12月5日(土) 2009 J2リーグ戦 第51節
水戸 2 - 3 湘南 (12:34/Ksスタ/5,500人)
得点者:20' 中村英之(水戸)、21' 森村昂太(水戸)、30' 田原豊(湘南)、34' 阿部吉朗(湘南)、53' 阿部吉朗(湘南)
スカパー!再放送 Ch182 12/7(月)08:00〜(解説:菅野将晃/野々村芳和、実況:田中雄介、リポーター:佐藤愛美/児玉美保)
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試合終了の長い笛が響く。地鳴りのような歓声、突き上げる拳、弾ける笑顔、声にならない嗚咽、スタンドを包む勝利のダンス、雲間から覗く一条の光、そしてあちこちで聞こえる「ありがとう」の声――。
「泣いちゃった」と、坂本紘司が顔をくしゃくしゃにして笑った。「昇格しても泣かない。だって、そこがゴールじゃないから」とシーズン前に口にした言葉を、この瞬間だけは仕舞いこんだ。J2の湘南とともに歩んだ10年という月日の重さが自然とそうさせた。
クールにロッカーへと引き揚げようとする指揮官を選手たちが掴まえる。眼鏡を外そうとする冷静さも、このときばかりは選手たちの歓喜に呑まれたようだ。宙に舞うこと4度、そして眞壁潔代表取締役、曹貴裁コーチの胴上げが続いた。湘南が11年ぶりとなるJ1復帰を果たした。
10試合のロスタイム弾を数える役者揃いのチームの今季は、最後まで劇的だった。前半20分、21分と立て続けにゴールを奪われ、よもやのビハインドを背負う。前から積極的に仕掛けていたはずのディフェンスも、水戸の攻勢に後手を踏んでいく。「どうしようかと思った」と、誰しもが吐露する序盤だった。
だが反面、これもまた勝負の綾といえたかもしれない。「2点取られて吹っ切れた」という言葉は、硬さの否めなかった選手たちの偽らざる気持ちだったろう。村松大輔やジャーンが敵の2トップを封じ込め、攻撃のリズムもスムーズに刻まれていく。振り返れば失点の前にも、縦へ縦へと繋ぐ中央突破から臼井幸平のクロスを経て、ペナルティエリアに4人が進出する場面があった。あるいは敵を背負った坂本が、簡単に下げるのではなく臼井のオーバーラップに繋げ、田原豊のフィニッシュまで持ち込んだシーンもある。ゴールに向かういつもの姿勢は随所に散りばめられていたのだ。
途切れることなく、むしろ厚みを増したホームのごとき応援のなかで湘南の追撃は始まった。田原のキープを機に5人がゴール前に大挙した攻撃の直後、寺川能人のクロスに阿部吉朗がヘッドを合わせる。GK本間幸司がいったんは阻むが、こぼれ球に反応した田原が右足を豪快に振り抜いた。「俺も点を取らないと」と戦前、微笑いつつも意欲を見せていた田原による30分のゴールである。
追撃は止まらない。34分、寺川のフリーキックに対し、阿部が巧みに相手DFの前に出てヘッドを振る。前半のうちに振り出しに戻したことは大きかった。阿部の同点ゴールを導いたこのフリーキックは、アジエルと阿部を介し、坂本が左サイドを駆け上がって手にしたものだ。田村雄三と臼井が数的不利のなかで奪った直前のシーンも見逃せない。
しかし追いつかれた水戸も、攻撃の手が緩むことはなかった。前半終盤にはロングボールを契機に、また後半開始直後にも角度のないところから荒田智之がゴールを脅かしている。野澤洋輔の鋭い反応に加え、クロスバーやポストも幾度か湘南に味方した。そうして水戸の攻撃を水際で食い止めた湘南は53分、ゴールによって流れを覆した。高い位置で奪ったのち、中央の田原を経由して右サイドの坂本にボールが渡る。坂本のクロスに大外で反応したのはふたたび阿部だった。「一生懸命やっていれば結果は付いてくると思ってこれまでやってきました。練習で取り組んできたことをすべてピッチに置いてこようと思っていた」。叩きつけたヘディングシュートは、力強くゴールを射抜いた。チームの今季ファーストゴールを挙げた男による、84得点目である。
水戸のセットプレーには迫力があった。反面、後半20分を過ぎたあたりから足が止まり始めたことは否めない。一方、たとえばオーバーしたクロスに対し、田原が諦めることなく追いかけライン際で拾ったように、湘南の選手たちは走り続けた。両者のコントラストは、湘南が一貫して築いてきた姿勢を浮かび上がらせていた。寺川のバトンを受けた永田亮太も、また「小さいころJ1だったベルマーレが上がるのはメチャクチャうれしい。なんでもいいから勝利に貢献したいです」と語っていた猪狩佑貴も時間に関係なく同化した。それが、自力で昇格を果たした彼らの地力だった。
反町康治監督が冷静に振り返る。「自分たちのやってきたことを信じて、隣りにいる仲間を最後まで信じあう。自信と信頼感、1年間やってきた集大成として、最後の笛が鳴るまで闘った」。いわゆるバイタルエリアを封じた田村は前半、同点としたのち、仲間にこう声を掛けたという。「2-2で振り出しに戻った。大丈夫。自分の思いどおりにプレーしよう。俺たちが抑えれば、前が必ず応えてくれるから」と。
そして指揮官はもう、先を見据えている。「最後の笛とはシーズンの最後の笛であり、J1に行ける笛だ」。眞壁代表取締役も昇格報告会で力強く言った。「いままでよりももっと急な坂道を登っていく。厳しいときもあるでしょう。でもこんな素晴らしいこともあるんです。みなさん、仲間として一緒に新しいベルマーレをつくっていきましょう」。
笛が鳴るまで向かい続けたゴールは、新たな始まりを意味していた。気骨溢れる暴れん坊の冒険は、この先もずっと続いていく。あの場所――そう、J1という舞台で。
以上
2009.12.06 Reported by 隈元大吾













