試合終了のホイッスルが吹かれると、背番号26番の村上はがっくりとうなだれてピッチにへたり込む。放心する村上に手を差し伸べたのは、大分の木島だった。試合前には両チームに等しく悲劇の可能性が存在しており、試合後の立場が変わっていてもおかしくはなかった。しかし90分の試合を終えた直後。この両者の間に横たわっていたのは冷徹な現実だった。木島が差し伸べた手は、村上にとってあまりにも遠すぎた。
2003年J1セカンドステージ最終節。アウエイでの大分戦を引き分けて、仙台のJ2降格が決まった。はるばる大分にまで駆けつけたサポーターたちは、どうしようもない悲しみを涙に変えて、たたずんでいた。
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厳しい中に華やかさが共存するJ1は、代表への近道でもある。平均的に見ればあらゆる面でJ1のクオリティに及ばないJ2を敬遠する選手がいても不思議ではない。事実、何人かの選手はJ2へと降格したチームから去って行った。そんな中で佐藤寿人は、仙台へと完全移籍する道を選んでいる。
「これは自分たちの責任でもあるし、降格したから『はい、さようなら』というわけにはいかなかった。もう一度自分たちの力で昇格したい」
仙台の試合では、自らのゴール後にサポーターに更なる応援を要求する佐藤の姿をみかけることがある。両手を振り上げてサポーターに働きかけ、それに応えて大歓声に包まれる仙台スタジアムを見ていると、サポーターと選手の間の見えない絆をはっきりと感じることができる。
J2から這い上がった仙台にとって、J2での戦いが楽なものではないことは経験的に知っていることだ。44試合もの試合が続く中、苦しい戦いもでてくる。消耗する試合終盤に最後の力を振り絞って「もうあと一歩」を踏み出せるのかどうかは、まさに気持ちの問題である。例年、数多くのサポーターを動員するチームが昇格の栄誉に預かっているのは単なる偶然ではない。
ベルデニック監督は「与えられた環境の中ではチーム作りは進められたと思う。ただ、クオリティ的に安定したゲームをするのは半年くらいはかかる」と述べている。シーズン前半の苦しい時期をどう乗り切るのか。まさにサポーターがチームを救う大きなチャンスでもある。
ゴールの瞬間の仙台スタジアムの雰囲気は、極上のエンターテイメントである。今年はその場面を何度目撃できるだろうか?そして佐藤のパフォーマンスを何度目にすることができるのだろうか?
【新戦力・注目のキープレーヤー】
今季の仙台は、それほど派手な補強はしなかったという印象があるが、各ポジションには実力者をそろえている。市原から加入の大柴はスピード感のあるプレーが特徴で、マルコスのパートナーとしての地位を佐藤と争う。ただここに来てマルコスがケガを悪化させており、開幕に間に合うか微妙な情勢となっている。もし間に合わなければ2トップは大柴と佐藤というコンビが有力だ。ともにスピードとポジショニングに特徴を持つ選手であり、激しいポジションチェンジで相手守備網をかく乱してゴールを量産することが期待される。また、ともに市原時代にベルデニック監督の指導を受けており、戦術的な理解はすんなりと進むはずだ。監督の戦術に慣れるまでの時間が短くてすむという意味でもいい補強だったといえるだろう。
FWがいい仕事をできるのかどうかは質の高いラストボールをより多く供給できるかにかかってくる。そういう意味では、トップ下の西谷の働きが重要になってくる。西谷はドリブルでの突破が持ち味の選手であり、アタッキングゾーンで前を向くと相手チームは西谷を意識せざるを得なくなる。そういう局面で相手選手を一人でもかわすことができれば、一気に複数の選択肢が生まれることになる。それはつまりビッグチャンスの誕生を意味する。スタジアムが沸騰するそういう場面を何度作り出せるのか、注目したい。
最終ラインにはスロバキアから移籍したガスパルという選手が入る。191cmの長身を生かしたクロス対応と最終ラインの統率が主な仕事となるが、2月24日に行われた広島との練習試合では最終ラインに生まれたギャップに入り込まれ、フリーでシュートを打たれる場面があった。非常に危険なシーンだったのだが、言葉の問題が解決すれば回避できる性格のものだろう。できるだけ早く日本語になじみ、安定した守備を見せてほしい。
【開幕時の布陣予想】
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前述のとおり、FWのマルコスがここに来て全治一ヶ月と発表されたケガを負ってしまった。2001年の昇格時にはチームを牽引する原動力となっており、その働きは折り紙つき。完全な体調を維持して早期の復帰を望みたいところ。マルコスが不在の現状では、佐藤と大柴の2トップがファーストチョイスである。
トップ下には移籍の西谷が有力だが、ケガがちということもあって2年目の菅井の抜擢もありうる。菅井は、3月3日に行われた山形とのみちのくダービーにてゴールを決めており、能力は実戦レベルにあるといえるだろう。
左WBには村上、右WBは財前で間違いない。財前の右足の正確性に異論を挟む余地はないが、できればトップには長身選手がいてほしいところ。それだけにマルコスの復帰が待たれる。ボランチはシルビーニョと石井がコンビを組む。
最終ラインはガスパルの両脇を渡辺、森川という経験豊富な二人が占める。安定した守備のためにもできるだけ早期のコンビネーションの確立が求められる。
GKはケガなどのアクシデントがなければ小針で行くはずだ。
2004.3.8 Reported by 江藤高志
以上
仙台、宮崎県延岡キャンプレポート
2004シーズン 開幕直前・クラブ別戦力分析レポート



















