6月24日（水） 2009 J2リーグ戦 第23節
栃木 1 - 2 仙台　（19:03／栃木グ／5,287人）
得点者：60' 大久保裕樹（栃木）、64' 関口訓充（仙台）、86' 中島裕希（仙台）
スカパー！再放送 Ch181 6/25（木）13:30〜（解説：セルジオ越後、実況：飯島誠、リポーター：萬代裕子）
☆勝敗予想ゲーム
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　先制ゴールの余韻は僅か4分間しか続かず、ラスト5分でまたしても栃木ＳＣは奈落の底に突き落とされた。栃木は5試合ぶりの勝点を掴み損ね、ベガルタ仙台は苦しみながらも逆転勝利で3試合ぶりの歓喜に浴した。

「勝点3を目指して栃木まで来た」と決勝弾をアシストした梁勇基が言えば、手倉森誠監督も「笛が鳴るまで勝点3を目指す戦い方をした」と、アウェイでの引き分けを御の字とせずに最後まで勝点3にこだわったことが、結局は途中投入した２人のＦＷが決勝弾を導く結果に繋がった。

湘南ベルマーレ、セレッソ大阪、ヴァンフォーレ甲府、そして仙台。上位グループを相手に善戦はするものの、栃木が勝利を得られないのは、やはり「J1」という明確なターゲットを持つ者の強み、強靭なメンタリティに屈してしまうからだろうか。強者を上回るメンタリティを手に入れることは容易ではないと、つくづく痛感させられた。

　タイプの異なる両サイドハーフの梁と関口訓充を活かして序盤から攻勢に立つ仙台は、ここ数試合で自らの首を絞めている先制点を取られるのではなく、早々に取ろうと前に出る。梁にボールが渡ると同時にスイッチが切り替わる仙台の攻撃は脅威だったが、栃木も最近鳴りを潜めていた堅い守備で応戦する。「前半は上手くはめこめて、いいところにボールをつけられた局面が多かった」と落合正幸が振り返る通り、強固な守備ブロックは徐々に仙台の勢いを削いでいく。それが証拠に好機を与えなかった。

しかし、攻撃面でプラスアルファが足りなかった。自陣で過ごす時間が多く、押し込められた状態から前にボールを運ぶには膨大なエネルギーを要するにしても、ビルドアップに時間がかかり、攻撃の形を作り切れなかった。それでも、27分に好機が訪れる。斎藤雅也の縦パスを左サイドから河原和寿がダイレクトでさばき、最後は石舘靖樹がシュートに持ち込んだ。枠を反れるが、シンプルな攻撃は可能性を感じさせた。

　「立ち上がりの10分をきっちり」とはハーフタイムの松田浩監督のコメントである。前々節のサガン鳥栖戦、前節のロアッソ熊本戦を落とした要因は、後半の立ち上がりにあった。何度も同じ失敗は繰り返せないと、この時間帯の栃木の気合いは相当なものだった。仙台がアグレッシブに来ても引くことなく、打たれたら打ち返す逞しさを発揮する。怯むことなく、立ち向かったことが60分の先制弾を生んだことは言を俟たない。ゴール前でのルーズボールを決めたのは大久保裕樹。ＦＷ顔負けのボレーシュートを叩き込んだ。
「2点目を早く取りたいと思ったのかもしれない」とは最後尾からの、ＧＫ武田博行の視点。嵩にかかって攻め崩したかった栃木だが、その思いが強すぎたあまり、空転してしまう。冷静さを欠き、リスキーなパスが目立つ。前掛かりになったところで、サイドのスペースへ流し込まれたパスを起点に、ゴール前へと顔を出した関口にシュートをねじ込まれる。ＤＦの足に当てながらも決めるあたりに執念を感じずにはいられない。64分の出来事だった。

振り出しに戻した仙台は左右の揺さぶりを織り交ぜて主導権を握る。絶え間なく圧力を加え、86分に再びサイドのスペースからゴールを割った。梁の左クロスをニアで途中出場の中原貴之が競ったボールはファーへ流れ、嗅覚を働かせたこちらも途中交代の中島裕希が頭で押し込んだ。栃木としては79分の決定機を逸したことが、逆転弾を招いた遠因となり、苦杯をなめることとなった。

●△と勝点が積み上がらず、足踏みが続いた仙台。ようやく梅雨空に晴れ間が射した。辛勝でも苦境を脱したことで手倉森監督は安堵の表情を浮かべた。前半の攻撃面の不具合、3戦連続して先行される展開は改善点とするも、やはり勝利は格別で会見での表情は終始柔らかかった。首位・湘南が躓いたことで勝点差は2に縮まり、コンサドーレ札幌戦を挟んで、勝点差1の2位・Ｃ大阪との直接対決が控える。「我々が目指しているのは昇格圏内の3位以内ではなく、チャンピオンになること」と言い切る手倉森監督。その思いが選手と共有されていることは強みだろう。逆転勝利での勢いを持続し、テッペンに躍り出たい。そのためには、先手を取っていくことを、「次の試合で表現したい」（手倉森監督）。

今季ワーストタイの5連敗を喫した栃木。「いい守備からのいい攻撃」とチームコンセプトに合致した、思い通りの展開で1点を取るも、その後は「勝ち慣れていない部分が出てしまった」（ＧＫ武田）。落合も経験不足を平常心に欠けた理由とし、「どうしたら相手が嫌がるのか、味方が楽になるのか読み切れない」とゲーム運びの拙さを指摘した。人間は成功体験を案外忘れがちで、痛い経験の方が脳裏に焼きつく傾向にある。試合を引っ繰り返され続ければ、同様の状況に接した際に思考がマイナスに働き、体は委縮する。解決策は僅差のリードを守り抜き、勝ち続けるしかないのだが、分かっちゃいるけど連勝が困難なことから一朝一石には身に付かない。今後も苦難が待ち受けているだろう。ただし、光明がなかったわけではない。忘れかけていたハードワーク、ディシプリンを思い出し、非常に引き締まった試合が出来た。緩みが感じ取れたチームの生命線であるコレクティブな守備は、2失点したのだから取り戻せたとは言い切れないが、回復の兆しは見られた。せっかく好感触を得たのだから、仙台戦を皮切りに湘南、甲府、Ｃ大阪と続く、“トップ4”との連戦でなんとか1勝を挙げたい。そうすれば、必ずチームは一皮むける。何度もチャレンジしている連勝にも手が届き、順位も上げていけるはずだ。気持ちを切らさず、ここからが踏ん張りどころだ。

以上

2009.06.25 Reported by 大塚秀毅