3年間の柱谷幸一監督時代を終え、その後任にJFAトレセンコーチ・鈴木淳氏が発表された時、山形サポーターの多くは「目先の結果よりも長期的な視野に立ったチーム強化」と受け取ったようだ。確かに「エリートプログラム」等で若年層育成に発揮した手腕にばかり目を奪われがちだが、当の鈴木監督は「練習すればうまくなるのはプロも同じ。個人の能力を伸ばすことこそ、チームへの貢献になる」と、ベテラン・新人を問わず個々のレベルアップを要求。「J1昇格」もしっかりと目標に掲げた。
鈴木監督は早速、選手全員に「複数ポジションをこなす」という条件を課し、補強選手の条件にもそれをあてはめている。
狙いは3つある。
モンテディオ山形の登録選手は、ブラジル人2人を含む26人(3月9日現在)。サテライトに参加していないこともあるが、Jリーグ最少クラスで44試合を乗り切らなければならない。怪我人・出場停止を想定して、ということがひとつ。
2つ目は「相手によって闘い方を変えていく」との鈴木監督の考えが根底にあること。同じポジションでもタイプの違う選手をそろえておくことで、相手や状況に応じてベストなメンバーが組めるという目論見だ。
そして3つ目の狙い……これこそが今季の山形のプレーをもっとも特徴づけることだが、プレー中に絶えずポジションチェンジを繰り返せるということ。今季は「人も動き、ボールも動く」(鈴木監督)運動量の多いサッカーを目指している。スペースを作りボールを受け渡し次のチャンスを探る。動きの中でチャンスの芽をゴール前の決定機までつないでいく戦術だ。中盤には高橋健二、大塚真司、迫井深也、井関武志などバランサーとして能力の高い選手が多いため、連携・カバーリングもスムーズにいっている。
システム的には、昨季同様ボランチを2枚置いた4-4-2。しかし今季は、開いてライン際でプレーすることが多かった両サイドハーフの中への動きが目立つ。これにより、サイドからのクロス目がけてゴール前に飛び込む人数も増えた。サイドの空いたスペースはサイドバックが駆け上がるか、ボランチが飛び出していくことになる。山形の攻撃の特徴であるサイドバックのオーバーラップが、今季はさらに顕著になっている。
もちろん課題もある。その最大のものはディフェンスだろう。
ボールを前へ運ぶ意識が強いため、奪われた直後の対応の遅れが目立つ。速い攻撃を得意とするチームを相手にすると、対応が後手に回ったままゴール前まで攻め込まれる場面も何度かあった。激しいポジションチェンジもここではマイナスに働く。攻から守への素早い切り替えを早急に実現したいところだ。
攻撃面においても、常に動き回る中での瞬時の判断と正確なボールコントロールが90分を通して求められることになる。特に立ち上がりやスタミナを消耗しているゲーム終盤ではまだ細かいミスが多く、精度を上げていく必要がある。鈴木監督の理想とする姿に到達するまでにはもう暫く時間がかかりそうだ。
3月6日の鹿島アントラーズ戦までに練習試合を11試合こなしたが、完封試合はゼロ。大学生チームから2勝した以外、JFL以上との対戦では3分け6敗と勝ち星にも恵まれていない。
しかし、昨季11点とチーム得点王の中村幸聖は、「結果はついてきていないが、今のやり方をチームとして続けていけば絶対に大丈夫、というものを感じている」と自信をのぞかせる。開幕からのスタートダッシュを望むのは贅沢かもしれないが、シーズン中盤までに昇格争いが可能な順位にとどまっていられたら、山形のサポーターにとっておもしろいシーズンになるだろう。
【新戦力・注目のキープレーヤー】
今シーズンはDF2、MF3、FW2とバランスよく補強。運営の都合もあり“ビッグネーム”を獲れる環境にはないが、確実に仕事のできる選手を獲得、手堅い補強を実現した。鈴木監督も「すべて即戦力でできる選手」と期待を寄せる。
レギュラーにもっとも近いのが大宮から移籍の大塚真司。カバーリング、1対1の対応、球際の強さ等ボランチとしての能力をオールラウンドに兼ね備えた大塚が中盤の底にいることで、中盤の他の選手が安心してポジションチェンジを繰り返すことができる。昨季、守備で存在感を放ったニヴァウドの穴は十分に埋まるだろう。
同じくボランチをこなせるのが迫井深也。今季はDF登録でCBでも持ち味を活かせるプレーヤーだ。的確な状況判断はインターセプトだけでなく、コーチングで周囲の選手を生かすことにも発揮される。ゴール前からディフェンスラインのフォローまで、攻守にわたってチームのつなぎ役としてフル稼働する。
川崎Fから加入したMF林晃平は、右サイドでの俊足を活かした攻撃が持ち味。「攻撃に絡むポジションならどこでもやる」と言っていた林だったが、鈴木監督はより俊足が生きる右SBにチャレンジさせている。不慣れなディフェンスに手こずってはいるが、“飛び道具”としての魅力が新しい形で開花しそうだ。
山形県内からの高卒ルーキー、MF井関武志とFW堀内大輔はプロの強さ、うまさ、スピードに順応している段階だが、JFAトレセンコーチ時代から鈴木監督が注目していた選手だけに素質は十分。シーズン途中からの出場もあり得る。
若いブラジル人選手2人も加入した。
FWデーニは小柄ながら「すばしこい」という表現がぴったり。周囲との連携には少し時間がかかりそうだが、豊富なアジリティと運動量で走り回り、スタミナもある。
DFレオナルドは長身を活かした高さが持ち味。3月3日の仙台戦で練習試合に初出場、周りをよく見る落ち着いたプレーを見せた。競り合いの強さをさらに身につければ使える目処が立つだろう。
新加入以外でも、注目のプレーヤーをふたり挙げておきたい。
ひとりは、昨季途中のレンタル加入から今季晴れて完全移籍となったDF小林久晃。昨シーズンは、ヘディングでの競り合いや当たりの強さでセンターバックとしてのポテンシャルの高さを見せた。これはセットプレーでも大きな武器で、両ゴール前で存在感を発揮しそうだ。それと同様に、左右の足で正確にロングキックが蹴れるのがもうひとつの武器。チームに馴染んだ今年は「自分がチームを引っ張っていこうという気持ちが強い」と話す通り、ピッチの中でも盛んに指示を出している姿が頼もしく映る。
もうひとりは「ミスター・モンテディオ」高橋健二だ。
昨年までJ2出場通算196試合。順調にいけば、200試合出場達成 第1号となる。J1での記録ではないから、と謙虚な本人は問題にしていない素振りだが、これはもちろん誇るべき立派な記録。今年の6月で34歳。ゲーム数が多くタイトなスケジュールのJ2で、なぜ彼が5年間コンスタントに出場し続けているのか? その答えは、彼のプレーの中にある。山形と対戦するチームのサポーターも、背番号7のプレーにぜひ注目して欲しい。
【開幕時の布陣予想】
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鈴木監督は「ケースによっては3バックもある」としているが、基本はボランチを2枚置く4-4-2。
GKは激戦。昨シーズン公式戦全試合出場の桜井繁、それ以前に「守護神」の名を欲しいままにしたチーム17年目の鈴木克美、Jでの初出場を賭ける阿江孝一、それぞれに持ち味がある3人の三つ巴で開幕GKを競ってきたが、総合的に安定感を増した阿江が優位か?
DFはCBに小林久晃と古川毅、右SBに太田。左SBは確実につなげる井上雄幾もいるが、攻撃面重視で本来はMFの川崎健太郎が入る。
MFは左の高橋健二、永井篤志はほぼ間違いないところ。ボランチには大塚もいるが、今回は迫井でスタート。右は星大輔も有力だが、開幕前の怪我により、モンテディオ・ユース出身3年目の秋葉勝が初の開幕スタメンのピッチをめざす。
FWはポストプレーヤー大島と昨季のチーム得点王・中村でまず間違いない。
2004.3.10 Reported by 佐藤 円
以上
山形、静岡キャンプレポート
2004シーズン 開幕直前・クラブ別戦力分析レポート

















