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【J2日記】福岡:福岡への恩返し(09.07.02)

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取材に訪れた日はサテライトチームの練習試合。小川(右)は、ボードを使いながら丁寧に説明していく。25歳の若さながら、福岡J・アンクラスの河島美絵監督からの信頼は厚い。

小川がコーチを務める福岡J・アンクラス(オレンジ)。現在は、Div.2の3位。伊賀、狭山とともに、2位以内に与えられる自動昇格権と、3位に与えられる入れ替え戦出場権をめぐって、激しい昇格争いを繰り広げている。

 自分をサッカーと出会わせてくれた町で、指導者としての第一歩をスタートさせた男がいる。小川久範(ひさのり)。多くのアビスパサポーターが記憶にとどめている、かつてのアビスパ戦士だ。現在は「筑前菓匠 一ひら」で正社員として働くかたわら、なでしこリーグDiv.2に所属する福岡J・アンクラスのトップチームコーチ兼サテライトチーム監督として、選手の指導に当たっている。

 サッカーを始めたのは小学校3年生の時。中学に上がるときに誘いを受けてアビスパ福岡U-15へ加入。その後、アビスパ福岡U-18を経て、2003年にトップチーム昇格を果たした。ユース時代は、U-15、U-16、U-17と年代別日本代表に選ばれ、アビスパの生え抜きとしては初めて日の丸を背負った選手。2001年FIFA U-17世界選手権トリニダード・トバゴ大会にも出場を果たしている。

 残念ながら、プロの世界では才能を開花させることが出来ずに2年で戦力外通告を受けたが、その後、指導者の道を目指して吉備国際大学(岡山)へ進学した。
「アビスパを辞めた時に、自分にはサッカーしかないということに改めて気づいたんです。サッカーでいろんなことを勉強して、人間的にも大きくさせてもらった。だから、ずっとサッカーに関わっていたいなという思いになったんです。そのために指導者になろうと決めました」
 そして今春、卒業を機に福岡に戻ってきた。

 女子サッカーに関わるきっかけになったのは、北京五輪でのなでしこジャパンの活躍を見たことだった。
「選手のときには自分にも『女子のサッカー?』という思いはありました。でも、なでしこジャパンが北京五輪でベスト4に残った試合を見て男子の試合と同じように興奮したし、女子も男子も変わらないじゃないかという思いになりました。それで、女子サッカーに対する偏見を少しでも自分が変えたいなと。実際に女子サッカーに携わってみたら、やはりサッカーはサッカー。サッカーは男子も、女子も、変わりはありません」

 日中はサラリーマンとして働き、夜はアンクラスの練習指導に当たる毎日。そして週末は試合のためにサッカーだけに専念する。1日も休みはない。それでも、毎日が充実していると目を輝かす。そんな彼を突き動かしているのは、福岡へ恩返しがしたいという強い思いだ。
「アビスパを含めて、自分は福岡で育ててもらったという気持ちが本当に強いんです。この町に生まれて、この町で育ったから、人としても、選手としても大きくなれたとすごく思います。だから、福岡に恩返しがしたい。いまの自分にとって、それはサッカーの普及であったり、女子サッカーの発展のお手伝いをすること。とにかく、何かの形で恩返ししたいんです」

 そして、絶対に忘れてはならないのはアビスパのことだと言う。
「忘れちゃいけないのは、アビスパは自分を育ててくれたチームだということ。自分の中にはずっとアビスパというのがあります」
 改めて思い返せば、小川のサッカー人生はアビスパとともにあった。
「僕がまだサッカーを始める前、福岡にプロサッカークラブを誘致しようという活動があって、その時に自分も署名したんです。そして本当にプロサッカークラブが福岡に出来て、気が付いたら中学生のときから自分がそのクラブにいて、ユース年代の日本代表になれて、トップチームにも昇格できた。このクラブがなかったら、本当に自分はなかったと思います」

 そして、これからの夢を話してくれた。
「自分が今まで出会ってきた指導者やスタッフ、サッカーを通して関わってきたいろんな方たちは本当に素晴らしかった。今の自分があるのは、そんな方たちに会えたからこそです。だから、今度は自分が、子供たちを始め、いろんな人たちにサッカーの素晴らしさを伝えたい。そして、今はまだどんな道か分からないけれど、将来は、より高いレベル、より高い意識の集団を率いてみたいという思いがあります。その上で、いつか自分が大きくなって、アビスパの力になれる時がきたら、どんな形であれアビスパに恩返しがしたい。それが僕の夢です」

 夜間照明に照らされたグラウンドの上に小川の大きな声が響く。福岡へ恩返しがしたいという気持ちと、サッカーの素晴らしさを1人でも多くの人たちに伝えたいという思いを乗せた声は、確実に選手たちの心に響いていく。そして、その声がアビスパに届く日がいつかやってくる。その日を夢見て、小川は今日もサッカーボールと一緒にいる。

以上

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2009.07.01 Reported by 中倉一志
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