あと２点。カウントダウンの真っ只中にあるのが、佐藤寿人の「Ｊ１通算１００得点」だ。

サッカーの場合、野球と比較して個人の記録で騒がれることはそれほど多くはない。サッカーとは本当の意味でのチームスポーツであり、チームあっての個人である。ただ、だからこそ、こういう明確かつ偉大な記録に対しては、素直に敬意を表したい。

過去、この記録を達成している選手はわずか９人。日本人では５人しか達成していない。しかも彼の場合はＪ２でも50得点をゲット、Ｊ１通算100得点＝Ｊ１・Ｊ２通算150得点ということになる。これは、中山雅史（札幌）・三浦知良（横浜ＦＣ）・ジュニーニョ（鹿島）の３人しか達成していない偉大な記録だ（中山はＪ１だけで157得点）。「自分が（Ｃ大阪・仙台・広島で）Ｊ２で闘うことを選択したわけだし、僕にとってＪ２の得点は、Ｊ１と同じ価値があると思っています」と佐藤自身も語っているように、（参考記録となる）Ｊ１・Ｊ２通算１５０得点という記録に、彼は大きな誇りを持っている。

シーズン前、記録について問われた時には「あと１点ということになれば、さすがに意識してしまうかも。過去に（１００得点を）とった人の話を聞くと、そこで“見えない何か”があると教えてくれたので」と話していた紫のエース。実際に「あと２点」というところまでこぎつけたが、「まだ実感はないですね。今はチームの勝利のことしか、考えられない」と今日の練習後に語った。一方で、「もし１点とれば試合中に“あと１点”という状態になる。もしそうなれば、きっとチームのみんなが取らせてくれますよ」と笑う。

佐藤は今季、これまでになくいいコンディションで開幕を迎えている。公式戦５試合で４得点という実績だけでなく、第４節のＦ東京戦で、ＤＦを一瞬にして二人も置き去りにした「寿人スペシャル」というべきゴールを決めたことでも、証明できるだろう。
森保一監督は佐藤の好調について「チーム全体の状態の良さが影響している」という前提の上で、こう付け加えた。
「僕が一緒にプレーした（２００３年仙台）の時よりも、格段に上手くなっている。それは寿人が自己分析能力に長け、どうやれば自分がさらに成長できるかを追求しているから。クレバーだし、やり続けることができる能力を持っている。今は守備もすごく頑張ってくれているし、偉大な選手に成長してくれています」
一方のＧ大阪にしてみれば、絶対に佐藤の１００得点達成を阻止せねばならない。彼の記録達成はすなわち、勝利への通行手形を広島に与えるようなものだからだ。

松波正信新監督就任初戦の新潟戦で引き分け、ＡＣＬでは３得点を奪って勝利。しっかりと中盤を支配して攻撃する本来の「Ｇ大阪スタイル」に回帰し、やるべきことが明確化されようとしている現状は、間違いなく上向き。開幕から受けた屈辱を跳ね返すべく勝利に飢えている状態をミキッチは「怪我をしたライオンがもっとも危険」と表現し、警戒を怠らないように訴えている。

ただ、現実としてＧ大阪はまだ、リーグ戦未勝利。「早く１勝が欲しい」と考えるチームにとって、もっとも怖れるのは先に失点すること。今季の広島は、ここまで４試合中３試合で完封勝利を達成するなど、守備の安定感は抜群。好調を維持していたＦ東京も、広島のブロックの前に最後まで決定機をつくることができなかった。そういう相手に先制点を与えてしまえば、なおさらやっかいになる。まして佐藤に記録達成の歓喜を与えるようなことになれば、広島には勇気を、Ｇ大阪には失望を与えることにつながるだろう。

もちろんＧ大阪のスタイルは「攻撃」ではあるが、リーグ最多タイの８失点という現実を見つめれば、まずは失点しないこと。そのために、佐藤を抑えること。それがＧ大阪復活への大きな足がかりとなるはずだ。

佐藤寿人とホットラインを構築し、ヤマザキナビスコカップ・川崎Ｆ戦でも見事なクロスでエースの得点をお膳立てした青山敏弘は言う。
「明日、寿人さんは（通算１００得点を）決めると思いますよ。ホームで決める。そういう選手ですから」
青山の言葉が現実となる可能性も、今のエースの状態ならば決して低くはないだろう。歴史的な瞬間を待つ高揚感は、そんなに体験できるものではない。ぜひスタジアムで、その空気を体感してほしい。明日の夜、広島ビッグアーチは、どうやら雨の心配はなさそうだ。

以上

2012.04.06 Reported by 中野和也