大分トリニータが初めてJ1で過ごした2003年シーズンは、課題と成果が大きく浮き彫りになった1年間だったと言える。成果として挙げられるのは守備力がJ1でも通用したこと。失点37はJ1で5番目となる成績で、これが引き分け数11試合(同、J1通算2位)という成績につながり、こつこつと積み上げた勝ち点がJ1残留の大きな力となった。しかし、それは一方で勝ちきれなかったということも意味する。受身のサッカーは得点力不足という問題を抱え、年間27得点はJ1では最下位の成績。これが、最後の最後までJ1残留争いを強いられた大きな要因になった。
クラブ創立10周年を迎えた今年、大分は大幅なチーム改革に踏み切った。目標はもうひとつ上のレベルにステップアップすること。その第一弾としてオランダから元オランダU-23代表監督のハン・ベルガー氏を監督に招いた。1976年にオランダの名門クラブ・ユトレヒトで監督としてのキャリアをスタートさせたハン・ベルガー監督の実績は数え切れないほど。大分改革の切り札としてこれ以上の人材はいない。ハン・ベルガー監督は「私は30年間、オランダでサッカーシューズを履いてきた。今回は人生のひとつの経験で、この冒険が待ち遠しかった。毎年徐々にレベルを上げていくことが重要で、降格ゾーンから抜けることを目指して頑張りたい」と抱負を語る。
クラブは選手補強にも積極的に動いた。昨シーズンのKリーグ得点ランキング2位(27得点)で元ブラジル代表のマグノアウベス、元オランダ代表のリチャード・ビチュへら大物外国籍選手を獲得。さらに練習生として参加していた前東京ヴェルディ1969の永井秀樹と正式契約した他、両サイドバックには根本裕一と三上和義を、サイドの攻撃を活性化させるために原田拓を獲得した。最終ラインで存在感を示すサンドロ、スピードある突破を身上とする吉田孝行、成長著しいU-23日本代表の高松大樹らと合わせて、戦える駒は揃ったといえる。
スローガンは「Perform & Enjoy」。ハン・ベルガー監督のもと「攻撃サッカー」への転身を図る。DFラインを押し上げてコンパクトなゾーンを形成。高い位置から積極的な守備を仕掛けボールをすばやく動かしてゴールを目指す。ゲームの組立役を担うのはボランチのビチュへ。ここから両サイドに広くボールを展開し、吉田孝行、原田拓らがサイドから突破を図る。ゴールを狙うのは「サンバ特急」の異名を持つマグノアウベス。そして、マグノアウベスのフォロー役の永井秀樹が2列目からチャンスを窺う。細かなポジショニングと、互いの連動性が多く求められるサッカーに選手たちも意欲的に取り組んでいる。
課題をあげるとすれば守備面だろう。昨シーズンは安定感を感じさせた守備も、攻撃への意識が高まったためか不安定さが目立つ。特に、DFライン背後へのスルーパスの処理の安定感に欠け、ビチュへが高めの位置取りをしたときにバイタルエリアを自由に使われるシーンも多い。深く守った昨シーズンと守備のシステムが変わったことによるものだが、「攻撃サッカー」への転身を図るためには避けては通れない道。選手たちは監督の目指すサッカーは理解している。あとは、どう表現するかだろう。
「攻撃的なチームにしていきたい。前監督の小林監督がJ2からJ1にあげて、去年はJ1に残留した。そのやってきたことを無駄にしないように自分はしっかりやるだけ。目標を実現するために攻撃的なチームに仕上げていきたい」(ハン・ベルガー監督)。ハン・ベルガー監督と選手たちの冒険の行き先が明るく開けていることを期待したい。
【新戦力・注目のキープレーヤー】
「攻撃サッカー」への転身を目指す大分の一番の補強は、なんと言ってもリチャード・ビチュへの獲得だ。1986年にオランダの名門クラブ・アヤックスでプロのキャリアをスタートさせたビチュへは、その後、FCバルセロナ、ボルドー、ブラックバーンなどをはじめ、欧州各国リーグで活躍。オランダ代表として国際Aマッチ29試合に出場(1得点)した他、90年イタリアW杯、96年欧州選手権、欧州チャンピオンズリーグ(2002-2003)に出場するなど、その経歴は輝かしい。左足から繰り出される長短自在なパスは、大分の攻撃の起点として威力を発揮することになるだろう。
得点量産を狙うのはマグノアウベスだ。フルミネンセ在籍時にはロマーリオと2トップのコンビを組み、2000年シーズンにはブラジル国内リーグでMVPに次ぐタイトルであるシルバーボール賞を受賞。2001年に行われたコンフェデレーションズカップではブラジル代表として3試合に出場した。また、2003年シーズンには全北現代でプレーして27得点を記録。Kリーグのベストイレブン、ベストストライカーに選出される等、その実績は申し分ない。テクニックとスピードが持ち味で、スペースへ飛び出す能力も高い。大分の得点力不足を必ずや解消してくれるはずだ。五輪予選から帰ってくる高松大樹とのコンビを早く見てみたい選手でもある。
新加入選手で、もう一人注目を浴びているのが永井秀樹。2002年に東京ヴェルディ1969を退団した後、大分でのプレーを熱望していたが叶わず、1年間の浪人生活を経て念願の大分入りを果たした。練習生としてトレーニングキャンプに参加し実力が認められてのことだった。すでに33歳になったが、鋭いドリブル、トップ下から繰り出すスルーパス、2列目からの飛び出しと、持ち味は健在。マグノアウベスのフォロー役としてかかる期待は大きい。「現役の最後は地元で、というこだわりはあった。監督の期待に応えたい」と本人も決意を口にする。コンディションはまだ万全とはいえないが、ベテランらしく開幕までにはしっかりと仕上げてくるはず。1年ぶりのJリーグでのプレーは多くのサポーターを沸かせるはずだ。
キープレーヤーとしては吉田孝行にも注目したい。かつては横浜フリューゲルス、横浜F・マリノスでもプレー。第78回天皇杯全日本選手権では優勝も経験している。2000年に当時J2だった大分に移籍し、昨シーズンは久しぶりのJ1でのプレーとなったが、7得点という結果はチーム最多とはいえ、彼本来の能力からすれば物足りない数字。今シーズンは大きく飛躍することを期待したい。昨シーズンは本来のポジションであるFW以外にも、左右のMF、トップ下と数多くのポジションを経験したことでプレーの幅も広がった。「監督の目指すつなぐサッカーは自分のやりたいサッカーと一致している」という吉田孝行。本来の能力が大きく開花するシーズンになるかもしれない。
そして、やはり高松大樹を忘れるわけにはいかないだろう。現在、U-23日本代表としてアテネ五輪を目指して戦っているが、五輪予選では試合に出れば必ず得点するという勝負強さを発揮。大型FWとして着実に進歩を続けている。高さを生かしたヘディングとポストプレーが持ち味で、得点感覚に優れた選手だ。今シーズンはU-23日本代表での活動が多いためチームを離れることが多いが、スペースへの飛び出しを得意とするマグノアウベスとの2トップは相手チームに脅威を与えるはず。U-23日本代表でのプレート同様に、チームでも大ブレークしてくれることをサポーターは心待ちにしている。
【開幕時の布陣予想】
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システムに関して試行錯誤を繰り返してきたハン・ベルガー監督だが、最終的には開幕戦は4-5-1で臨むことになりそうだ。まず最終ラインの中央はサンドロと三木隆司。右SBにDFならどこでもこなす三上和義が入り、左SBには攻撃力に定評のある根本裕一が構える。中盤の底はビチュへと瀬戸春樹のダブルボランチ。視野の広い球さばきと受け手に優しいパスでビチュへが攻撃を組み立て、瀬戸春樹が守備重視の布陣を取る。
攻撃陣は1トップにマグノアウベス。そのフォロー役として2列目中央に永井秀樹が控える。しかし、永井秀樹は1年間の浪人生活でコンディションは万全とは言えず、梅田高志にも出場機会があるだろう。MFは右に吉田孝行、左に原田拓。縦への突破力を生かして攻撃を組み立てる。ただし、ハン・ベルガー監督はシステムにこだわる姿勢を見せておらず、高松大樹が五輪予選から戻れば高松大樹とマグノアウベスを2トップにした4-4-2、場合によっては3-5-2のシステムをとることもあり得る。
2004.3.9 Reported by 中倉一志
以上
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