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【第86回天皇杯:仙台 vs 熊本レポート】J参入のため、残りシーズンを踏まえて敷いた新布陣が、仙台を追い込んだ。熊本、Jのクラブを相手に互角以上に渡り合う。(06.10.08)

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第86回 天皇杯全日本サッカー選手権大会 3回戦
仙台 vs 熊本 (6,007人/ユアスタ)
得点者:'28 ボルジェス(仙台)
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 天皇杯のようなカップ戦、リーグの格が違うクラブ同士の対戦で、下部リーグのクラブが上位のクラブに対して健闘を見せる時、試合内容のパターンは2つあると思う。一つは、下位のクラブがひたすらに自陣の守りを固め、相手をじらしにかかるパターン。もう一つは、ある意味先述の方法を逆手に取ったともいえるが、ゲームが落ち着き、相手のサッカーが軌道に乗り始める前にリードを奪うべく、キックオフの直後から積極的な攻めに打って出るパターン。「相手は格下、まずは引いて守り、慎重な立ち上がりを狙うはず」という上位チームの「先入観」を上手く裏切ることが出来れば、こうした電撃戦法もまた有効となる。

 自身が目指すべきリーグにいるJ2の仙台に対し、挑む立場であったJFLの熊本が見せた立ち上がりは、二つの方法における後者のパターンで仙台を慌てさせた。熊本は、少々遠巻きからでもミドルを狙う姿勢や、SBも絡めて両サイドを積極的に切り崩していこうというそのサッカーで、見事仙台に対して機先を制することに成功したのである。

 実はこうしたサッカー、熊本にとっては、この試合の勝利だけを狙った「奇襲戦法」というわけではなかった。
 天皇杯による中断前のJFLでは主に3−5−2で戦っていた熊本。しかし現在3位の熊本にとって無駄に出来る勝ち点は1ポイントもなく、引き分けですら「勝ち点を2つ失った」と認識せざるを得ない極限状況の中で、残りのリーグ戦9試合を戦う立場に熊本はいる。
 そこで熊本・池谷監督は、サイド攻撃において数的有利を作りやすい4−4−2を、常に勝ち点3を狙うべきチームの新たな形にしようと試み、天皇杯の1回戦から実戦の場で熟成を深めてきた。しかもこの4−4−2、ボランチは1枚、そしてトップ下を配する、最近あまり見なくなったダイヤモンド型。まさに残り9試合で勝ち点27を得るための、攻撃を重視した形と言える。
 つまりこの3回戦で見せた熊本の戦いは、格上相手の勝利とともに、今後を見据えて自分たちが新たに試みた形への自信を深めるための戦いでもあったのだ。

 とはいえそれが、仙台相手に効いた。
 この日の仙台は、開始2分にこそ、ロペスのスルーパスに右SB中田が抜け出しフィニッシュに持ち込むなど沸かせるが、以降は先週末のJ2第43節、草津戦同様に、まるで眠っているかのような試合運び。攻めを始める上での1歩目のパスから通らず、ボールを奪われた直後の寄せも中途半端(この辺りは、自らボールを失うや否や、すかさずチェイシングに入るという、前線の守備の基本をしっかりこなしていた、熊本のFW福嶋と対照的)なため、熊本が持っていた前への積極性の影響をもろに受ける格好となった。

 しかし、ゲームが熊本ペースで回り始めていた28分、この日唯一となるゴールは仙台にもたらされた。スルーパスを受けて右サイドに飛び出したボルジェスが、マイナスの強い折り返しをグラウンダーで入れる。そのボールが流れた左ポスト付近には、走りこんでいた左SBの磯崎がいたが、磯崎はボールを何とか収めたもののシュートに持ち込むには難しい体勢に。ところが、マークについていた市村が、勢い余ったか、磯崎とエリア内でもつれ合い、倒してしまった。こうして得たPKは、ボルジェスがゴール右隅にしっかり決めて、仙台は苦しみながら1点をリード。その後は守備陣も冷静さを取り戻したか、熊本に可能性の低いシュートしか許さず前半を終える。本来ならば後半は、このまま一気に仙台ペースとなってもおかしくない状況である。

 だが熊本はそれを許さなかった。後半開始から福嶋と交代でピッチに入った町田が、執拗に仙台のDFライン裏を狙う。1対1の対応では落ち着きの出てきた仙台守備陣は、ラインを前後に揺さぶられたことで地盤沈下を起こし、やがてズルズルと下がる結果に。さらに61分、宮崎の投入に合わせてトップ下から左に移った斉藤が(果たして熊本ベンチがこの効果を期待していたかは定かではないが)左サイドで確固たる基点を作ると、仙台の守備の傷口は最終的に逆サイドまで波及。熊本はその後、鋭いセンタリングや、逆サイドに大きく振ってからの、フリーの選手によるフィニッシュを仙台に浴びせ続けた。

 結局、シュートがことごとく枠に飛ばないという典型的な決定力不足に熊本が陥ったことで、スコアは前半から動かず、4回戦進出クラブは仙台となった。しかし試合の多くの時間、本当の意味での「格上」、「格下」の差など存在しなかったという事実は、下部リーグのクラブに対して「奇策」や「健闘」ではなく、極めて正攻法のサッカーによってペースを握られ続けた仙台のサポーターが、試合終了のホイッスルと同時に、自らのチームへ盛大なブーイングを浴びせたことで全て表されるだろう。

 最後に一つ。池谷監督が試合後に語ったように、熊本がチームとして、この天皇杯ではなく残りのJFLに重点を置いているのは間違いない。
 しかし、特にこの試合の後半、昨年まで仙台に在籍していた森川を筆頭に、決定機をものに出来ずに倒れこみ悔しがる姿、そしてそうした選手にすぐさま駆け寄り、さらなる奮起を促していく他の選手の姿には、フットボーラーの根底に流れる、隠し切れない「勝利への無垢な渇望」が垣間見えた。
 今日の内容で熊本は、4−4−2のシステムに乗せた自分たちのサッカーに、大いに自信を深めたことだろう。
 そこにユアスタで見せた、勝利を一心不乱に追い求める、ユニフォームの赤が示す熱い血があれば、願いはきっと、叶うはずである。

 仙台は来年、J2を留守にするつもりだが、いつかまた、Jの舞台で会おう。

以上

2006.10.08 Reported by 佐々木聡
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