【2004シーズンの見どころ】
「いろんな雑誌とか読んでいると『広島は下位に低迷する』なんて、書かれてますよね。そういう低評価を吹き飛ばすような、旋風を巻き起こしてやりたいです」。
今季、チームリーダーとしての飛躍が期待されている森崎和幸が、きっぱりと言い切った。表情こそいつもどおり柔和だったが、その言葉の強さに、彼の気持ちが表現されていた。
周囲の低評価にも、それなりに理由があろう。チームリーダー・上村健一をはじめとする、昨年までの主力選手たちの大量移籍。その一方で、例えば神戸や名古屋、浦和などと比較すると、やや地味な補強。大木・駒野らの負傷や森崎浩の五輪代表招集による出遅れ。勝利、という結果を出すことができなかったキャンプ中の練習試合。特に、市原戦の0-6や京都戦の0-3という結果だけが伝わってしまえば、単純に「守備陣崩壊」「攻撃陣低迷」という言葉が、導き出される。
しかし、キャンプの最終日、小野監督は「去年よりもいいキャンプができた」と力強く言い切った。また、新選手会長の下田崇や眞中靖夫といったヴェテラン勢も、「チームは右肩上がりに、確実によくなっている」と、胸を張っている。客観的な状況は黄信号を発しているのに、選手たちはポジティブだ。
この不思議な現象を解く鍵は、何だろう。それは、やはり小野監督が握っている。
小野監督は、「開幕に合わせたチームづくりはしない」と語ってきた。その言葉を証明するように、じっくりとしたチームづくりを敢行する。例えば、宮崎キャンプ序盤の市原戦・G大阪戦まで、トレーニングでは背骨となるチームコンセプトの徹底のみを行い、セットプレイ時の守備や攻撃のストーリーづくりなど、細かなチーム戦術の構築には敢えて手を付けなかった。練習試合に合わせたコンディションづくりは行わず、ハードな2部練習で徹底的に選手の心身を追い込み、結果として練習試合ではスタミナが持たなくなってもいい、と割り切った。「シーズンで苦しくなった時に、そこで敢えて厳しいトレーニングを課してチームを高めようとするためには、選手から『ハードトレーニングすると、試合で動けない』という頭のバリアを外さないといけない」(小野監督)ためだ。
疲れた身体を引きずりながら戦った練習試合は、やがて内容に表れてくる。キャンプの最後に行ったウルサン現代戦(Kリーグ)では、立ち上がりから軽快なパスワークで相手を圧倒。キャンプ中、ずっと取り組んでいた「連動した動き」「スペースを創りあう動き」「そのスペースに飛び込んで攻撃に参加する動き」が飛び出し、決定機を何度も創りだした。自分たちの意図した形でのボール奪取も決まり、コンパクトなゾーンによる攻撃的守備がはまっていた。
もちろん、このサッカーにはリスクが伴うし、チームの統一した意志として「チェンジ・オブ・ペース」を行わないと、体力は持たない。実際この試合でも、45分しかこのサッカーはできなかった。が、その前の仙台戦で20分しかできなかった。そして仙台戦の前の京都戦では、ほとんどできていなかった。時間を追うごとに、試合を重ねるごとに、チームがやろうとしていることは、形になってきた。そしてそれが表現された時、確かに素晴らしいムービング・フットボールが展開される。その手応えを、選手も感じ始めているのである。
「第1ステージを通してチームを成長させ、完成に近づけていく。チームを、小じんまりとまとめるつもりはない」と小野監督は語る。降格制度がある中で(今季はかなり条件が緩和されてはいるが)これはある意味、大きな賭けでもあろう。しかし、小野監督が昨年の就任時に約束した「3年でJ1の優勝争いをするチームにする」という計画を考えると、やはり挑戦しなければならない。3年計画2年目の今年、理想に向けてチームを成長させながら、なおかつ勝ち点もしっかりと拾っていくことに。「成長」「理想」「結果」。この全てを勝ち取る、という非常に困難な戦いが、今年の広島を待ち受ける。
【新戦力・注目のキープレーヤー】
中国リーグ2年連続得点ランク2位。肩書きとしては非常に地味だが、広島が獲得したブラジル人センターフォワード=チアゴは、「本物の香り」をプンプンまき散らしている。192センチという長身で、横幅もガッチリとしているが、その体躯に似合わず意外とスピードがある。足元のボールタッチは柔らかく、フットサル出身らしい細かな技術も持っているし、ドリブルも巧い。身長の上にジャンプ力もあるから、最高空間到達点はとてつもなく高い。技術があるから、ポストプレイも安定している。何よりもシュートが巧く、ゴール前でのポジション感覚も最高だ。
が、何よりも彼が「使える」のは、チームプレイの中で自分を活かそうという意志があることだ。技術のあるストライカーにありがちな自己中心的ところはなく、中盤では簡単にパスを出す。決して運動量が豊富なタイプではないが、自分が少し動くことでスペースができ、そこを他の選手が使えばチャンスが生まれることを知っている。ポジション感覚も確かで、「チアゴは僕がパスを出したい場所に、ポジションをとってくれる。プレイの感覚も合うし、すごくやりやすい」と森崎和幸。小野監督も「なかなか面白いプレーヤーでしょ」と、チアゴの能力に手応えを感じている様子だ。長年、得点感覚を持つポストプレーヤーを探していた広島にとって、まさに待望久しい戦力と言えよう。
キャンプ中に怪我をし、その回復が遅れたことから心配されたが、それも彼の経験による調整方法によるもの。「開幕には必ず100%の体調にする」と頼もしい。尊敬するサンパイオがチームメイトとしてチアゴを公私両面でサポート。1年目という不安を感じることなく、チアゴはシーズンに臨めそうだ。
一方、守備陣では、上村の穴を埋めるべく広島にやってきた2人のヴェテランDFの評判がいい。仙台を去り、トライアウトまで経験した元日本代表の小村徳男は、経験に裏打ちされた戦術理解能力の高さと1対1における強さを見せつけ、ポジションを確保。さらに、昨年は怪我でシーズンを棒に振った元市原の吉田恵も、正確なロングキックと落ち着いた判断力が買われ、首脳陣の評価が高い。4バックの時は、攻撃力のある服部をMFにあげて左サイドバックに。3バックでは、2ストッパーの一角でもリベロとしてもプレイできるなど、最終ラインならどこでもできるユーティリティさも、チームにとってはありがたい。彼らと、昨年実績を残した若者たち=井川祐輔や八田康介らの熾烈なポジション争いが、広島の守備陣の層をさらに厚くする。
さらにもう一人、高評価を獲得しているのが、ルーキーのFW・田村祐基。ジュニアユースからユースと、サンフレッチェ一筋で彼は育ってきた。昨年、広島ユースでは、当初からレギュラーだったわけではなかったが、後半から急成長。日本クラブユース選手権・Jユースカップのクラブユース2冠に大きく貢献し、全日本ユース選手権での広島ユース旋風を演出した男でもある。
ただ、田村は即戦力として期待されていたわけではない。未完成の魅力を買われ、2〜3年後に出てきてくれれば、という思惑で加入してきた。が、宮崎キャンプで、彼は試合に出るごとにそのポテンシャルの高さを見せつける。粘り強いボールキープ、屈強のDFをはじき飛ばしてでもドリブルで突破していくフィジカル、中山雅史(磐田)ばりにアグレッシブに動く運動量、そして常にゴールに向かってプレイしようとする得点への執念。当初はサテライトで起用されていた田村だが、キャンプ最後の練習試合では、トップチームで80分もプレイしていた。それが、小野監督の評価の証だろう。
もちろん、これから学ばなければならないことは、たくさんある。しかし、今の田村が持っているポジティブな姿勢を失わなければ、近い将来が非常に楽しみな存在になる可能性も秘めている。
【開幕予想布陣】
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開幕戦には、本来のレギュラーと目されていた大木勉・森崎浩司が、怪我や五輪代表のため不在となる。また、昨年左膝前十字じん帯損傷の大けがを負った駒野友一の復帰も、早くて5月。井川祐輔や八田康介も、開幕戦出場が微妙な情勢にある。
そういう中で、小野監督は宮崎キャンプ終了の段階で、システムをまだ固めていない。4-4-2と3-5-2、さらに3トップも試している。選手がなかなか揃わない中で、小野監督も試行錯誤しているようだ。
GKは、下田崇以外には考えられない。急成長中の林卓人が五輪代表に参戦中、ということもあるが、とにかく圧倒的な信頼を獲得している守護神の牙城はゆるがないだろう。
DFラインの形がどうなるか、というところが問題だが、守備の安定感とサイド攻撃を考えて、3バックの採用が有力視されている。となれば、吉田・リカルド・小村、という選択か。井川や八田が復帰すれば、小村・吉田との争いになるだろう。
ボランチには、経験のあるサンパイオと運動量に加えダイナミックさが魅力の李漢宰の起用が有力。昨年、甲府でボランチとしての新境地を開いた外池大亮も候補の一人だ。
左サイドは、広島の誇る鉄人ドリブラー・服部公太で決まり。右サイドは突出したスピードを誇る松浦宏治の抜擢がありそうだが、横浜FMから移籍してきた佐藤一樹に対する信頼も厚い。
トップ下には、昨年チーム2位のアシスト数を記録した森崎和幸が座り、得意のスルーパスで決定的なシーンを演出する。2トップの一人は、まずチアゴは固定。そのパートナーには眞中靖夫が有力だが、田村を抜擢する可能性も捨てきれない。
2004.3.9 Reported by 中野和也
以上
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