| 愛媛で最初のプロ契約選手・濱岡和久。JFL時代からチームを支える貴重な存在だ。(C)愛媛FC |
こんな中でも、初年度こそ12位だったものの、02年には6位、03年には3位と着実に順位を上げた。Honda FCをはじめとする企業チームが上位を占めるJFLで、資金の少ないクラブチームである愛媛FCの戦績は上々だったと言える。チームの強化は選手の獲得、指導に当たった石橋氏の手腕によるところが大きかった。
3位に終わった03年、愛媛FCはJリーグ入りを視野に加盟申請を希望したが、チームの法人化の遅れ、運営資金の問題、スタジアムの改修計画などがまとまらず見送らざるをえなかった。
「このシーズンがいちばん悔しかった」。申請の準備を進め、成績では手が届きかけたものの結局は断念。初めてのJリーグ挑戦に失敗した亀井社長はそう振り返った。
クラブの体制を強化するため、04年に株式会社愛媛FCを設立。念願のJリーグ参入を目指してクラブは次のステップに踏み出した。愛媛FCで初めてのプロ契約選手も誕生。しかし濱岡和久選手ただ一人にとどまり、他の選手は仕事とサッカーを両立させる状況が続いた。Jリーグ加盟を掲げるクラブの理想像と、思うように運営資金が集まらない現実との狭間に苦しんだシーズン。結局、練習不足から来る夏場のスタミナ切れは明らかで、成績はシーズン途中で失速。7月3日の後期第1節、気温34度の炎天下に南長野で行われたアウェイ草津戦で、前半を2-0とリードしながら後半5失点で敗戦した試合はその象徴だった。最終的には5位に終わり、大塚製薬（現徳島ヴォルティス）やトントン拍子でJリーグへ駆け上がった草津の後塵を拝した。
このシーズン後、4年ぶりに徳島と草津がJFLからJリーグ加盟を果たしたことは、愛媛にとっても刺激となった。Jリーグは手に届くところにある…。こうした機運の盛り上がりの中で3度目のJ挑戦となる05年に、愛媛FCは大きな決断を下す。Jリーグ加入条件のJFL2位以内の成績を収めるために、プロ契約選手を一気に13名に増やした。これに合わせて、S級ライセンスを持つ望月一仁監督をジュビロ磐田から招へい。依然として運営費がどのくらい集まるかわからない中での冒険ではあったが、フロントは半ば強引に押し切り周囲の協力を仰いだ。背水の陣で臨んだこのシーズン、クラブの運営費は目標の1億円を超えた。
| JFL2位以内を決めた11月27日のHonda FC戦。逆転ゴールを決めた田中俊也をサポーターが祝福。(C)愛媛FC |
3年前あるいは2年前、仮にJリーグに加入できていたとしても、まだ組織も戦力も整わない状況で苦戦は必至だっただろう。JFLで試行錯誤を繰り返した5年を経て、愛媛FCは確実に成長した。
野球王国・愛媛で、自ら野球ファンを公言していた加戸守行 愛媛県知事は「Jリーグで戦う友近選手を観たい」と会見で語り、中村時広 松山市長も「おらが町のチーム」の試合には毎回のようにスタジアムを訪れるようになった。こうして自治体の支援は県内の市町村に拡大。今では出資済みを含め、県内全20市町村の出資も実現しそうな勢いだ。
Jリーグ加入とともに、愛媛FCは名実ともに県民クラブに成長しつつある。亀井社長は「最初は、誰もが愛媛にJリーグのクラブを作ることは夢だと言っていた。その夢が実現した今、これまでクラブを育ててくれた皆さんが自信を持ってくれればいいですね。みんなが協力してやれば、できるんだということです」と、これまでのクラブに対するサポートに感謝した。
県民クラブとして1歩1歩着実にステップアップしてきた愛媛FC。地方からJ1昇格を果たした甲府の例を励みに、愛媛FCもJ1昇格を次の目標にチームづくりを進める。「甲府にできて松山でできないはずがない」と中村市長も息巻く。
J2リーグ戦は初年度の愛媛FCが簡単に勝てるほど甘くないことは、クラブもサポーターも承知の上だ。さらに上を目指すには、今後も永く愛媛県民に愛され、サポートされる魅力のあるクラブに成長することが大前提だ。愛媛FCが今後どのような歴史を歩んでゆくのか、まずはこの1年がクラブの未来を占う勝負の年になるだろう。
◆愛媛FC：Jを目指した12年〜県民クラブの挑戦を振り返る〜（1）
◆愛媛FC：亀井文雄 代表取締役社長インタビュー
Reported by 近藤義博
