☆ヤマザキナビスコカップ特集ページ
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代表で3人、負傷者が5人。レギュラーを争える選手を8人も欠く状態で、広島は闘わねばならない。しかも相手は、過去の公式戦で4勝6分10敗、ここ2年間では1分3敗1得点13失点と圧倒的に分が悪い川崎F。ネガティブな材料を探せば、山ほどある。
しかしそれでもなお、「やれるのでは」という楽観論を否定できない。その理由の一つは、いわゆる「谷間の世代」の充実だ。
「谷間の世代」とは、かつてアルゼンチン・ワールドユース世代を揶揄するために使われた造語。過去3大会続いていたワールドユース決勝トーナメント進出を彼らが果たせなかったことから、この屈辱的な名前が定着した。代表的な選手としては、前田遼一・駒野友一(共に磐田)、阿部勇樹(レスター)、大久保嘉人(神戸)らがあげられる。
広島の今季の躍進は、森崎兄弟や佐藤寿人、山崎雅人ら「谷間の世代」の頑張りを抜きにして語れない。山崎はベンチスタートが多いが、勝っている時も1点が欲しい時も、その状況に合わせたプレーを全力で披露してチームに貢献。その頑張りをペトロヴィッチ監督に評価され、明日の川崎F戦では先発起用の可能性が高い。佐藤は今季のゴールこそまだ2点だが、「チャンスに顔を出すことが重要」と指揮官が語るように、得点にはしっかりと絡んでいる。周囲を活かしてチャンスを広げながら自身も得点に関わっていく円熟味のある動きと共に、前線からハードワークして攻守に頑張りを見せる姿は、まさにキャプテンだ。
そして誰よりもまばゆい輝きを放っているのは、森崎和幸・浩司の双生児Jリーガーだ。ここ2年、二人を共に重い病が襲い、プレーどころか通常の生活すら送れない日々が続いた。だが、引退の危機に直面し、サッカーを続けることすら危ぶまれた苦難を奇跡的に乗り越えた二人に、神様は持ち味の技術に加え、力強さをプレゼント。「今のチームの肝は森崎兄弟。守備もすごいし、ボールも失わないし、走ればいいパスが出る。日本代表に選ばれても、まったく不思議じゃない」と李忠成が絶賛するほどのパフォーマンスを見せつけている。
確かに主力不在は厳しい。「広島は誰かに頼ったサッカーではない」(ペトロヴィッチ監督)ことは確かだが、一方で「主力が3人抜ければ、違うチームになる」(ヴァレリー元広島監督)という現実も、無視できない。ただ、まるで予知能力を持っているかのような読みと強靭な守備でボールを奪い、最終ラインから試合を創る森崎和幸と、パスの緩急をつけ強烈なミドルシュートとスルーパスで試合を決定づける森崎浩司の二人が健在である限り、広島のサッカーは持ちこたえられる。
「今年の川崎Fのサッカーは、規律を重んじ、ハードワークしてくる。これまでのような華やかさは欠けるかもしれないが、前線のアタッカー陣にはスピードがあり、中村憲剛という素晴らしい選手がいる。非常に厳しい試合になることは、間違いない」とペトロヴィッチ監督は警戒する。ジュニーニョや黒津勝という「広島キラー」たちがケガのために出場が難しいものの、鹿島・C大阪・G大阪という強豪3連戦で合計8得点をたたき出した破壊力は本物だ。特に今オフ、広島も獲得に乗り出した山瀬功治が上り調子。ドリブルでサイドから切り込み、決定的な仕事を果たす彼の能力の高さは、同世代の森崎兄弟は肌身に染みているはずだろう。
「ただ、川崎Fも前節の鹿島同様にいいチームだけど、今の僕らは相手のことはあまり考えていない。全ては自分たち次第。自分たちがしっかりとやれれば、相手どうこうは関係ない。主力がいないと言われるけれど、替わりに入る選手たちの多くも、これまで試合に出ていた経験豊富なメンバーだから」
こんな言葉で、森崎浩司は自信を表現。また、かつて川崎Fキラーと呼ばれた佐藤寿人も「今季はネガティブなジンクスをずっと打ち破ってきて、あとは川崎Fだけ。僕も最近は川崎F戦で(ゴールを)お休みしているし、そろそろ川崎Fのサポーターに嫌われるように頑張りたい」と腕を撫す。
結果はどうあれ、明日の試合だけで勝ち上がりは決まらない。7月27日の等々力決戦にむけて有利になるような「前半」の90分を過ごせるか、それが第一ポイント。ただ広島にとっては、主力不在の状況で川崎F相手に結果が出せれば、今後に向けて大きな弾みとなる。個々の選手にとっても、自分の力を指揮官に示す大きなチャンス。様々な意味がこもった今季のヤマザキナビスコカップ初戦は、明日15時、広島ビッグアーチでキックオフだ。
以上
2011.06.04 Reported by 中野和也













