5月14日(土) 2011 J1リーグ戦 第11節
広島 3 - 2 横浜FM (15:04/広島ビ/17,004人)
得点者:17' 李忠成(広島)、33' 李忠成(広島)、43' 中澤佑二(横浜FM)、67' ムジリ(広島)、69' 中村俊輔(横浜FM)
スカパー!再放送 Ch182 5/15(日)深01:00〜
☆totoリーグ
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絶対的な守護神が、動揺していた。
43分、中村俊輔のCKを弾こうと飛び出したのに、ボールに触ることもできずに中澤佑二に叩き込まれた。69分、自らの正面に飛んできた中村のミドルを後ろにそらしてしまった。
「自分の責任だ」。西川周作は自らを責めた。絶対に挽回したかった。取り返したかった。だが、気持ちは空回りするばかり。
74分、ハイクロスが広島のゴール前に入ってくる。前線には、193センチの巨漢=キム・クナンをはじめ、180センチを超える選手たちがズラリ。危ない!
西川、飛び出す。これぞ、自分のプレーだ。だがDFと交錯し、キャッチできない。こぼれた。危ない!!
オフサイドだ。救われた。だが、西川は自分に対して、苛立つ。
うまくいかない。なぜだ。なぜだ。
その時、中島浩司がスッと近づいた。
「それでいいんだ。思い切って、続けてやってくれ」
奈落に落ちかけた背番号1は、この言葉に救われた。
「そうだ。俺は、俺のプレーを最後までやりぬけばいいんだ」
ハイボールがどんどん飛び込む。だが、西川はもう、迷わない。飛び出した。キャッチした。一人少ない状態でも身体を張って守り続ける仲間たちを励まし、鼓舞し続けた。
88分、中村俊輔のハイボール。ターゲットはキム・クナンだ。盛田剛平が跳ぶ。だがキムは競りにはいかず、後ろに下がった。その足下に、盛田がクリアしたボールが落ちてきた。フリーだ!
シュート。盛田、跳ね返す。ボールは上空に舞った。前線にあがっていた栗原勇蔵とミキッチの競り合い。身長で7センチ勝る栗原が勝った。ボールがゴールエリアの中に落ちる。渡邉千真がいた。フリーだ。完璧なビッグチャンス。同点か。
その瞬間、西川の全身に120%のパワーが行き渡り、まるでピューマのような俊敏さで、ボールに飛びかかった。そこに微塵の逡巡もない。ミスを犯しても自分を支えてくれた仲間のために、西川は激突の危険を顧みずに、飛び込んだ。クリアだ!背番号1、咆哮!まるで黒沢明の映画のようなスペクタクルに満ちた無敗同士の激闘は、苦しみ抜いた西川のビッグセーブで、大団円へと向かった。
ミキッチのクロスを佐藤寿人がシュートではなく「落とし」を選択し、李忠成の強烈なゴールを引き出した先制点が幕開け。33分、瞬間の駆け引きで中澤佑二を置き去りにした李忠成の2点目が飛び出した時、神様は「広島完勝」でという脚本を描いたのかとすら、感じた。
だが横浜FMには、主役中の主役=中村俊輔がいる。43分、精度・スピードともに完璧なCKで中澤の追撃弾を引き出す。李の2得点を「起」とすれば、中村演出の得点は「承」だ。
後半、木村和司監督は高さと運動量のある谷口博之を前線にあげ、3トップに変更。中村と兵藤慎剛がその下でにらみを利かせ、小椋祥平を1ボランチに。この布陣変更によって前線のプレスは迫力を増し、中村を起点としてパスが回り始めた。
60分、途中出場のキムが突破にかかる。マークしていた森脇良太、引っ張ってしまった。得点機会阻止。一発退場だ。ペースは完全に横浜FMへと移った。シナリオは、「転」の段階に入った。
だが神様の脚本は、「転」をもう一度繰り返す。そのきっかけは、森崎和幸の知性と技術。67分、クロスに反応したキムがトラップして足下に落とすプレーを完璧に予測してボールを奪った森崎和は、クリアせずにボールを前に持ち出す。この判断もまた、頭脳的だ。そして相手のプレスを風のように受け流して時間をつくり、前線の李忠成にピタリと合うロングパスを放つ技術の凄さ。この森崎和のプレーが完璧なカウンターを創りだし、李のパスを受けたムジリのテクニカルなゴールを導いた。1人少ない広島が3点目を奪う。思いがけないストーリーに、ビッグアーチは熱狂する。
その2分後、ミスから2点目を献上してしまった西川がもし立ち直れなかったら、脚本は勝点3を横浜FMに与える結末となったはず。180センチ以上の選手が5人も広島ゴール前になだれ込み、ハイボールを放り込む横浜FMの攻撃は迫力満点。しかし、その攻撃を跳ね返す中心には、中島の一言をきっかけに心の安定を取り戻した西川が、確かに君臨した。その現実が、シナリオの結末を決めたのだ。
試合後、サポーターの前に立った西川は、「4」が染め抜かれた旗を掲げ、「ミズモトッ」と叫ぶ。佐藤寿人・森崎浩司・ミキッチ・山岸智も同じ旗を掲げて声を振り絞り、サポーターが呼応。大きな「水本コール」がスタンドを包んだ。病室でテレビを見ながら声援を送っていた水本に、そのコールは届いただろうか。いやきっと、届いたはずだ。そう信じられるだけの「団結力」(西川)が、今の広島を支えている。
以上
2011.05.15 Reported by 中野和也













