4月23日(土) 2011 J1リーグ戦 第7節
川崎F 1 - 2 仙台 (14:05/等々力/15,030人)
得点者:37' 田中裕介(川崎F)、73' 太田吉彰(仙台)、87' 鎌田次郎(仙台)
スカパー!再放送 Ch185 4/24(日)後07:00〜
☆totoリーグ |中断期間を振り返るJ1編
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これほどまでに劇的な試合展開がありうるのかと、うならざるを得なかった。勝点1を分けあって、健闘をたたえ合う試合後の両チームの選手の姿が脳裏をよぎり始めた87分の事だった。梁勇基からのFKをゴール前の鎌田次郎の頭が完璧に捉える。頭ひとつ抜けだした鎌田のヘディングシュートは「そんなバカな事が?」との魂からの叫びを引き連れて、ゴールネットへと吸い込まれていく。「そんなバカな事」が現実のものとなった仙台サポーターの歓喜の声がスタジアムを満たした。
試合直後のTVインタビュー中に手倉森誠監督は、感動で言葉を詰まらせていた。それほどのまでにドラマチックなゴールを決めた鎌田は、ゴールの場面を振り返る時、この試合を象徴するような言葉を口にする。ゴールを決めた後になって、鎌田は場内の電光掲示板にある時計を確認したのだという。
「ゴールした後に時計を見たらあと3〜4分くらいで、もうそんな時間なのかと思いました」
彼はあのゴールの瞬間まで、経過時間を意識していなかったのである。時間の感覚がなくなっていたのか、時間を確認する余裕がなかったのか。いずれにしても、彼は後半の残り時間を意識する暇もなく、死に物狂いでプレーを続けていた。それが、もしかしたら気迫というものの正体であるのだとすれば、この日の仙台は気迫に溢れるプレーを見せ続けていた。気持ちで、川崎Fを圧倒していた。
ただ、だからと言って、試合前の川崎Fが主導した復興支援のイベントについてとやかく言うつもりはない。この仙台戦の試合前に川崎Fのサポーターグループである川崎華族によって配布された通称「みんなのチラ裏」に、川崎Fサポーターと仙台サポーターとの交流の歴史が掲載されている。それによると、もっとも古い日付は2001年6月17日。しかしこれはあくまでも記録に残された交流であって、実際のところ川崎華族にも交流のきっかけがなんだったのかが分からないのだという。いずれにしても、コアサポーター同士の10年を超える付き合いもあり、この日の試合前の川崎Fらしさ漂う感動的かつ感傷的なイベントは成立していた。
考えてみると、被災地とそれを支援する側との境目がただ単に運だったという現実を、ホストであるところの川崎Fは理解していた。だからこそ、ベガルタ仙台を同じ日本に住む同胞として意識し、数々のイベントで受け入れたのである。そもそも川崎Fは復興支援のキャンペーンをMind-1ニッポン・プロジェクトと命名。そのプロジェクトの一環として、この日行われたイベントがあった。そうしたバックグラウンドを念頭に置いておかねば、この試合における川崎F側の姿勢を理解することは難しい。
試合は膠着状態にも似た展開で推移していく。中断期間中の練習試合を経て、仙台は4−3−3のフォーメーションを選択。角田誠をアンカーとした中盤は、高い守備意識を見せる事となる。そうした戦いに加え、アウェイでの戦いである事が彼らに有利に働く。手倉森監督は試合前「注目されているゲームで、注目されているチームとして、こうやってアウェイからスタートするのは我々のアドバンテージである」と選手たちに話している。すなわち「アウェイの戦い方をきっちりする事。コレクティブに手堅い守備から隙を突くというやり方を、心がけてやれたからです」と説明する。平たく言えば、守備に意識を割けるという事である。
守備に枚数を掛ける相手に対し、ノッキングを起こす川崎Fをこの中断期間中の練習試合で何度か目撃してきた。それらの情報を仙台が手に入れていたのだとすれば、この日の仙台のゲームプランはまさに川崎Fを下すために遂行されたものだった。これまでの練習試合がそうであったように、堅い守備を敷く仙台に対し川崎Fはフィニッシュへの手がかりを無くしてしまう。
シーズン当初から縦への意識を高めてきた川崎Fにとって、横パスやバックパスはおそらくは心理的に難しいパスとなっている。結果的に縦パスが増える事となるが、そうして出されたパスは精度を欠くものとなりがちだった。そんな川崎Fについて関口訓充は「前半に向こう(川崎F)がプレスを掛けられたらつなげない事は分かっていました」と証言。いくつかの要因が折り重なる中で、仙台が川崎Fボールを組織的に奪う構図が出来上がっていたのである。
そうした仙台を相手に苦しむ川崎Fではあったが、さすがと思わせられたのが37分の先制点だった。中村憲剛からのパスを、登里享平が絶妙なタッチで縦につなぎ、山瀬功治へ。ペナルティエリア内に走りこんだ山瀬がルックアップした先に田中裕介が走りこんでおりグラウンダーのマイナスクロス。田中裕介がこれをダイレクトで蹴り込んで川崎Fが先制点を奪う。
前半わずか3本のシュートで1点を奪った川崎Fは、心理的な優位性を持って後半を戦えるはずで、実際にそうした展開となる。1点リードというマージンを手にした川崎Fは、リスクを管理しつつ丁寧な試合運びを見せる。攻撃にあたってはバランスを考え、ボールを失った際の切り替えで仙台の機先を制し続けた。
後半の仙台をシュート0に抑えこみつつ試合を進めた川崎Fにとってこの試合は勝ち試合だった。それは開口一番「もったいなかった」とつぶやいた中村の言葉に集約されている。十分に勝機のある試合だったとの認識を持ったとしても不思議ではない試合展開だったのである。しかし、試合は思いがけない展開を見せはじめる。スタジアムを埋めた仙台サポーターの声と、その声の背後にある思いを背に受けて、走り続けた仙台が逆襲を開始する。
67分。川崎F陣内に走りこんだ太田吉彰が小宮山尊信にブロックされて倒れ込んでしまう。胸を強打したのかと思えたが試合後の太田は足を吊らせていたと明かす。
「通常であればやめていたと思います。ただ、足が攣っただけでは代われなかった。筋肉が切れてもいいから、続けようと思っていました」
そこまでの覚悟を太田にもたらしたのは、被災地の信じられない光景であり、未だに避難所での生活を強いられる被災者一人ひとりの顔であり、落命した数多くの被害者の存在だった。73分に同点ゴールを決めたその太田は、攣った足の痛みもありピッチに倒れ込んだまま喜びを爆発させる。「足が攣った痛さよりもうれしさが上回っていました。ホントにラッキーでした。きれいなゴールではないかもしれないですが、それでもゴールはゴールなので」と話す太田は結局そのまま交代。極限状態にまで体を追い込み、執念でゴールネットを揺らしたのである。
この日の仙台について、その高いモチベーションについて証言する言葉は少なくない。足をつらせた太田のエピソードはもちろん、残り時間を確認する事もできなかった鎌田の件もそう。また試合後の相馬直樹監督は「本当に気持ちの面で、負けることがないようにという話を選手たちにして、そういう中で臨んだんですが、同点ゴールにしても、最後のところにしても、相手の執念、勝ちたい気持ちに上回られてしまったのかなというふうに感じます」と脱帽するしかなかった。
試合前に手倉森監督が口にし続けた「希望の光」という言葉は、その言葉のイメージとはかけ離れた仙台の選手たちの泥臭さによって現実のものとなった。大きすぎる悲劇を伴った今回の震災は、本質的に重さを伴うものである。ただ、その悲劇を背負いつつも、それを重荷と感じさせなかった手倉森監督のチームマネージメントがこの劇的な逆転勝利をもたらした。そして全国からの思いが、選手たちを鼓舞した。
「東北の、被災地の我々のチームに対しての日本全国からの思いというのがね、あのボールに乗り移って、勝たせてもらったのかなと思います」(手倉森監督)
仙台の選手たちは「重さ」を戦いへの推進力へと昇華させ、自らの足が壊れることを厭わずに走り続けたのである。
「仙台から来られなかった人たちは、勝てたことを聞くしことしかできない人も多いと思う。そういう人たちが試合結果を聞いてくれて、それで希望をあたえられれば嬉しいですね」(太田吉彰)
「勇気が与えられたのかどうかはわからないが、何でもいいので何か感じてもらってこれからの希望になってもらえればうれしいですね。目標がないと人生はつまらないから、これで俺達も、と思ってもらえればいいと思います」(鎌田次郎)
目には見えることのないはずの「希望」が具現化した、そんな試合だった。
先制した川崎Fは、後半に集中力を欠き逆転負け。仙台は復興への思いを胸に戦い、後半2本しか放てなかったシュートを2本ともゴールにつなげ苦手の等々力での初勝利を手にした。
以上
2011.04.24 Reported by 江藤高志
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