ネルシーニョ監督がタクトを振るうと、ピッチのイレブンが静かに動き出し、アッという間に陣形を変える。こんなシーンが2004年の名古屋グランパスエイトの売り物になりそうだ。
過去にも大型補強を繰り返しながら、1度もリーグ戦優勝のタイトルに結びついたことはない。だが今季のそれは、単に戦力を充実させたというだけにはとどまらない。
鹿島からやってきた闘将、DF秋田はピッチでいかに戦うべきかを教えるだろう。逆にMF岩本は、多くを語らないが全てを支配するキックを見せつける。不振と不信でつらいシーズンを過ごした大野は、自らを取り戻そうと乾坤一擲の勝負を仕掛ける。GK川島、DF角田は年上の強力なライバル相手に、あえて自らの実力を試しにきた。
単に技術が優れているだけではなく、一癖も二癖もある強者。それらをそろえてまるでターンオーバー制を採用しているかのような豪華なメンバーになった。扱うネルシーニョ監督は、まさに我が意を得たといった表情で語る。「戦力が乏しい中で優勝を狙えと言われたら、それは大変なこと。だが今年のように戦力を整えてもらったのであれば、優勝の期待はプレッシャーにはならない」と。
さっそく鹿児島・指宿でのキャンプから、昨年の3-5-2だけではなく4-4-2や、1ボランチで攻撃的に味付けした3-5-2の戦術練習を開始。「試合展開や状況に応じて、使い分ける」オプションをイレブンに植え付けはじめた。
ベースは2ボランチの3-5-2だが、キャンプ途中から一切、その練習をすることはなくなった。なぜならば「去年の形でどの選手がどう動くかは、もう私の頭に入っている」から。オプションを整えておけば、いつでも好きなように変形できる。
2月29日、清水とのプレシーズンマッチでは前半を4-4-2で戦い、後半はボランチの1人・大森をDFラインに下げただけで、交代を1人も使わないで1ボランチの3-5-2に改編してみせた。バックアップに主力級を抱え、戦術的にも二の矢、三の矢を持つ新生グランパスエイト。何度あがいても届かなかったリーグ戦のタイトルへ、今度こそ本気になっている。
【新戦力・注目のキープレーヤー】
秋田豊の存在感は予想以上だった。練習でも常に大声でイレブンを叱咤、高校生相手に練習試合に挑む若手には「負けたら承知しないぞ」とゲキを飛ばす。プロだから、多くを語らなくても、と大人ぶっていたグランパスイレブンにあって、泥臭い仕草、言動が逆に新鮮味をもたらしている。
その勝利への姿勢はこんなところにも。開幕1週間前に行われた神戸との練習試合。相手のヘディングシュートを、GK楢崎がかろうじてかきだしたかにみえた。ところが副審がゴールと判定。秋田は激高した。たかが練習試合、たかが1点。だが闘将はそれを見過ごそうとはしなかった。もちろんジャッジへの不満がその本質ではない。やられたらすぐやり返す闘志を持たねばならない。その叫びはむしろ、味方のイレブンに向けられたものだった。
ネルシーニョ監督も「日本サッカー界のカリスマ。だれもが尊敬しているし、ピッチ内では私にとっても重要な存在」と信頼を寄せる。これまでグランパスに足りなかった危機管理能力を発揮してくれそうだ。
秋田加入の波及効果は、大森のボランチへのコンバートという形にもなっている。ネルシーニョ監督は「去年から考えていた」というこのプラン。センターバックに信頼できるベテランが加わったからこそ、大森を1列前に出すこともできた。もともと視野の広さと味方を生かすアイデアには秀でていた存在。これまでは守備を固めるために最終ラインから欠かすことはできなかったが、これで攻撃にもその才能を生かすことができる。しかも攻撃的な4バックを採用すれば、1列前から最終ラインのカバーも可能。読みと運動量に長けた新しいかじ取り役が、好守に安定感をもたらすだろう。
昨年、クラブ史上初の得点王を獲得したウェズレイも2000年途中の加入から5年目を迎え、さらにその得点力に拍車がかかる。昨年第1ステージ途中からチームメートとなり、第2ステージで本格的に機能し始めたアシスト役マルケスの存在も、猛犬(ピチブー:ウェズレイの愛称)の助けとなるが、モチベーションをさらに高めているのが実弟・ジョルジーニョがやってきたこと。「日本で活躍するのは言葉や気候の問題もあって簡単ではない。私が活躍することで、弟を励ますこともできる」。その背中を見詰める者のために、これまで以上に激しく相手ゴールに襲いかかる。
【開幕時の布陣予想】
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キャンプ中盤から4-4-2を基本に練習してきたが、ベースは昨年同様の3-5-2に落ち着きそうだ。3バックとダブルボランチによる守備面でマークのずれの少ない安定感が、両サイドハーフの攻め上がりをもたらすからだ。
トップ下には大野が有力だが、体調がよければ岩本の起用も考えられる。右サイドMFには本来、昨年第2ステージでその潜在能力を発揮した海本幸が適役だが、キャンプで右ひざを痛めて開幕には間に合いそうもない。トップ下候補の岡山がその穴を埋める。
激戦区の左サイドは、滝沢が一歩リード。またボランチ・大森の相棒は鄭容臺が試されてきたが、この2人ではやや守備的。攻撃力を考え中村の起用も考えられる。やはりキャンプ中に右足首を痛めたパナディッチの回復が間に合わなければ、大森を下げ中村、鄭(吉村)のダブルボランチ、あるいはセンターバック2人の4-4-2でスタートを切る可能性もある。いずれにしろ、近年ないほど戦力は充実。故障やカードによる欠場にも十分対応できる頭数、戦術の準備はできた。
2004.3.8 Reported by 中村浩樹
以上
名古屋、鹿児島キャンプレポート
名古屋キャンプ映像(鹿児島):岩本(輝)選手インタビュー
名古屋キャンプ映像(鹿児島):ネルシーニョ監督インタビュー
名古屋キャンプ映像(鹿児島):ウェズレイ選手インタビュー
名古屋キャンプ映像(鹿児島):秋田豊選手インタビュー
名古屋キャンプ映像(鹿児島):トレーニング風景
2004シーズン 開幕直前・クラブ別戦力分析レポート

















