2003年12月14日開催
天皇杯3回戦
京都パープルサンガ 0-2 サンフレッチェ広島


　Ｊ２に慣れてしまっていた。

　広島の選手たちが、京都のプレスに戸惑い、あのサンパイオですらあわてていた前半の戦いを見て、広島の44試合の戦いがいかに「特別なものだった」のか、とてもよく理解できた。

　Ｊ２では、川崎をのぞき、広島に対して中盤で勝負を仕掛けてこない。むしろ中盤では自由にボールを持たせ、あっという間に低い位置でブロックを組んでしまう。それはそれで、とてもやりにくい部分はあるのだが、少なくともゲームの主導権を握ることはできるし、中盤で少しくらいポジションミスを犯しても、それほど大けがはしない。何よりも、カウンターにさえ気を付けていれば、失点の危険性もない。

　だから、京都のように中盤でのチェックを行ってくるチームを相手にすると、あわててしまう。決して京都のプレスが厳しかったわけではない。むしろ川崎の方がプレスの質は上だったが、それでも広島の選手たちは戸惑っていた。「速くボールをまわさなきゃ」と思うあまり、ダイレクトにこだわりすぎて、キックミスを続けたりもした。「スペースがあったのに、あわててしまった」と、この日２アシストの李漢宰は語ったが、その言葉どおりだろう。

普段なら、こういう時に森崎和幸にボールを集めれば、彼がチーム全体を落ち着かせてくれる。Ｕ−２２代表で、Ｊ２以外の試合経験も多かった森崎和であれば、京都のプレイに戸惑うこともなかっただろう。そういう意味で、この日、彼の存在が大きく広島の選手たちにのしかかっていた。

しかし、京都はその広島の動揺をつくことができなかった。確かに、チャンスメイクのところまでは、素晴らしいプレイが続く。ボランチ・斉藤大介がバランスをとり、もう一人のボランチであるビジュが積極的に前にあがっていたため、ロングボールのこぼれを常にマイボールにすることができるから、厚みのある波状攻撃をしかけられていた。黒部光昭・田原豊のツインタワーは、ことごとく広島のＤＦに競り勝てていたし、右サイドの安藤正裕からのサイド攻撃に、何度も広島の守備陣は恐怖にさらしていた。

が、最後の部分での思い切りが、京都にはない。ここでクロス、という時に、もう一つ切り込もうとして、潰される。今こそシュートだ、というところで、パスを出してしまう。押し込んでも押し込んでも、それが「ゴール」につながってこない。ゴールへの明快なストーリーや、イメージづけが、チーム全体で浮き彫りになっていないのだ。昨年の天皇杯で見せた、流動的で互いに助け合いながら、次から次へとゴール前に飛び出していたあの京都のイメージは崩れ、最後の部分での淡泊さや「バラバラ感」だけが際だった。昨年の京都は、広島のチーム名の元となった「三矢の訓」を見事にサッカーとして昇華されていたが、この日の京都は、黒部も松井も質の高いプレイがあったものの、その一つ一つの矢がまとまっておらず、単発なのである。これが、広島を助けた。

マルセロのゴールも森崎浩司の得点も、京都にとっては唐突なものだったに違いない。ゲームそのものは京都が押し込んでいたし、広島の戸惑いを見れば、負ける気はしなかっただろう。しかし、その気持ちのゆるみが、この２点につながった。１点目は、ラストパッサーである李漢宰に対するマークはほとんどなきに等しかった。あそこから決定的なパスは出まい、という安易さが、プレイににじみ出ていた。２点目は、攻め疲れたところを広島につかれ、思い通りにパスをつながれた。結果的には森崎浩へのアシストとなった李のシュートに対しても、まるで無抵抗だった。中盤で孤軍奮闘していた感のある斉藤が、その２分前に交代していたことも、もしかしたら無関係ではないのかもしれない。松井の言う「モチベーションに問題があった」という言葉も、もしかしたら当たっていたのかもしれない。ただ一つだけ言えるのは、あの天皇杯での素晴らしいチームも、たった１年で壊れてしまうサッカーの恐ろしさだ。

広島は、京都のゲーム運びのまずさにも助けられ、「Ｊ２慣れ」した身体と頭脳を、何とか「Ｊ１仕様」に近いところまで戻してきた。さらに、前半に完敗していた高さ対策に八田康介を投入したことで最終ラインの強さが高まり、後半は押し込まれても「それほど危ないとは思っていなかった」（下田）。この変化を考えれば、天皇杯でより多くのＪ１チームと闘うことによって、チームを覆う「Ｊ２慣れ」のムードを払拭し、来季Ｊ１で闘うための気持ちと身体と技術の準備につながってくるだろう。そういう手応えが感じられただけでも、この京都戦は意味があった。

選手たちにも、そういう気持ちがあったのだろう。試合後の彼らはしきりと「横浜ＦＭ対市立船橋高」の結果を気にしていた。「高校生相手だとやりにくい」という正直な気持ちもあったが、「マリノスとやれば、もっとＪ１仕様に近くなれる」という手応えもあったのだろう。

横浜ＦＭが何とか勝ったことで、次は選手たちの希望どおり、王者への挑戦となる広島。特に注目されるのが、かつてのエース・久保竜彦との対決だろう。この日、素晴らしい強さを見せて守備を立て直した八田は「久保さんとやることしか考えていない。だから、試合に出たい」と語り、攻守の切り札となる服部公太は「久保とは敵になるのだから、たたきつぶすだけ」と言い切った。負傷を抱える久保の、天皇杯出場は微妙。しかしそれをわかっていても、広島の選手たちはみんな、久保との対決を楽しみにしている。

2003.12.15 Reported by 中野和也

以上