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強い思いといろいろな出会いから今の自分がある(09.07.02)

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スカパーJSAT株式会社
Jリーグ中継統括プロデューサー
金子 尚文氏


後編では、スカパー!のJリーグ中継統括プロデューサーの金子尚文氏に、視聴者としてサッカー中継を観ていた金子氏が、中継をつくる仕事にたどり着くまでのストーリーを伺った。

前編はこちら





Q:J1J2全試合を生中継、統括プロデューサーである金子さんのプレッシャーは相当大きいのではないですか?

すごく責任のある仕事を任せてもらっています。これは私が視聴者の立場にいたときから、ずっとチャレンジしたかった仕事なので、プレッシャーもありますが、とてもやりがいのある仕事です。Jリーグを全試合生中継するわけですから、ただ映像を送るだけではなく、しっかりとメッセージを届けるのが自分の役割。Jリーグのサポーターやファンを増やしたり、サッカー文化の底上げとなる、言わば「普及」はもちろんのこと、日本の競技レベル向上につながる「強化」も必要です。例えばスカパー!では「シュートを打つことを大切にする放送」に取り組んでいます。中継のなかで解説者が積極的にシュートを打つことの重要性を語れば、中継を観ている視聴者は「もっとシュートが必要だ」と思いますよね。その視聴者はサポーターかもしれないし、選手かもしれない。もしくは10年後のJリーガーかもしれません。スカパー!の中継をきっかけにちょっとずつでも日本人のサッカー観を刺激し、変えていけるんじゃないかと考えています。その結果、日本サッカーの水準向上のきっかけになればすばらしいことかなと。

Q:金子さんのようなサッカー関係の仕事に関心の高い人も多いと思います。金子さんはどうやってテレビを観る側からつくる側に来たのですか?

かなり紆余曲折があったのでちょっと長くなりますが、そもそものきっかけは1998年のフランスワールドカップです。もともとサッカー観戦に夢中になっていた時期で、その前年の大学4年生の時にマレーシア・ジョホールバルでのW杯初出場決定の瞬間を現地スタジアムで体感し、選手達がそれぞれの夢を実現させようとする姿に感動しました。そして、自分もそうなりたいと強く思い、まずは翌年のワールドカップ本大会を絶対に見に行こうと決意したんです。特に日本の初戦のアルゼンチン戦は歴史的な1戦で、行かなかったら一生後悔することになるかもしれないと思いました。

その頃から、いつかサッカーに携わる仕事がしたいと思い始めたのですが、フランスへ行くためという意味と、さらに、自分のサッカーに対する思いを再確認し、それを人に伝える力を身に付けるために、ある出版社の「ワールドカップ読者リポーター募集」という企画に応募したんです。それは、その出版社の全ての雑誌の連動企画で、各雑誌のテーマに合わせて「あなたの思いを800字以内の作文で表現して下さい」という書類審査がありました。「サッカーと音」とか、「サッカーとファッション」というようにいろいろなテーマがあって、私はほぼすべての雑誌に応募し、15テーマくらいの作文を書きました。その結果、「サッカーと音」というテーマの作文が選ばれ、フランスに連れて行ってもらえることになりました。もともとスタジアムの音に関心があったので、他のテーマに比べると自分に合っていたのかもしれません。でも、選ばれたのは第2戦のクロアチア戦だったので、初戦のアルゼンチン戦は結局、自腹で行きました(笑)。

Q:何通も応募して手に入れた読者リポーターの経験がいまにつながっているんですね。

ええ。あのときの経験は大きな財産だと思っています。応募のときも含めて、自分の思いや試合内容を文章にまとめるのはとてもプラスになりましたし、リポートが掲載された雑誌は今でも大切にしまってあります。

帰国すると厳しい現実が待っていました。就職活動を一切しなかった自分には、サッカー関係の仕事はもちろん、何の仕事もありませんでした。ただ、私がフランスに行っている間に、クラシックバレエを教えている母親が「クラシカジャパン」というチャンネルを観たくてスカパー!に加入していて、そこで無料放送していた「ワールドカップだけのための500時間」という特番と出会ったんです。それから大会期間中はNHKのワールドカップ中継と合わせて、夜通し観るようになりました。そのスカパー!の特番には視聴者投稿コーナーがあって、毎日、自分のメッセージや感想をFAXで送り続けました。次第に私のFAXが番組内で紹介されるようになって、嬉しいから更に頑張ってメッセージを送る。そんな暮らしをしているうちにフランスワールドカップも終わり、その特番も終了しました。

Q:サッカー好きには理想的な生活だと思うのですが、その後はどうしたんですか?

サッカー関係の仕事に就きたいという想いはあるものの、特別なコネがあるわけでもなかったので、それからもひたすらサッカー中継を観て、自分なりに試合内容をわかりやすく記録するデータノートを作成する日々でした。「とにかく何かしないと」と思ってノートをつけていたんです。そんな時、例のワールドカップ特番のプロデューサーから電話がかかってきました。「君も視聴者として番組づくりに参加してくれたから、打ち上げ会に来ないか?」というお誘いでした。もちろん、喜んで出席しました。そして、テレビの向こう側にいたサッカー界の人たちとサッカー談義で盛り上がる、まさに夢のような時間でした。

Q:特番の打ち上げがきっかけでスカパー!で働くことになったということですね。

いえ。そんなにうまくはいきませんでした。打ち上げのメンバーに加えてもらったものの、それはその場限り。また観戦ノートづくりの生活に戻りました。今思えば、あのころが一番精神的にきつかったですね。「いつまで観戦ノートを続ければいいか」「この作業が次につながるのか」と悩みと不安は尽きませんでした。そんな時に母親が「サッカーの仕事がしたいのなら、諦めずに頑張ってやりなさい」と励ましてくれたり、「家に閉じこもっての作業ばかりじゃなく、たまには外に出てレッズの練習を見にいってみたら?」と、助言してくれたんです。親はすごく心配だったと思うんですが、同時に理解をしてくれて、とても感謝しています。

すると、6ヶ月くらい経った1999年の春に、あの番組のプロデューサーからまた連絡がありました。「三浦知良(カズ)が移籍したクロアチアリーグの中継をすることになった。君のサッカーに対する情熱と知見は本物だと思うから、その中継スタッフとしてデータマンをやってみないか? 君には高い志と、何より暇な時間がたくさんあるだろう(笑)」と。データマンというのは、中継で使用するデータや情報を集め、出演者やディレクターに提供する仕事です。本当に偶然の出会いでしたし、とても幸運だったと思います。

何の役に立つかわからずにやっていたノートも、ここでやっと活きました。どうすれば他の人に試合内容をわかりやすく紙1枚で伝えられるかを考えながら、フォーマットを試行錯誤して作っていたので、それをベースにして情報をまとめる雛形をすぐ作れました。嬉しいことに私がつくった雛形をいまでも後輩たちが使ってくれています。

Q:激動の展開ですね。当時の金子さんと同じように、サッカー関係の仕事を目指して中継を見つめている読者もいると思います。アドバイスがあればぜひお願いします。

あまり偉そうなことは言えませんが、思いが強い方のチームが最後には勝つような試合、「サッカーの神様がいる」と感じられるような奇跡的な試合って時々あるじゃないですか。あれと同じで、目標に向かって強い思いで夢中になってやっていると、いつか必ず結果が出るというか、神様が微笑んでくれることがあると思うんです。ノートをつけていた頃、先が全く見えず不安が膨らむ一方で、実は見えないだけですごく明るいかもしれない、というワクワクする気持ちもありました。それがあったからこそ続けられたし、いろいろな方にチャンスを頂けて、今があると思っています。夢や目標はまだまだたくさんあるので、視聴者のころの気持ちを忘れずに、そして、今の視聴者の皆さんに満足して頂けて、日本サッカーの普及と強化にもつながる中継を頑張ってつくっていきたいと思います。

*前編はこちら

■Jリーグ全試合生中継!感動のシーンを見逃さないためにもスカパー!で愛するクラブを応援しよう!

以上
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