2003年12月14日開催
天皇杯3回戦
大分トリニータ 0 - 3 川崎フロンターレ
試合終了後、大分イレブンがサポーターに挨拶し終えたのを見届けると、石崎監督は塩川と山根を連れ立って大分サポーターが待つゴール裏へと向かった。一段と大きな歓声がスタジアムを包む。はにかむような笑顔を浮かべ、両手を上げ、そして頭を下げる3人。互いの距離は言葉を交わせる距離ではない。しかし、互いの気持ちは十分に伝わった。そこには勝負を超えた、サッカーを通して築き上げた友情の輪があった。
「塩川が挨拶行こう、挨拶行こうってうるさいから、連れられて行っただけです(笑)」(石崎監督・川崎)。報道陣に気持ちを聞かれると、照れくさそうに、そして敢えてぶっきらぼうに答えた。しかし、石崎監督の胸のうちに特別な思いがあったのは間違いない。かつて同じ夢をともに追い求めた仲間との試合。いつも自分を支えてくれた大分と川崎のサポーターへの感謝の気持ち。そして監督としての最後の大会。自分のサッカーの集大成を見せることが石崎監督の恩返しの方法だった。
「川崎のサポーターにも、その前にお世話になった大分のサポーターにも、サッカーっていうのは、こんなに面白いんだよというサッカーを見せてあげたいという話を選手たちにした」(石崎監督)。そして、川崎イレブンは、そんな指揮官の気持ちに応えた。高い位置からプレスをかけて中盤を支配。ボールを奪うと、一斉に何人もの選手が動き出し、軽快なリズムでボールをつないでゴールに迫る。「人もボールも、たくさん動くサッカー」。いつもの川崎のサッカーだ。
覇気も、集中力もない大分に対し、川崎が主導権を握るのは当然の流れだった。そして26分、川崎が先制点を挙げる。右サイドで得たFKのチャンスに中村がグラウンダーのクロスをゴール前へ。そこへ斜めに走りこんできた我那覇が右足で合わせた。さらに川崎の追加点は31分、箕輪のゴール前へのロングフィードに我那覇が走りこむ。大分DFとGKとの3人で競り合ったボールが我那覇の足元にこぼれた。後は無人のゴールに流し込むだけだった。
早々と2失点を喫した大分も、このままではいられない。後半の頭から寺川、ウィルを下げて木島、松橋を投入。さらに56分にはエジミウソンに代えて小森田を入れて反撃を試みる。スピードを警戒して川崎がやや下がり気味になったこと、前半と比較してプレスが緩んだことが重なって、大分が攻め込むシーンが増え始める。しかし、大分のチャンスは、どれも個人能力に頼るもの。チームの連動性が出てこない。
それでも、72分、74分、76分と、大分は立て続けに決定的なシーンを作り出した。だが、木島のシュートは寺田が身体を挺した守備に阻まれ、有村のヘディングシュートはクロスバーの上、そして小森田の直接FKはクロスバーに阻まれた。そして続く78分、川崎は勝負を決める3点目を奪う。キャプテン今野がFKをゴール前へ。ボールを受けた林がそのまま持ち込んでゴールネットを揺らした。林にとっては交代出場してからファーストプレーでのゴール。石崎監督の采配がズバリと当たったシーンだった。
川崎の完勝だった。自分たちのサッカーをすることで両チームのサポーターに石崎監督が感謝の気持ちを表現した試合でもあった。「点の入り方は、セットプレーだとか、ミス絡みだったが、ある程度、面白いサッカーはできたんじゃないか」と石崎監督は試合を振り返る。後半のプレスがかからない時間帯にどうしていくかという課題は残されたが、「そういうところを考慮しながらやっていけば、次の試合も面白いゲームができるんじゃないか」と石崎監督は手応えを口にした。「石崎さんとやれる最後の公式戦なんで、ひとつでも多く一緒にやりたい」とは我那覇。自分たちが追い求めたサッカーで市原に挑む。
さて、敗れた大分。「メンタル的に1シーズン戦ってきて、ちょっときつくて、このゲームにポイントをもって戦うということができなかった」(小林監督・大分)。その言葉に象徴されるように、明らかに集中力に欠いたプレーが目に付いた。小林監督の表情からも、悔しさというよりも1シーズンを終えたという安堵感のようなものが漂う。それほど、J1残留をかけた戦いは精神を疲弊させたのだろう。見ている限りでは、彼らに天皇杯を戦う力は残されていなかった。
しかし、敢えて苦言を呈すれば、こういう状況の中でも結果を残せるようなメンタリティを持つチームにならなければ上位進出は見えてこない。残留に四苦八苦して全てを使い果たしてしまうようでは同じことを繰り返すことになる。「来期は残留争いじゃなくて、もうワンステップ上にいけるように、そういうチーム作りをしていきたい」(吉田孝行)。全てを出し尽くして守ったJ1の座。来シーズンは更なる飛躍を目指すチャレンジが始まる。
2003.12.15 Reported by 中倉一志
以上
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