年ぶりに親善試合を検討している。吉田社長は「目の肥えた現地のファンにフロンターレのサッカースタイルを披露できる。インパクトは大きいはず」と期待する。

「少子化と娯楽の多様化が進む中、日本国内だけを対象としていたのではマーケットは先細りする。アジアに出て行くのは必然」と吉田社長はベトナム、タイでのアジア事業にさらに力を注ぐ考えだ。

今秋、現地でフロンターレのサッカーの神髄を直に伝えることで、クラブのブランド力と求心力が高まり、様々な企業との連携で地道に継続してきたアジアでの事業がこれまで以上に力を得て、加速するのではないか。
(取材・文 吉田誠一)

 

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