第86回 天皇杯全日本サッカー選手権大会 3回戦
札幌 3-1（延長） 新日鐵大分（2,353人/室蘭）
得点者：'4 相川進也（札幌）、'88 長木通憲（新日鐵大分）、'116 フッキ（札幌）、'119 相川進也（札幌）
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札幌はまさに危機一髪だった。九州リーグの新日鐵大分を相手に９０分で決着をつけることができず、延長戦で辛うじて３−１のスコアで勝利。昨年も同じ３回戦でＪＦＬの佐川急便東京ＳＣに敗れており、８８分に相手の長木に同点ゴールを蹴り込まれた瞬間は、つい嫌な予感が頭をよぎってしまった。

この試合、開始４分に相川のミドルシュートで札幌が先制。Ｊ２の札幌がそのまま順調に試合を運ぶのだろうと思われたが、ここから典型的なアップセットの雰囲気が生まれ出す。札幌は数多くの決定的なチャンスを作りながらもシュートをポストに当ててしまったり、ラストパスをミスしてしまったりと１点をリードしていながらも、時間を進めるにつれて嫌な雰囲気を作ってしまった。幾度もの決定機がフイになっていく様を中盤の底から見ていたＭＦ金子も「決めるべきところを決められずにいたので、苦しい展開になるだろうと予感した」と振り返る。その予感通りに試合の流れは徐々に新日鐵大分へ傾き、特に延長前半などは完全に札幌が押され、どちらが格上なのか分からないほどの展開だった。

この試合の中で札幌が何度も決定的なチャンスを作った背景には、新日鐵大分のアグレッシブな姿勢がある。「思い切り自分たちのサッカーをしようという形で臨んだ」（藤沢監督）という新日鐵大分は、格上である札幌に対し受け身になることなく、最終ラインを積極的に押し上げて真正面から勝負を挑んだのだ。もちろん、フッキや上里といった札幌のＭＦ陣が展開するスピードあるパス交換についていけず、簡単にラインを突破されることは何度もあった。だが、それでも臆することなく中盤をコンパクトに保ち続けた姿勢は賞賛したい。攻撃に関しても、前半に風上のエンドを選択したことをきっかけに、縦への速いパスで主導権を掴もうとした。左右両足からの精度のあるキックを持つ二宮を中心に、前線では三重野、長木の速さのあるツートップが縦の関係を保ち、札幌のＤＦラインが崩れる隙を虎視眈々と狙い続けた。

それにしても札幌はチャンスをフイにしすぎた。「さすがにこれは決まっただろう」と思われた場面でも、ことごとくミスをしたり、シュートがポストやバーに嫌われた。あれだけチャンスがありながら点が入らないというのは、ある意味では点を取ることよりも難しいのでは、と感じてしまうほど。延長戦にまで突入し、選手やサポーターは相当に肝を冷やした試合だったと思うが、フイにしたチャンスのうちのひとつでも決まっていればワンサイドゲームになっていてもおかしくなかった試合でもあった。ちょっとしたシュートのズレが試合の行方を大きく左右してしまうのだから、今さらながらサッカーというのは恐ろしいものである。

試合後、敗れた新日鐵大分イレブンには室蘭入江競技場に詰め掛けた札幌サポーターから大きな拍手が送られた。アグレッシブに戦った新日鐵大分の姿は、敗れたとはいえ相手チームのサポーターの心をも掴んだということなのだろう。ゲーム終盤に見せた、札幌ゴールに向かって何人もの選手が猛然と突進していく光景は確かにサッカーファンの心を揺さぶるに充分なものだった。「あんなにやれると思わなかった。Ｊリーグのチームと真剣勝負ができて楽しかった」と試合後に語った長木の表情も清清しかった。グッドルーザーと評したい。

札幌としては、この日の苦しかった戦いから得なければならないものがある。リーグ戦に目を移せば、目標であるＪ１昇格圏内の３位入りに向けてギリギリのところで粘っている。そうした中で選手たちは「残り試合はトーナメントのつもりで戦う」と口にするが、この天皇杯３回戦を経て、トーナメントの戦いというのが考えている以上に激しいものだと思い知ったはず。今後、それを生かすことができれば、精神的に追い詰められかけたこの試合はとても貴重な財産になるはずだ。

以上

2006.10.08 Reported by 斉藤宏則